循環社会に向けたビジネスのあり方
~そのビジョンと課題を考える~
ミニ・ワークショップの概要
- ●日時
- 平成14年7月9日(火)
- ●場所
- 日本教育会館
- ●内容
- 話題提供1
循環社会のビジョンとその実現シナリオ ~循環社会とは具体的にどんな社会なのか~
加藤三郎(環境文明21代表)
話題提供2
循環社会におけるビジネスのあり方 ~国内外の取組み事例から~
後藤敏彦さん(環境監査研究会 代表幹事)
パネルディスカッション
循環社会におえるビジネスのあり方 ~そのビジョンと課題を考える~
パネリスト(五十音順):
青山俊介さん(エックス都市研究所 代表取締役)
竹林征雄さん(荏原製作所 総合事業統括 理事)
橋爪伸夫さん(セイコーエプソン 取締役地球環境室長)
三本 守さん(タケエイ 代表取締役)
進行役:藤村コノヱ(環境文明21専務理事)
報告
当会主催の「企業向けセミナー」が、7月9日、東京千代田区の日本教育会館で開かれ、会員企業をはじめとする約70名が参加した。日米循環社会研究チームからの提案をもとに、後藤敏彦さん(環境監査研究会 代表幹事)、当会加藤三郎代表から話題提供があった後、「循環社会に向けたビジネスのあり方 ~そのビジョンと課題を考える~」をテーマに、4名のパネリストを迎えて、活発な意見交換が行われた。パネリストの発言を中心に紹介する。
循環社会に向けたビジョンと取り組み
●竹林征雄さん(荏原製作所)
この10年、ゼロ・エミッションが、当社のトップコンセプトとなっている。最近では、サステナブルということを非常に意識して、事業展開をはかっている。ポンプやタービンを売るといったハードビジネスから少し様子が変わって、ESCO(Energy Service Company)事業、グリーン電力ビジネスに力が入りはじめた。永続的にビジネスを継続するため、サステナブルで、ゼロ・エミッション的なことをどう組み込んでいくか、今、社内では、問われはじめている。
ポンプや冷凍機のような単品製品については、エコデザインを導入して、環境効率による評価を開始した。単品製品のみならず大型プラントにも、LCAを適用している。さらに、製品やプラントの一生を通して、環境負荷やコストの面からみて、従来製品・プラントと比べてどうなのか、トータルライフサイクルコストの検討も始めた。
今後の取り組みとしては、バイオマス社会の到来に備えて、ホード・ソフトの開発、実証が非常に大切だと考えており、バイオマスや水素などの分野に力をつけたいと思っている。これからは、循環社会と21世紀を見据えた開発やビジネス戦略が大切だろう。
●橋爪伸夫さん(セイコーエプソン)
当社では、持続可能な社会の構築に向けて、企業倫理、企業の社会的責任を強く意識して、それを製品や生産プロセスに組み込んでいくことを基本スタンスとしている。
地球温暖化防止についても、当社は、2010年までにCO2排出量を総量で97年度比60%削減という目標を掲げている。これは売上高の伸びまで含めて考えると極めて高い目標であり、従来の技術の改善といったことでは、到底達成できるものではない。したがって、発想を大胆に転換して、モノづくりを根本的に革新しなければいけないと考えている。
ここでベースになっているのが、「フロンレス宣言」のときの経験だ。当社では、モントリオール議定書が採択された1年後の1988年、人間に悪いものを長く使うわけにはいかない、必ずコストに跳ね返ってくるとの考えから、いち早くフロンレス宣言をした。当時、どういう技術を使ったら改善できるのか見通しがなかったなか、5年で止めると宣言して、実質的にはそれを4年で達成した。このときの経験から言えることは、高い目標を掲げれば、技術者は果敢にチャレンジするということ。トップの役目は、目標を適切に与えることだろう。
●三本 守さん(タケエイ)
当社は、主に建設系廃棄物を扱う処理業者として、循環社会の形成に寄与することを経営理念に掲げている。将来、建設系廃棄物が減少することは間違いないし、資材のリユースやリサイクルも進むだろう。廃棄物処理業者として、あえて発生抑制こそがビジネスチャンスにつながるということをしっかりと見据えて、今後は、リサイクル分野のマーケットに軸足をおいていく考えだ。そのためには、建設会社や素材メーカーなどとの連携が重要になってくるだろう。
