2000年1月号会報 巻頭言「風」より

破壊の世紀から再生の世紀へ

加藤 三郎


新しい千年紀の幕が開けました。皆様には如何新年をお迎えでしたでしょうか。

私たち事務局一同は、ミレニアムと呼ばれる歴史的な節目を迎えるにあたり、この一年、本会報をどう編集するかを始め本会の活動全般をどう企画し、実行してゆくか、何度も何度も議論いたしました。その結果、次の二つのことを決めました。一つは、20世紀最後の今年中を通じ会報の大テーマは「破壊の世紀から再生の世紀へ」とし、21世紀に私たちがどう暮らし、経済活動やそれをとりまく諸制度をどう変えたらよいかなどを様々な切り口から追求していこうというものです。二つは、この大テーマのもとで会員の皆様一人ひとりに年間を通じ、少なくても一度は何らかの形で会報の誌面づくりや各種の活動に参加してもらい、文字通りすべての会員が21世紀をどうつくりあげるべきかについての知恵を出してほしいというものです。

(1)破壊ではなく再生の世紀に

会員の皆様のなかには、私たちがずっと生きてきた20世紀を環境面から「破壊の世紀」と評価することに異論や反論がある方も少なくないかもしれません。例えば今起きていることは環境の「変化」ではあっても「破壊」ではないと考える方もおられるでしょう。また破壊だけでなく技術や制度の力で環境を改善した例も数多いではないかとの指摘もありましょう。しかし私たちはやはり「破壊」と考えます。

20世紀のわずか100年の間に、人間社会はそれ以前の世紀では夢想だにしなかった地球環境の大規模な破壊を結果的には引き起こしています。

実際、地球の温暖化は、5年前に科学者が予測したよりも加速気味で進んでおり、気象のただならぬ異変は地球上のいたるところで生じています。人工的に合成された化学物質による汚染とその影響の拡がりは、ついに環境ホルモン問題という新たで深刻な問題に発展し、人間の生殖能力の危機までが問われ始めているのです。熱帯地方やシベリアなどにおける森林の破壊と焼失などによる大規模な土地利用形態の改変はとどまるところを知りません。

これが気候に大きな影響を与えるだけでなく、そこに生息していた数知れないほどの微生物、昆虫、鳥、植物、大型動物などの種の絶滅をもたらしています。さらに途上国で増大しつづける人口は、都市をスラム状のまま膨張させ、そこでは例外なく、車の渋滞がひどくなり汚水やごみによる環境の劣化も急速に進んでいます。大量生産・大量消費で空前の「豊かさ」を享受してきた日本を含む先進国世界でも、増大する廃棄物を処分する場所もなくなりつつあります。

例の東海村の臨界事故でJCO社員の大内さんが亡くなった時に、東大病院の主治医は、「経験したことのない全身障害」、「誰も見たことのない、教科書にも記述がない症状だった」と語ったそうです(昨年12月22日「読売」)。私はこれを読んだ時に、地球環境も20~30年後頃には、同じような症状を呈するに至るのではないかとひどく心配したものです。

しかしだからこそ私たちはこの環境上の危機に打ちひしがれ、安易な絶望に走るのではなくむしろこれをバネにして、人間が人間らしくまともに生きてゆくのに最も基本である環境の「再生」に取り組みたいのです。とは言っても、ほとんど取り返しがつかないほど壊してしまった環境を「再生」するなどは至難中の至難事であると考えるべきでしょう。まして会員800人足らずの本会に何ができるのかを真剣に問えば自己満足以上にはほとんど何もできはしないという考えにとらわれたとしてもそう責めることはできないでしょう。

しかし私はマザー・テレサが言ったという「大海も一滴から始まる」という言葉が好きです。私たちも「一滴」になる覚悟があれば、やがて環境の再生という大海に向けて、たとえ一歩や二歩であったとしても、20世紀に生まれ、生きたものとして21世紀へこの地球環境を引き継いでゆく責務が果たせるのではないでしょうか。

だから年頭にあたって、一体私たち自身と本会に何ができるのか、会員一人ひとりに改めて考えていただきたいのです。

私自身は、これからもシステムづくりに精を出すつもりです。本会の制度部会のクルマ社会の検討も倫理部会の食と環境倫理の検討もやっと面白い段階に入ってきました。佳境といってもよい段階にきつつあります。そのほかに環境保全と経済政策とが真に両立しうるよう環境税や料金制度のグリーン化(ごみ、高速道路など)などの経済的手法を日本社会に導入するよう働きかけを続けたいと思っています。そのためには、環境問題が日本の政治の端ではなくど真ん中で議論される必要がありますので、憲法に環境条項を入れる主張を私なりに続けたいと思っています。もちろん、日米セミナーやオックスフォード委員会を通じて外国の友人たちとも一緒に活動します。

(2)今年こそ全員参加

21世紀が「再生の世紀」となるには、一人ひとりの自主的、主体的な活動が不可欠です。もちろんその思いや内容は、それぞれに異なるわけですが、当会の会員は、とりわけその思いは深いはずですし、また活動も多岐にわたっているに違いありません。環境の危機を前にして、どうか今年は会員一人ひとりの知恵や活動を本会報の誌面に表れるよう格別のご協力をいただきたいのです。これまでも本会は、会報の誌面を会員に開放し、意見を掲載し、またアンケートにより会員の意向を伺ったりしてきましたが、今年は年間を通じて「破壊の世紀から再生の世紀へ」というテーマで皆様の意見や知恵を是非いただきたいのです。様式も字数も全く自由です。20世紀は「破壊の世紀」ではなかった、再生などできっこないなどの異論、異見も歓迎です。21世紀を持続可能な社会にするために役立つと思うことを葉書に2、3行でも、FAXに書きつづっても、写真でもイラストでも論文でも詩、短歌、俳句何でも結構です。どうか、会員の皆様(もちろん企業会員も)の思いやお考えを事務局にお寄せ下さい。それを私たちすべての栄養にして、21世紀を真に「再生の世紀」とするための英知とエネルギーの源泉にしたいのです。

いつの時代でも、回天の知恵は、教科書や当局の指示からではなく、困難に様々なやり方で挑戦するその中から出てくると思うからです。