韓国NGO 視察レポート

最近NGO仲間で良く言われることだが、日本に比べて、韓国市民のNGO活動への関心は高いようだ。これには、民主化運動を経験した市民が、自分たちの力で社会を変え得ることを知っているといった社会的な背景も関係しているらしい。10月末、韓国最大級の環境NGO、Korean Federation of Environmental Movement(以下、KFEMという)を訪問することになった(2001年10月29日~31日)。訪問中、ハングル語の全く理解できない私たちを全面的に助けてくれたのは、KFEMの企画担当で、日本語が堪能な李忠植さんである。2泊3日のあわただしい訪問ではあったが、貴重な話を聞く事ができたので、その概要を報告する。

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韓国NGO(KFEM)視察レポート(2001年10月)

1.視察の概要

(1)目的

当会のこれからの組織運営のあり方に関する検討の一助とするため、韓国最大級の環境NGO、Korean Federation of Environmental Movement(KFEM;韓国環境運動連合)を訪問し、主として会員拡大および財政基盤の強化に向けた取り組みについて、ヒアリング調査を行った。

(2)日程

2001年10月29日(月)~31日(水)

(3)訪問先

Korean Federation of Environmental Movement(KFEM;韓国環境運動連合)

(4)視察を行った者

環境文明21専務理事藤村コノヱ
環境文明21丸山 直美
環境文明21関西グループ宮本 光晴

2.KFEMの概要

(1)概要

Korean Federation of Environmental Movement(KFEM;韓国環境運動連合)は、韓国社会に大きな影響力を持つ韓国最大級の環境NGOで、民主化運動のヒーローであるチュ・ヨル氏が事務総長を務める。KFEMの活動は、大型ダムの建設反対、干潟保全、生物多様性の保全、野生生物の保全、反原発、気候変動および代替エネルギー、人権、平和、女性問題 等々、非常に幅広く、環境に主眼を置きつつも、多様な市民のニーズに応える社会運動として展開している。

(2)会員

1)会員数(2001.9末現在)

○全国    80,841人
○ソウル支部 45,925人(参考:ソウル市の人口 約110万人)

2)会員数の推移

会員向けの活動を強化した1997年以降、会員数は飛躍的に増加した。2002年末には、10万人を突破する見込み。

会員数の推移

1995年6,000人
1996年7,000人
1997年12,000人会員向けの活動を強化
2001年80,000人98年~2001年の間に急増

3)一般会員の区分と会費

様々な会費区分を設定して、多様なニーズに応えている。会費は口単位で受け付けており、入会から2~3年後には、電話などで口数を上げるお願いをしている(ボランティアが協力)。

区   分  会費/月(一口)
個人 一般 10,000ウォン
子ども(小学生以下) 2,000ウォン
学生 3,000ウォン
家族 15,000ウォン
企業 30,000ウォン
団体 50,000ウォン
特別会員 10,000ウォン
20,000ウォン

※このほかに、入会金3,000ウォン
※一般会員のほかに、永久会員(個人・団体)という区分がある。
※特別のプロジェクトを支援する「特別会員」がある(個人のみ)。例えば、ノーゴルフ、環境政策、反ダム、国立公園を愛する会 等々。会費は支援するプロジェクトによって異なるが、1万ウォンもしくは2万ウォン(月会費)。

(3)年間予算

1)年間予算

○約54億ウォン(約5億4千万円)

2)収入構造

活動を支える資金源は、会費収入が約5割と最も多く、次いで、コンサートや講演会からの収入、プロジェクト収入となっている。このほかにも、約8万人という会員数と社会的な影響力を存分に活かし、様々な方法で資金づくりを行っている。これらは、金額としては必ずしも大きくはないが、KFEMを広く知ってもらう機会にもなっている。

(4)組織

1)中央と支部

ソウルに中央の事務所があるほか、全国に47の支部がある(現在、4支部が設立準備中)。

2)附設機関

活動の専門性を高めるために6つの附設機関を設置している(エネルギー、研究所、資料室、法律、教育、出版)。各附設施設とも、財政と運営はKFEMから独立しており、社団法人としての法人格を有する。

3)委員会

専門家集団からなる委員会が、活動を側面から支えている。

(5)スタッフ

常勤スタッフ250名(中央およびソウル支部42名、附設機関31名、支部組織177名)


3.会員拡大に向けた様々な取り組み

KFEMの会員が多い理由の一つには、民主化運動のリーダーである事務総長のチュ・ヨル氏の存在が挙げられる。チュ・ヨル氏は、各方面に幅広い人脈を持つだけでなく、ラジオ番組に出演するなど一般市民への知名度も高い。チュ・ヨル氏が率いる団体だから支援しよう、会員になろうという人も多いらしい。しかしKFEMでは、こうした現状に対して、強い危機感を抱いており、会員拡大に向けた様々な取り組みを行っている。