現在、混合廃棄物のリサイクル分選別にかかるエネルギーや労力は、非常に大きな負荷となっている。建設現場に資材として持ち込まれる際には、木は木であり、紙は紙、あるいはプラスチックはプラスチックというように、それぞれが単品であるのに、それが廃棄物として出されるときには混合になってしまう。この点を見据えて、当社では、10数年前から、分別に対する取り組みを容器や車両の問題を含めて積極的に進めてきた。今後、現場での分別が大きく進むとなれば、自ずから収集システムも変わり、リサイクルに向けた取り組みも変わってくるだろう。
●青山俊介さん(エックス都市研究所)
環境産業とは何か。鉄鋼業では原料の4割に古鉄を使うようになり、製紙業では原料の7割に古紙を使う時代となっており、これらを、古物商や古紙業者(環境産業)とは呼ばなくなった。現在、あらゆる産業に環境を内部化しようとする動きがあり、業態が大きく変化している。例えば、非鉄産業では、非鉄技術を使った金属系のリサイクル、有害物質の処理や管理などに事業の比重が移ってきている。また、物流産業でいえば、使用済み製品の回収をはじめとする裏物流が大きな市場として注目されている。
近年、環境産業ないしは環境の企業戦略化といったことの重要性が、非常に増している。私は、あと10年が勝負だと思っている。日本の公害対応は、1970年に法律ができて、1980年代前半には、個々の企業が対応をほぼ終えた。2000年は、公害法制定のときと同じような状況ではないだろうか。ザル法とはいえ、循環、省エネ、地球温暖化などに対応する法律が一応できた。これに対する産業界の行動転換は、2010年頃には終わるだろうと見ている。
循環社会に向けて克服すべき課題や問題点など
- 混合廃棄物が、処理困難な状況にある。こうした問題の解決には、個々の意識が重要な意味を持つ。廃棄物の分別が社会通念として備わるような幼年時からの教育が必要だろう。(三本)
- 韓国では、2005年で汚泥の最終処分を禁止する法律ができた。10年程前まで、日本の処理法を懸命に勉強していた国が、今では、高い国家目標を掲げている。近頃、日本で、処分場技術の開発が急速に進んでいるのは、今までは仕方ないといっていたものをやろうと決めたからだ。問題から逃げるのではなく、積極的な対応が肝心だ。(青山)
- 環境という切り口で物事を見直すと、新しい考え方や作り方、処理の仕方などが出てくるが、革新的なことをやるには、技術的な見通しをある程度もてたところで仲間を集める必要がある。今の産業は、一社だけではできない。当社では、オープンラボという形で、基幹技術、基幹プロセスを公開し、参画してくれる仲間と手を組みたいと考えている。非常に難しい挑戦だが、われわれの改革の始まりだと思ってほしい。(橋爪)
- 新技術の開発や環境ビジネスの展開には、莫大な資金を要する。循環システム検討・ハード技術開発を支援する制度の構築を望みたい。(竹林)
長期的な視点から、循環社会について
- 個人的な意見だが、物質的に不足していた時代から、物質的に非常に恵まれた時代に移行するなかで、私たちは、精神的な満足や心の充足といったものを忘れ去ってきたのではないだろうか。循環社会の実現には、精神的な満足や心の充足は、欠くことができない。地球環境時代にふさわしい新しい倫理教育が必要だろう。(橋爪)
- 廃棄物の発生抑制にむけて、最大限努力していきたい。事業の転換をはかって持続可能な企業にしていけばいいのであって、いつまでも廃棄物が大量に出て、それを事業として行うということ自体、私は間違いであると思っている。(三本)
- 社員には、農林業の体験を通じて、環境意識を一層高めてほしいと思っている。そうした意味も込めて、将来、休耕田を利用してエネルギー作物などを栽培する作業と、刈り取った作物のエネルギー化・マテリアル化などの作業に、1年間のうち1ヶ月ずつ社員が従事することを義務付けてはどうかというアイディアもある。(竹林)
- 今、アジアには、物質的要求が非常に低いところから上がってくる人たちが大勢いる。約20年後には、アジアは人口のピークを迎える。こうしたアジアに対して、日本はどういう方向に進むのか、ビジョンをきちんと打出すことが大切であり、循環社会に向けた一番の早道でもあろう。(青山)