• トップ >
  • 調査研究 >
  • 平成27年度(2015年度)再生可能エネルギーの地域での利用に向けて

再生可能エネルギー(特に森林バイオマス)
の地域での利用に向けて

本活動は『ドコモ市民活動団体への助成金により実施しています。

目次

  1. はじめに(本活動の目的)
  2. 伊那市〔長谷・高遠地域〕における再生可能エネルギーに関する情報
  3. 地域視察および現地職員等との意見交換
  4. エコツアーの実施
  5. 再生可能エネルギーを普及に向けた提案

はじめに(本活動の目的)

山間地域における過疎化、地域経済の衰退、気候変動に伴う自然災害の多発は深刻な課題となっている。一方、地域には森林や小水力など多様で豊富な環境・エネルギー資源がある。しかし、それを活かそうとする個々人がいるにもかかわらず、資源・人材共に地域 全体で十分に活かされていない現状がある。 本活動では、長野県伊那市の長谷・高遠地域を対象とし、低炭素社会構築に役立つ地域環境資源の利活用の可能性について行政・地域住民等と意見交換すると共に、バイオマス等利用のための具体的方策の検討を支援する。また、そこで、同地域において、バイオマス利活用を学ぶエコツアー・ワークショップを開催し、現地見学およびワークショップを 通じてそれらの具体的活用策について検討する。 ここで得られた成果や具体的実践事例は、ホームページ等を通じて発信すると共に、同 様の取組みを行う他地域との情報交換・連携を行う。

これらの目的を達成するため、具体的には以下の活動を行った。


伊那市〔長谷・高遠地域〕における再生可能エネルギーに関する情報

1.伊那市基礎情報

伊那市長谷・高遠地域は、長野県南部に位置し、南アルプスと伊那山地に挟まれた山間地域である。大断層である中央構造線の上に位置し、断層の断面が地表に現れている露頭をいくつか見ることができる。2006年3月に、旧・伊那市と高遠町及び長谷村が新設合併し、新たに伊那市となった。

本地域を含む南アルプスにおける中央構造体エリアは、2008年に日本ジオパークに認定された。中央構造線の上を通る国道152号線(秋葉街道)は、地域の幹線道路であり、静岡から塩を運ぶ塩の道として、諏訪と秋葉神社を結ぶ信仰の道として、農村歌舞伎などの文化を伝える道として歴史を刻んできた。

(1)地勢・位置


図1 伊那市概要(伊那区、高遠区、長谷区の位置関係)

長谷・高遠地域は、旧長谷村及び旧高遠町としてそれぞれ独立した自治体であったが、2006年3月31日に両町村と旧伊那市が合併し、伊那市が誕生した。旧長谷村及び旧高遠町には「市町村の合併の特例に関する法律」(合併特例法)に基づいて地域自治区が設置されている。地域自治区の存続期間について、法律上、限度は定められていないが、伊那市・高遠町・長谷村合併協議会においては10年間の期間を定めており、存続の終了期間を目前に控えた現在、地域住民の意見を反映した自治のあり方、地域の特色を活かした均衡ある振興のあり方が議論されている。(表1、表2)

表1 伊那市各区域の面積の変遷

表2 伊那市の土地利用状況

(2)交通

伊那市の交通は、市の中央をJR飯田線が走り、中央本線・東海道本線に連絡している。道路では、平成18年2月に「権兵衛トンネル」が開通した国道361号を始め、国道152号、153号及び県道が縦横に走り、東西・南北が結ばれ、交通の要所となっている。また、西部には中央自動車道が南北に走り、首都圏及び中京圏からもほぼ等距離にある位置的に恵まれた地域である。

(3)人口

伊那市の人口の推移を表3に示す。

表3 伊那市の人口の推移

伊那市調査による平成27年の人口は、伊那市全体69,594人、中心市街地が61,800人となっている。昭和57年から平成27年までの人口推移をみると、伊那市では若干減少している。区域ごとでは、伊那市の中心地域にあたる伊那区域では4.7%増加しているのに対し、高遠区域で32%の減少、長谷地域で27%減少と交通の不便な山間地域の人口減少が著しい。