(1)会員拡大のための組織を特別に編成

中央および附設機関の活動家(=スタッフ)73名のうち、会員拡大のための専従は10名。会員が200名増えると活動家1名を雇える。

(2)全てのスタッフが、会員拡大に精力的に取り組む

会員を増やすことは、活動家としての証のようなもの。まずは、友人・知人等の個人的なつながりから、新規会員を発掘。

(3)活動の分かりやすさ

多くの人に知られていない重大な問題について、有名人を起用したり、ユニークなアクションを行うなど、分かりやすくビジュアルな方法で訴えることで、多くの市民の共感を得ている。

(4)会員に様々な特典を提供

1)一般会員向けの雑誌の送付に加えて、

2)エコキャンプの参加費が30%割引になる(学生・小学生)

3)コンサート(年2回)に無料招待

4)他団体のイベント等にも割引価格で参加できる

5)資料室が利用できる

6)ホームページのログインIDを付与され、一般に公開されている情報とは別に、会員向けの質の高い情報にアクセスできる

7)KFEMに納めた会費および寄付金は、所得税の控除が受けられる(企業・団体・一般)

(5)会員向けの活動を強化

1997年に方針を大きく転換し、会員が地域で行いたいと思う活動に積極的に関わるなど、会員向けの活動を強化した。10万人の会員がいれば社会を変えることができるという目標を設定したことで、会員の大切さが以前より増し、「会員拡大」自体が活動の目的の一つとなった。

(6)市民の抵抗感を取り除くために工夫

市民のNGOに対する抵抗感を緩和させるために、様々な配慮を行っている。

(7)様々な方法による広報活動

マスコミ、インターネット、ダイレクトメール、街頭キャンペーンなど、様々な方法を駆使して、広報活動を行っている。広報では、活動の内容を誇張することなく、正確に伝えることを特に留意している。また、コストを押さえつつ効果的な広報を行うために知恵をしぼっているようだ。

1)広告の交換

日本で言えば『週刊金曜日』のような新聞とKFEMの機関誌とで、広告を相互に載せ合っている。

2)ラジオCM

ラジオ局で働く元活動家の協力により、毎日夕方6時、ラジオCMを流している。

3)インターネット

インターネットを通じた会員募集を積極的に展開している。活動を十分に理解してから入会するため、最近は、インターネットからの入会が安定的な会員層となっているという。ⅰ)活動についての正確な情報提供
ホームページでは、KFEMが各分野でどんな活動をしているか、会員から集められた会費はどのように使われているかなど、誇張することなく正確に情報を提供している。

ⅱ)会員のニーズを満足させる情報提供
これまでは人々の義務感に訴えてきたが、これからは情報を発信することで情報の取引をベースとした会員との関係を築きたいと考えている。そのためには、インターネットの利用者が何を知りたがっているか、マーケティングが非常に重要となる。今後は、専門性の高い情報を望むユーザーの期待にも応えていく予定。

4)バナー広告

エブリジョンというプロバイダーの協力により、会員募集のバナー広告を載せている。広告制作費は負担しているが、その他の費用は無料。そのかわりKFEMは、エブリジョンのホームページに環境関係のコンテンツを無償で提供している。

5)ダイレクトメール

ダイレクトメールを送付して手元に届いた頃、電話をかけて勧誘している。送付先は、専門家や企業、環境に関連のある公務員 等。

(8)会費の支払方法を簡便化

会員は、以下のいずれかの方法により、会費を月毎に支払っている。会員の会費を支払う手間を軽減するために、請求書での支払いを減らし、Eメールおよび携帯電話から会費を支払う方法も準備中である。なお、毎月の請求処理は、DM会社に委託して行っている。

※ 3ヶ月以上会費未納の場合は本人に連絡


4.財政基盤の強化に向けた取り組み

大きな組織を維持し充分な活動を展開するには安定した資金調達が不可欠なことから、KFEMではそのための専門スタッフを配置している。KFEMの年間予算は約54億ウォン(約5億4千万円)だが、活動を支える資金源は、会費収入が約5割と最も多く、次いで、コンサートや講演会からの収入、プロジェクト収入となっている。このほかにも、約8万人という会員数と社会的な影響力を存分に活かし、次のような様々な方法で資金づくりを行っている。これらは、金額としては必ずしも大きくはないが、KFEMを広く知ってもらう機会にもなっている。

(1)講演会やコンサートなどの開催

各方面からの講演依頼を積極的に引き受けている(事務総長のチュ・ヨル氏への依頼が大半だが、他の活動家への依頼も多少ある)。また、年2回KFEMの主催によるコンサートを開催している。

