提案―日本の食卓を取り戻す

環境文明21内の「環境倫理の会」による提案です。提案に至るまでの検討の様子などについては、環境と文明ブックレット4食卓から考える環境倫理-日本の食卓を取り戻す-をどうぞご覧ください。


かつての日本では、朝食や夕食は家族全員が食卓を囲んで一緒に食べるのが普通でした。この家族揃っての食卓は、家族の絆を深める場であり、また、家庭での重要な教育の場でもありました。親子あるいは三世代が共に食卓を囲む中で、感謝して頂く心や食べものを無駄にしないこと、そして日本の食文化が世代から世代へと伝えられていました。

しかしながら近年は、仕事優先の生活や通勤の長時間化の中で父親不在の食事が一般化し、家族揃って食事をするという、かつての「日本の食卓」がほとんど失われてしまいました。家庭の食卓が失われる中で、子供たちの間には個食、欠食、偏食が広がっており、子供の健康への悪影響が懸念されています。また、家族の絆を深める場であった家庭の食卓の消滅は、近年の家庭崩壊の一因になっているとも考えられます。

食卓は、単に生きるために食事を取る場ではなく、人間形成の原点です。私たち「環境倫理の会」は、経済至上主義の中で環境に大きな負荷を与え、また個食、欠食、偏食等で乱れた現在の日本の食生活を見直して健全なものとするために、かつての「日本の食卓を取り戻す」ことを提案します。

これは「昔に帰れ」ということではありません。日本の食文化の良いところを今に活かすということです。

かつての日本の食卓では、日本で採れた食材を使った日本食が食べられていましたが、このような食事は、輸入の食材を多く用いる洋食よりも環境に良いといえます。また、身土不二といわれるように、日本においては日本食を食べ、地産地消を進めることは健康にも良いといえます。私たちは、「食事の中身」と「食卓のあり方」の二つの観点から「日本の食卓を取り戻す」ことを提案します。


<食事の中身>

提案1:洋食から和食へ
食事は、なるべく和食の食事を増やし、洋食を減らしていきましょう。

和食と洋食では、和食の方が日本国内で採れる食材を使っている割合が高く、和食中心の生活を心がけることは食料自給率の向上に貢献します。このことは、結果として日本の農業を守ることにもなります。日本では生活習慣病が問題となっていますが、和食は一般的に洋食に比べて脂肪分や塩分が少なく健康にも良いといえます。

提案2:地産地消
食材は、輸入ものは避け、なるべく近くで採れるものを選びましょう。

地域で採れるものを食べる地産地消を進めることは、食料輸送に伴うエネルギー消費を減らすことになります。地産地消は旬の野菜、旬の魚を食べることになり、安価で美味しく、健康にも良いといえます。また、地域で採れた食材の生ゴミは、堆肥化するなどして地域の農地に返しましょう。このことは健全な有機物循環の回復につながります。地域で採れるものを食べる地産地消が持続可能な社会の原則です。


<食卓のあり方>

提案3:男性の家庭参加
男性も積極的に家事その他の家庭での活動に参加しましょう。

共に食事を取ることが人間の絆づくりの基本です。しかし、多くの女性が家庭の外に出て働くようになった現在では、男性の協力なしには一家団欒の食卓を取り戻すことはできません。男性も外で働くばかりでなく、積極的に家事その他の家庭生活に参加するようにしましょう。

提案4:働き方を変える
働きすぎで残業の多い今の働き方を変えましょう。

残業が当り前の今の働き方では父親が家族と共に夕食をとることは不可能です。また、男性と同じように長時間働くことを強いられ、その上、家事も引き受けるとなると女性の負担は大きくなるばかりです。男女共に健全な家庭生活ができるように働き方を変えましょう。


<支える仕組みの整備>

家族のあり方が多様化している今日では、「日本の食卓を取り戻す」ためには、上に示した各家庭での取組と共に、それを支える多様な仕組みを整備することも重要です。家庭での取組を支援し、また、子供たちに和食文化を伝承すると共に、子供たちに共に食べる場を提供できるよう、国や自治体には下記の仕組み作りを求めます。

提案5:「食」に関する教育の実施

国や自治体には、学校給食、体験学習、環境教育などを通じて、子供たちに共に食事をする場を提供するとともに、学校教育の中で、日本の食文化を次世代に伝える「食」に関する教育を実施することを求めます。

提案6:食料主権の確立

国民への食料安定供給を確保するために、国内の食料生産基盤を保護することは国家の権利です。現在は、WTO体制化で例外のない市場の自由化が進みつつありますが、農産物の自由化に関しては、環境面だけでなく、安全保障上の面からも疑問があります。政府には、WTO交渉の場において「食料主権」の立場を明確にし、米・麦などの主食用農産物については自由化の対象から除外するよう他の食料輸入国と連携して働きかけることを求めます。

提案7:加工食品原料の産地表示

食品に産地の表示がされるようになってきましたが、加工食品に使われている原料については産地の表示が無く、消費者にはどこの物が使われているのか知ることができません。消費者が主体的な選択ができるよう、加工食品への原料産地表示を制度化することを求めます。

提案8:新規就農者支援

農業が継続するためには、新規の就農者が継続的に確保されることが必要です。しかし、今日の日本では、農業では十分な収入が得られないために若い新規就農者が中々確保できない状況にあります。政府には、日本の農業を維持するために、農業が高校や大学の新卒者にとっての自由な職業選択肢の一つになるような支援策を講じることを求めます。