(4)産業

表4に国勢調査に基づく伊那市全体の産業別就業者の推移を示す。第一次産業及び第二次産業の就業者が減少、第三次産業が増加傾向にある。

表4 伊那市の産業別就業者
出典:長野県伊那市『伊那市統計書平成24年版』
表5 産業大分類別
出典:長野県伊那市『伊那市統計書平成24年版』

産業大分類別にみると、製造業就業者が21.0%と最も多く、ついで卸・小売業が14.0%、サービス業が11.6%、医療・福祉が10.0%となっている。医療・福祉就業者は増加傾向にある。また、林業従事者も増加しているが、長野県の資料によれば伊那市を含めた伊那谷の林業従事者は減少しており、詳細は不明である。農業就業者割合は7.9%であり、減少傾向にある(表5)。

農業に関しては、長谷・高遠地域の土地利用は山林及び原野で過半を占め、農地面積はわずかであり、大半が稲作を中心とした零細兼業農家である。

『伊那市統計書平成24年版』によれば、2010年の自給的農家(経営面積30a未満、農産物販売金額50万円未満)は長谷地域で96.6%、高遠地域で84.3%となっている。また、農業就業者のうち70歳以上の人は長谷地域で33.4%、高遠地域で29.2%と、高齢化も進んでおり、農家数、農業従事者数及び耕作面積は、年々減少している。

これに伴い耕作放棄地が増加している。農業をめぐっては、担い手不足と同時に、有害鳥獣被害の問題も継続意欲に与える影響は大きい。これについては、里と森林との境界があいまいになっている現状に起因することを指摘する意見もある。

森林地域においても、担い手不足によって森林整備が行き届かない課題を有している。商業については、零細事業所が主体であり、両地域とも事業所数、従業者数、販売額とも長期的に減少傾向にある(表6)。

表6 商業の状況(2007年6月1日現在)
資料:平成19年度商業統計調査

伊那市における2012年の主な観光入込客数は長谷地域で約20万人、高遠地域で約54万人である。高遠は城址公園の観桜期に入込が集中しており、これを除けば約20万人で、長谷地域と同程度となる。

観光消費額は、「観光客の観光行動に伴う経費で、当該観光地内で支出した宿泊費、交通費、飲食娯楽費、土産その他買物費、観覧料又はこれに類するもの、その他。ただし、交通費のうちバス代等については、最寄りの駅から当該観光地までの往復料金」である。1人当たりの観光消費額は、長谷地域で4,000円前後、高遠地域で1,500円前後にとどまっている。なお、長谷地域の観光地は全て、伊那市の第三セクターである伊那観光株式会社が運営している宿泊施設や観光施設を含むため、観光消費額を推計しやすいものの、高遠地域においては民間宿泊施設・商店における観光消費額が把握できず、過小になっている可能性がある。

しかし、このことを踏まえても、両地域における観光消費額は少額であり、観光客の消費行動につながる店舗や施設、観光客にとって魅力的な商品・サービスが少ないことがうかがえる。また、宿泊を伴う滞在割合は2%程度と極めて少なく、観光行動は訪問型観光中心で、滞在時間も長くはないと考えられる。

2.林業の状況

(1)伊那市の林野面積の状況

伊那市の林野面積は約5 万2 千ha 。所有形態別では国有林、私有林がそれぞれ約4割を占めている。また、林種別にみると人工林(針葉樹)の割合が高くなっている。

表7 伊那市の林野面積の状況

3.再生可能エネルギーの利用について

(1)自然地理条件

基礎情報に記載

(2)伊那市における再生可能エネルギー導入状況

伊那市における再生可能エネルギーの導入状況は表8の通りである。

表8 伊那市における再生可能エネルギー導入状況
長谷区域
高遠区域
出典:伊那市地域新エネルギービジョン

(3)具体的活動・団体

伊那市域で具体的な活動を行っている団体等は以下の表9の通りである。

表9 伊那市域内での再生可能エネルギーの主な活動団体
環境文明21報告書より抜粋

〔参考資料〕


地域視察および現地職員等との意見交換

伊那市の森林資源の利活用の現状について把握するため、現地職員等との意見交換を行った。また、地域の再生可能エネルギー利用に向けた課題や今後の方向性について探るとともに、エコツアーの実施方法について検討した。