(2)書籍、グッズ、有機農産物などの販売

書籍やグッズの販売のほか、年二回(旧正月とお盆の時期)外部に委託して、有機農産物のギフトを通信販売している。

(3)カフェの経営

KFENカフェ様子

ほかのNGO(1団体)と共同で1千万ウォンずつ出資して、繁華街でカフェを経営している。ごく普通のカフェだが、NGOのための会議室があったり記者会見の会場として利用されている点がユニークだ。ちなみに、この2年間で他団体も含め1000件以上の記者会見が開催されたという。

(4)キャラクター使用料からの収入

KFEMキャラクター① KFEMキャラクター②

スリーエム社から、KFEMのキャラクター商品(カッター付テープ、付箋)が販売されており、KFEMにはキャラクター使用料が支払われている。KFEMは、環境に配慮した商品となるよう生分解性プラスチックの使用を提案するなど、商品開発にも協力している。スリーエム社は、環境に配慮する企業であることをアピールできるし、KFEMは、環境にやさしい商品の開発に関与しつつ、キャラクターの認知度を高めることができる。今後は、学生向けのステーショナイリー全般に拡大させる予定だという。

(5)企業とのパートナーシップ(商品の売上げの一部を寄付)

  1. ロッテ資本のショッピングセンター「Magnet」では、顧客が買い物した金額に応じて一定の割合で4つの市民団体に寄付するカードを発行している。顧客の約30%が登録。寄付総額は年間3億5千万ウォンで、その4分の1がKFEMに寄付される。ショッピングバックを有料制にした際、その利益を社会に還元しようということで始まったもので、企業のイメージアップにもなっているという。
  2. ある健康食品会社の商品をKFEMの会員が購入すると、その売上げの一部がKFEMに寄付されるしくみになっている。KFEMの会員への販売は、健康食品の会社にとっても、よいマーケティングとなっている。

(6)「ハイ・ドネーションのための会」を開催

少額寄付は常時受け付けているが、高額寄付は2年に1回開催する「ハイ・ドネーションのための会」で受け付けている。1件あたりの寄付の相場は、企業の場合で500万ウォン(約50万円)程度、個人では100万ウォン(約10万円)~200万ウォン(約20万円)程度で、寄付総額は2億ウォン(約2千万円)にもなるという。

アルバム

 

エコセンター(外観)

センター外観

約300坪の敷地と、地下1階、地上2階の建物は、KFEMの所有。事務総長のチュ・ヨル氏がThe Goldman Environmental Prizeを受賞した際にもらった賞金などを元手に個人住宅を購入して改装した。ガラス張りの天井には太陽光パネルが設置され、自家発電をしている。残念ながら、パソコンを使用するなど、一人あたりの電力消費量が大きいため、全てを自家発電で賄うことはできないという。

エコセンター(室内)

センター室内

室内は、大きなガラス窓から光が降り注ぎ、明るく開放感に溢れている。セクション毎に目の高さの衝立で仕切られている。 このエコセンターでは73名の活動家(常勤スタッフ)が働く。彼らは、皆行動力に溢れエネルギッシュだ。平均年齢30才という若い彼らが活動に真摯に取り組む姿勢は、ハングル語の分からない私たちにも、実によく伝わってきた。

会員拡大キャンペーン

キャンペーン① キャンペーン②

入口近くの一角では、その週の会員獲得数並びに会員拡大キャンペーン期間中の累積実績を示した掲示板と、セクション毎の会員獲得数を表したグラフが張り出されていた。全ての活動家にとって、市民との対話を重ね、会員を獲得していくことは、活動家としての証のようなものだという。まずは、家族・友人・知人等の個人的なつながりから、新規会員を発掘しているとか。

訪問しての感想

 

韓国の活動家たちとの出会いは、とても新鮮で大いに刺激を受けた。国や言葉は違っても、NGOで働く活動家やボランティアが醸し出す雰囲気には、どこか共通しているものがあるようだ。日頃の地道な活動を通じて、市民のニーズや反応を丁寧に汲み上げ、ダイナミックな運動へとつなげ、支援の輪を広げる源泉としてきたことなど、学ぶことも多かった。しかしながら、KFEMの経験をそのまま当会に当てはめることは難しい。今回の一番の収穫は、当会の行く道は当会自身で切り拓くしかないことを再認識させられたことかもしれない。(丸)

街の至るところで開発が行われ、若者の間でも「世の中を変えていこう」という熱気があふれている韓国。元気な国、元気な市民の支持を得て、元気に活動している韓国のNGOと、社会全体の閉塞感の中で何とか新しい風を、と少数で必死に頑張っている日本のNGO。会員獲得の手法や活動方法など学ぶ点が多かったことは事実だが、その一方で、市民の意識や政治・社会全体の状況の異なる日本に、それをどう採り入れていけばいいのか、悩みが一層深くなったのも事実である。この報告書をご覧になった皆さん、是非良い知恵を寄せてください。(コ)