【実施日】 平成27年5月14日、15日
【実施者】 加藤三郎、藤村コノヱ、木科大介(環境文明21)
竹林征雄 氏((一社)エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議)
【行 程】
○視察 株式会社DLD〔薪製造現場〕住所:長野県伊那市高遠町上山田2435
○意見交換 参加者
中村徳彦 氏 (伊那市産業振興課課長)
木平英一 氏 (株式会社DLDバイオエネルギー事業部)
中山和文 氏 (NPO法人薪の会)
○視察 上伊那森林組合〔木質ペレット製造工場〕
住所:長野県伊那市高遠町上山田86-1
伊那市行政職員および森林資源利用企業の方々との意見交換の様子 株式会社DLD 薪の製造過程視察の様子
株式会社DLD 薪の製造過程視察の様子 上伊那森林組合〔木質ペレット製造工場〕視察の様子

エコツアーの実施

国内でも木質バイオマスの利用が盛んな伊那市にある薪およびペレット製造現場等を見学し、さらに現地の人を交えて「バイオマスの利活用に関するワークショップ」を含めたエコツアーを開催した。

【テーマ】 木質バイオマスの利活用について考える
【実施日】 平成27年10月31日、11月1日
【参加者】 22名
【実施者】 加藤三郎、藤村コノヱ、環境文明21事務局(木科、後藤)
竹林征雄 氏((一社)エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議)
【行 程】
〔1日目〕 ○視察 株式会社DLD〔薪製造現場〕住所:長野県伊那市高遠町上山田2435
NPO法人薪の会〔山林木の倒伐・実測体験〕
○ペレットの説明(伊那森林組合の説明含む)
〔2日目〕 ○ワークショップ 開催場所:入野谷研修室
(プログラム)
  1. 開会挨拶
  2. 話題提供
  3. 意見交換
    • 家庭での使用についての質問
    • 地域での活用の可能性について
      薪、ペレットの双方の良さを活用し、地域全体で再生可能エネルギーの産地として発展していく為の方策について話し合った

〔報告〕

10月31日昼12時にJR中央本線茅野駅に集合、駅前から送迎バスに乗り1時間余、ツアーの最初の目的地伊那市に着いた。

今回のツアーのテーマは、「木質バイオマスを知り、家庭で、地域で活用しよう」で、初日は人間の歴史の中で最古のエネルギー源とも言える「薪」に着目して薪ストーブの普及に取り組んでいる(株)ディーエルディー社(以下「DLD」)と伊那地域でそのバイオマスエネルギー(以下「バイオエネ」)の供給源となる森林の育成・活用に取り組んでいるNPO薪の会の活動現場である山林を視察した。(視察予定の木質バイオエネである木質ペレット製造工場は休日と重なったため、ペレットに関する説明会を開催した)

森林面積が国土の7割を占める我が国にはバイオエネ源となる森林はどこにでもあると言っていい。しかし、森林があるだけではそのエネルギー源を簡単に活用できない。木を育て、切って、搬出する仕組みがなければ、安定した供給源としての「木」を得ることはできない。この意味で林業が成り立って初めてバイオエネ源としての「木」を活用できる。

NPO法人薪の会リーダーである中山和文氏の案内で、その活動現場である山林での赤松の伐採を実際に見せてもらった。高さ35mの赤松は、中山氏の手でものの10分とかからずにいとも簡単に切り倒された。のこぎりを使って切り倒していたことに比べたら、今はチェーンソーで切るのでその効率は数倍違う。しかしそのお陰で、手に強烈な振動がかかるチェーンソーの作業は白蝋病という職業病を発生させた。それはともかく、この赤松がここまで育つには60年の年月を要しているが、その間も多大の労力を要する間伐が不可欠である。


伊那地域の山林に実際に入り、山林、間伐材の現状について説明を受ける参加者

木の切り倒しについて説明し、実際に伐採する様子

切り倒された赤松

切り倒した木の長さ(上)と太さ、年輪(右)を実測する様子

それに最近では、鹿が樹皮を食べてしまう獣害から樹木を守るための鹿対策も欠かせない。そのことでびっくりしたのは、この視察した一帯は見事に下草が刈り取られていたのを見て、この法人メンバーの汗の結晶と思いきや、この下草をきれいにしてくれたのは何と野生の鹿とのこと。木の皮を食べられることでその生育を阻まれてしまう獣害に頭を悩まされる一方で、下草を刈ってくれる効も起きているのは皮肉である。

このことはさておき、多大な労力抜きには良質な木材を産出できる森林資源は育たない。バイオエネとしての木質ペレットあるいは薪の材料となる木は、建築材や家具材として木材を産出する過程でできる副産物ではあるが、この副産物の元となる木は切り倒された後、町場の工場まで搬出されなければならない。さらにこうした現場での労働に加えて、木を切り倒すまでにはこの山地の所有者・権利者を掴まえ、その承諾が必要である。しかし、それにはその所有者・権利者がどこの誰かを探さなければならない。山林も宅地等と同様に登記所に土地台帳があり公図もあって管理されている。だが、山林の所有関係は長い間放置されたりしているものが多く、市街地のそれとは大きく違って、その書類上からその持ち主やさらにはその管理形態の足跡を追うことは極めて難しい。だからといって、所有関係不明のままで森林に立ち入ると森林窃盗の重い刑罰が待ち受けている。林業は、山で木を見ているだけでは成り立たないことが中山さんの説明でよく判った。

こうした一連の仕事は林業として成り立たねばならないが、ここ伊那地区では中山氏のNPOがその役割を何とか果している。現在の日本では、林業は収益どころか採算を取ることさえ困難な状況で、企業として存立していくのは難しい。ここではNPOが何とか頑張っているが、それとて国等からの助成金が頼みとのことで、今後の見通しは楽観できない。

薪の会が所有の薪製造機

もう一つの視察地であるDLD社は、そのバイオエネ源である薪を普及させるために薪ストーブの販売と合わせて薪の製造、販売を行なっている。薪を普及させるには、まず手軽にその薪を購入できる供給システムがなければならない。そのことに着目して、DLD社は森林資源に恵まれている伊那に薪の生産設備を建てると同時に、その販売システムとして宅配サービス網をつくり上げている。薪の原材料となる原木は前述した中山さんのたちの林業活動から供給される。DLD社は中山さんたちの林業活動とも連携している。

見学したのは薪の生産工程。生産工程自体は極めて簡単。山から運ばれた原木を長さ45cmにして(玉切り)、これをエンジン付きの薪割機で割る。広大な敷地に乾燥させるために人の胸元ほどの高さに整然と積み上げられた割った後の薪の光景は圧巻だ。


40cm程に切られた丸い原木をエンジン付きの薪割り木で割る

乾燥させるために整然と積み上げられた薪となった原木

薪ストーブについて説明するDLD社 木平氏

この天日干し(約3~4ヶ月)に広大な敷地が必要だ。ここDLD社の敷地のほとんどは薪を積上げて干すための用地だった。この薪生産工場を地元長野中心に全国約20箇所に設置し、そこを拠点に周辺に宅配サービス網をつくり事業展開している。この宅配サービスで、都市生活者へも手近で、簡単に手に入る薪の供給体制をつくっている。「森林資源の有効活用、林業振興・森林環境の保全が再生可能エネルギーと地域の雇用創出を産みだし見事な地域循環ができあがる・・・」と同社の木平英一氏が熱く語ってくれた。見せてもらったここ伊那にあるDLD社のショウルームには、スエーデン製の薪ストーブが並べられ、柔らかい炎を見せて私たち一行を暖めてくれた。化石燃料に由来する暖房器具は、スイッチ一つで運転できる便利さはあるがCO2排出では地球温暖化の発生源そのものである。また、それを確保するのも専ら外国からの輸入に頼るしかない。温室効果ガスを出さず、しかも自前で調達できるエネルギー源の薪は、もっと見直されて然るべきである。

二日目は、「入野谷」研修室でワークショップを開催した。一日目にお世話になった木平氏と中山氏に竹林征夫氏(NPOバイオマス産業社会ネットワーク)が加わった3人と環文21共同代表加藤三郎氏からの話題提供(演題についてはP11参照)に続いて、同共同代表の藤村コノヱ氏の司会の下でのディスカッションが行なわれた。


2日目会場の様子
1日目の見学に続き、木平氏、中山氏、竹林氏にご参加いただいた

気候変動問題の現状と木質バイオマスの役割について説明する加藤共同代表

竹林氏には「木質バイオマスの利用について考える」をテーマとして、地域における木のエネルギー利用についてお話いただいた

木平氏には自社活動の経験から「薪の流通と薪ストーブ」についてお話いただいた

中山氏「伊那地域における山林の現状と有効利用」をテーマとして、お話いただいた

後半は藤村共同代表がコーディネーターを務めて意見交換会

参加者にはバイオマスの専門家もおり、積極的な質問や意見が出た

今回ツアーのキーワードである「バイオマスの利活用」の前提である気候変動が危機的状況にあることと、それ故に一刻の猶予も許されずその対策に取り組まなければならないことが加藤氏から問題として提起された。続いて竹林氏からは木質バイオマス活用についてペレットストーブと薪ストーブを素材にした話とドイツでの発電源としての再生可能エネルギー活用の現状やロンドン等の海外大都市ではバイオエネが積極的に活用されている現状が話された。さらに昨日の2箇所の視察場所で案内をしていただいた木平氏と中山氏からも林業の現状や薪普及の状況についての補足説明を受けた。


<質疑および意見交換の概要>

参:私共の活動では、自作のエコストーブの普及を行っている。定期的に勉強会を開催し、多くの方にきていただいている。エコストーブはペール缶2個と市販の煙突を組み立てた簡易のものではあるが、効率的に完全燃焼する仕組みとなっている。やはり、一度は触ってみることにより理解が深まるものと思っている。

加藤:欧米人のように、エネルギーは自分のものだという意識が必要である。

参:ヨーロッパで流行っているガス化炉と発電について、あれはガス化の前はペレット化したりするのか。また、日本では事例があるのか。
⇒チップやペレットの方法がある。残念だが、日本では事例がない。実現したいと思っている

参:薪ストーブの熱効率はどれくらいか。
⇒一般的なストーブで、煙突から逃げていくものが20~30%割程度なので、70~80%程度だと言われている。そのため本来は、電源にするのではなく熱利用が望ましい。電源だと効率は下がる。
⇒一般的に、竈で30%、効率の良いストーブで70%、大きいボイラーで90%。

参:昨日伐採した時に根っこが浅かったが、あれは植林にみられる傾向なのか。
⇒やはり一般的に主根が育ちにくい。間伐することによって正常に育つようになる。

中山:林業のほとんどは造林助成金によって成り立っている。現在の林業は行政主導。最近ではこれを悪用して、山林整備をしているとして不正に受け取っている業者がいる。

参:竹林の利用はどうだろうか。
⇒実際に竹を利用したプランが進んでいる。竹に多く含まれている乳酸の利用なども考えている。実験段階である。

参:薪ストーブの煙管は屋根に伸びている形状もあれば、壁に曲げているものもあるが、ベストな形状はあるのか。
⇒煙突の熱を部屋に戻すために曲げていたことがあるが、これはひと昔前の熱効率が悪いストーブの話。今は排煙をきちんとできることが望ましい。なるべく真っすぐ伸ばすことが現在の常識。

参:地域によって樹種がちがうのか
⇒この辺はアカマツが多い。名古屋は杉ヒノキ、仙台は広葉樹である。東北は放射能の問題が残っている。

加藤:中山さんは随分と頑張ってらっしゃっているが、この地域の住民の反応はいかがだろうか。

中山:波及効果というか応援してくれているような雰囲気は特にない。だが、注目はされてきていてチャンスかと思っている。薪ストーブ本体の設置費用の高さは昔からのネック。薪の燃料代は年間10万円、これはかなり大変になるが、薪ストーブの方は自分で薪を調達する人が多い。やはり自分たちで調達できる仕組みを支援していきたい。購入だけに頼ると高くなり、結果として「薪ストーブ=高い」ということになってしまう。

藤村:ヨーロッパでは地域全体でエネルギーを考える取り組みが進んでいる。この地域では是非考えていっていただきたい。

木平:熱心に取り組む人は多くはない。例えば伊那市はこれだけ天然資源があり、大きなペレット工場もある。しかしながら、知名度は低い。もう少し地域全体で取り組みを考えていってもいいと思う。

参:私はこの地域に住んでいて今回参加させていただいた。今ここで考えている山から燃料をとってくることは、昔では当たり前のことをやっているだけである。もう一度自分たちの生活スタイルを見直すことによって新しいつながりがでてくると思う。私の家でもストーブを利用している。買うことは簡単だが、できるだけ自分たちで採りに行くように努力している。ただし、現代人は、チェーンソーや鋸のようなものの使い方をしらずに苦労している。そこで、そういった使い方など技能の勉強会は有効だと思う。

竹林:ヨーロッパでの地域の連携として、ドイツだと村といえば数百人程度のものがある。そういったところではお互いの顔が分かっていて、自然と繋もある。身近なこととして考えている。ごみの問題にしても自分たちでなんとかしようと考えている地域もある。自らが考えて自らが動く。だから非常にコストが安い。

竹林:上野村の場合は、地域のほとんどが森林。生きていくための手段として木の利用を考えるようになった。家や家具等で木を利用している。やはり活性化には首長の行動力が必要である。

参:安倍内閣は地方創生を謳っておるが、お話を聞いていると国の支援等の話が少なかったが、実際そういった取り組みはないのか。森林活用の支援が薄いのだろうか。
⇒やはり、その地域の役人がアンテナを張って、そういった助成に手を出せるかが大事だと思う。もしくは木平さんや中山さんのように行政を巻き込んで取り組んでいけるか。

中山:薪ストーブ利用の人に、助成金目的の人というのは少なかった。結局は木に対する愛着が優先した人が愛用している。木の利用の文化が根付いていると思っている。

木平:田舎に良いところは沢山あるが、田舎では移動の問題がある。全員が車を持っている状態になっているが、それはエネルギー効率的にみても大変な損失。こういった地域での公共交通について考えていきたい。

竹林:今の異常気象はますます危険度をまして我々の身近な問題になっている。この問題はエネルギー問題につながってくる。自分たちのこととして考えていただいて、その解決の一つとして木質バイオマスの利用を考えていただきたい。

加藤:地域で頑張っているところは、行政職員にも市民にも積極的な人がいる。長谷の地域の人にも今日は参加していただきたかった。ただ、もしかするとよそ者のやっていることに対する抵抗感もあるのかもしれない。是非、今日お話しいただいた皆さんにも、温暖化について触れていってほしい。温暖化に対する関心が低くなっている気がする。

今回のツアーに参加して、その目指している事業がこれからの日本社会の中でビジネスとして十分に展開出来る可能性をもっているとは思ったが、現実には簡単ではないことも思い知らされた。同時に、日常生活の中で林業とは全く無縁な筆者ではあるが、それは己が無縁にしているのであって、傍観者としてではなく当事者になる生活スタイルの工夫の余地があるとの思いを新たにもした。


【参加者からの意見・感想】

ワークショップ、もしくはエコツアー中に参加者より出た主な意見を列記する。

【参考】地域に伝わる伝統芸能「中尾座の歌舞伎」

中尾歌舞伎の建物。開演1時間以上も
前から長蛇の列ができている

2日目のエコツアー終了後、訪問地伊那市長谷村に伝わる農村歌舞伎を鑑賞した。

この地にはそれを演じる芝居小屋「中尾座」もある。花道も設けてある立派な舞台、平成10年の柿落しには12世市川團十郎さんが来てくれたと自慢の小屋である。 長谷村に伝えられている村歌舞伎には江戸時代から続く歴史があったが、太平洋戦争と共にその伝統が途絶えた。現存する「慶応元年 丑歳」と記された引き幕が、その歴史を唯一今に伝えている。戦後、約40年の時が流れ昭和61年に地域の若者たちが長老方の指導を受けて復活上演し、今年で23年目を迎えるに至った。

この日の演目は有名な浄瑠璃歌舞伎「奥州安達原(三段目)」。お馴染み三色幕が開くと正面に御殿の座敷が畳と襖の書き割りで奥行きを感じさせる立派な舞台が現れる。小屋外の里山風景とは一変したその光景にびっくりする。さらに舞台下手に見せ所の母娘の愁嘆場が演じられる御殿屋敷の外が枝折戸によってその内側と仕切られ、そこには小雪がちらちらと舞い降りる。この舞台装置は観客の気持ちを大いに高ぶらせてくれる。


歌舞伎の一幕

演じるのはもちろん長谷村の“玉三郎”と異名もある中村さんを始め長谷村のご当地の方々。因みに中村さんは環文21の会員さんである。目も鮮やかな歌舞伎衣装を身につけ、隈取りも(メイク)も本格的。「ナカムラヤ!」と声もかかった。舞台に登場する役者さんの着ている時代衣装が、全て自前の村で持っているものだと聞いて二度びっくり。

見せ場の母・娘とのやりとり、武家の娘が家に出入りの侍と駆け落ちしたが故に勘当され、夫とも生き別れ盲目となって門付け暮らしに身を窶す。そのいきさつを娘に語る件は観客の涙を誘う。あげく、勘当した父親が己の失態を理由に切腹をさせられる羽目となり、その失態に己も係わっていることを知って母も娘の目前で自害。その死を悲しむ娘、芝居最高の見せ場。この舞台に展開する悲劇に観客も涙、涙・・。投げられるお捻りが、舞台に舞落ちる雪片以上に大雪となって舞台に積もる。

もちろん舞台は泣かせどころだけではない。芝居の本筋である主人公阿倍貞任、宗任兄弟に源頼家が絡む大立ち回りもあり、歌舞伎独特の大見得も切られる。

一幕(約90分)の芝居だが、観客を大いに楽しませてくれた。舞台終わっての役者そろっての舞台あいさつ、口上に大きな拍手が送られた。地域に根ざした、地域が育て地域を育てる伝統文化だ。

聞くところによれば、このための稽古はお盆明けからスタートし、毎週1回、各回1時間半程のペースで行なわれてきたとのこと。皆さん仕事を終えての稽古だから、体力的にも相当の負担であったと推察出来る。もちろんそれは舞台上の役者さんだけではない。企画から広報に至るまでの諸々の準備に携わったスタッフの方々の苦労もそれに劣らず大変であったろう。しかし、そうした苦労はこれを観る地域の人々の期待の裏返しであり、そのことは芝居の幕が開く1時間以上前から中尾座前に出来る開演待ちの長い列が物語っている。

こうした地域の伝統も一つの地域を活性化させる地域資源である。こういった資源を守り伝承していくことも、地域を維持し活性化するためには大切なことだ。


再生可能エネルギーを普及に向けた提案

伊那市長谷地区の土地利用は、山林が62%、原野が25%で、豊富な森林資源を有している。また、三峰川には大規模な砂防堰堤があるほか、高遠ダムの放流水、地域に数多くある小河川や農業用水路は小水力発電の可能性を秘めている。太陽光発電についても、この地域の年間日照時間は2,000時間を超え、再生可能エネルギーを活用する環境としては、日本有数の適地と考えられる。再生可能エネルギーが地域ブランドにもなりうるポテンシャルをもった土地柄であるといえる。

再生可能エネルギーの活用に関しては、既に多くの取組がなされている。

特に森林バイオマスの活用は、本地域ではもっとも取組が進んでいる分野である。間伐と薪ストーブを結びつける先駆的取組が20年ほど前より行われており、旧長谷村が行った薪ストーブ設置に対する補助事業は、合併後の伊那市に引き継がれている。林業が衰退し、山が暮らしから遠い存在になっていくなかで、山の資源の活用を通じて、山と暮らしとのつながりを再生しようする試みとして評価される。また、上伊那森林組合は、従来の森林管理が不可能になりつつある現状を打開する方策として、森林バイオマスに着目し、2003年度から木質ペレット工場を稼働し、2008年度からは黒字化を達成している。

そうしたことも踏まえ、今後地域全体あるいは地域外での森林バイオマスの利活用をより促進させるため、次のことを提案する。

(1)薪ラベル制度の検討・導入

この地域の薪は、気象状況から水分量が少ない良質な品質として知られている。こうした特性をPRするために、薪に乾燥具合、樹種、産地などのラベル表示のほか、薪産地の森林管理状況などの情報を提供する。そのことにより、良質な薪であることのアピールになるだけでなく、山への関心、森林管理への関心につなげることができる。

なお、2013年に、日本林業経営者協会青年部のメンバーが中心になり、日本薪協会が発足した。薪の需要拡大に向けて、規格や品質、販売単価などに関する基準づくり、生産者への薪ニーズ情報の提供などを行い、山村における経済循環の橋渡し役を担うことを目的としている。また、木質ペレットについては、日本木質ペレット協会が品質規格を制定し、普及を進めている。

(2)セミナー視察のパッケージ化

森林バイオマスの活用への関心は高く、上伊那森林組合、薪の宅配システムを構築した(株)DLDなどには、全国から視察見学がある。今後は受け身で視察を受け入れるのでなく、地域の側から再生エネルギーに関するセミナー開催を呼びかけたり、現在行われている単独施設の見学から、施設間の連携をとった視察のパッケージ化を行うことが大切である。地域全体を視野に入れてツアーをアレンジすることは一つの情報戦略になり、地域のブランド付加につながる。

(3)再生可能エネルギーを体験できる場の設置

イギリスには、エコハウス、エコパークといった環境教育の場が身近に存在する。これは、環境問題の解決に向けて自ら実践できる方法を、子どもたちにもわかるように楽しく学べる施設であり、そのひとつにCAT(Centre for Alternative Technology)がある。ここでは、風力、太陽光、小水力などの再生可能エネルギーを使った手作りのアトラクションや、微生物の働きを用いた浄化システムの展示などがあり、環境教育の場として、イギリス国内だけでなく、世界各国から人びとが訪れている。

このような場を、この地域の遊休地などにつくることを提案する。

この地域には、暮らしの知恵と工夫をもち手仕事に長けた人が多くいる。イギリスのCATもこのような人の無償ボランティアからスタートさせている。場が与えられれば、力を発揮できる人材は少なくないはずであり、点での活動を面での活動に広げていくきっかけの場にもなりうる。

(4)地域内外とのつながりの強化

薪においても自区内消費が基本と思われるが、都市における薪ストーブ愛好者の中には良質な薪を求めながら、手に入れることができない層も少なからず存在する。ニーズは交流があって、はじめて知ることができるものである。

関連する地域内外の団体やユーザーとつながり、気軽に情報交換できる顔の見える関係づくりが、再生可能エネルギー普及の基盤となる。

(5)地域の産業化につなげる仕組みづくり

現在、伊那市では、再生可能エネルギー推進に向けて、太陽熱利用システム、薪ストーブ・ボイラー、ペレットストーブ設置に対する補助金制度を設置している。しかし、個人への助成だけでなく、この地域の産業化へつなげ地域全体を再エネメッカにする仕組みづくりが重要である。

そのためには、山の伐りだしから運搬、エネルギー化までの一貫した流れをイメージした産業の将来像を描くとともに、森林のポテンシャル、物的、人的ポテンシャルなどの現状把握を行い、具体化の方策を行政、企業、市民で議論する必要がある。

(6)行政と企業と市民の三者連携強化策検討

(5)をより具体化していくには、行政、企業そして市民の三者が連携を強化して同じビジョンを共有し取り組んでいく事が望まれる。そのためにまずは、再生可能エネルギーに関する市職員向け、企業向け講座など、または一般市民向け、専門関係者関連向け学習会開催が必要と考える。さらに、三者による伊那市の再生可能エネルギー協議会を設立し基盤とすることにより、積極的な推進が図られるものと考える。

【参考資料】