2000年10月号会報 巻頭言「風」より

企業トップの意見を聞く(2)

加藤 三郎


前回は、毎日新聞の連載企画「どうする?循環社会を築くために」のシリーズで私が直接お目にかかった24人の政治経済分野のリーダーの中から、稲盛和夫、樋口廣太郎、大野剛義、そして藤村宏幸各氏のお話を紹介しました。いかがお読みいただけたでしょうか。加藤の突っ込みが弱い、きれい事だけ言っている、いや、さすがに21世紀を見通した立派な意見だなど様々に受け止めていただき、いろいろと考えていただけたかと期待します。

今回は、特にもの作りやエネルギー供給を直接の業としておられる4人の企業トップの率直な意見を紹介した後、私のまとめのコメントを書き添えてみたいと思います。

なお、このインタビューの仕方は、予め私の方から主要な質問項目を送っておいた上で、1時間ほどのインタビューをし、その模様を毎回同行した今松英悦論説委員がテープをもとに活字にし、最終的に私と対談者の確認を取った上で紙面に載せているものです。


○森和弘氏(松下電器産業常務)(1999年12月27日付)

加藤:
(家電製品を)回収した後、リサイクルのための分解などが大変だとすれば、もの作りを勉強し直さないといけないと思いますが。
森 :
今まで、高度成長時代は、大量生産-大量消費-大量廃棄が成り立つ企業は利益を上げ、成長してきました。しかし、いまやそれでは利益も上がらない。これまでの生産技術は工場から製品を送り出すまでのものでした。これからは、使い終えた製品をできるだけ、もとの材料に戻すリサイクルまで含めた技術が重要になります。
加藤:
もの作りの原点に返ろうということですね。
森 :
そうです。本来、資源の乏しい日本はそこが強かった。材料を生かすというか、無駄遣いせず、使い切ってきました。生産の段階でも廃棄物を出さず、使い切ったり、循環させてきました。かつて、木は神様の持ちものだから、必要以上に切らないとか、切った後もとことん使い切るといった「もの作り」の文化を持っていました。それがなくなったところに、環境だけではなく、製造業の競争力が失われてきた原因があるのではないでしょうか。
加藤:
どこまで変わりますか。
森 :
内部では極端なこともいっています。大型冷蔵庫があるから、余分なものを買い込んで、賞味期限過ぎのものを保管する状態を作っている。冷蔵庫のない時代にはその日の分を買って、使い切っていた。だからごみも出なかった。いかに余分なものを買い込まなくても済む冷蔵庫にできるのか、考える時代になっています。そうした発想をするなかから、お客さんが買ってくれる商品がどんどんできてくる気がします。知らず知らずのうちに世の中は、そういう方向に動いているのです。

○金川千尋氏(信越化学工業社長)(2000年1月17日付)

加藤:
塩素を使わないプラスチックを増やし、塩ビの比率を下げるという考え方はどうですか。
金川:
塩ビは原料の約6割が塩、約4割が炭化水素です。石油は有限です。100%海外の石油に依存している日本にとって、原料の6割が塩である塩ビはいかに省石油かということです。日本の塩ビ製造をすべてやめれば、さらに年間340キロリットルの原油輸入が必要というデータがあります。
加藤:
(化学工業)業界が自主的にやるといっても、本当に大丈夫なのかという心配がありますが。
金川:
重要な有害物質は客観的な規制値を作るべきです。それは最低、守らなければならない。そこまでいかないものについても、自主的に基準や目標を作り、守っていくのがレスポンシブルケアです。
加藤:
これまでの知恵で出てきたものに予防原則があります。後で、やや規制のし過ぎだということになってもいいから、早めに規制するという手法です。
金川:
横浜国立大学の中西準子先生がいっておられるように、世の中に完ぺきなものはありません。メリット、デメリットの大小で決めるしかありません。メリットが非常に大きく、実害は何も実証されていない多くの物質を予防的に全部、製造中止にすることは文明の否定にほかなりません。

○太田宏次氏(電事連会長(中部電力社長))(2000年3月20日付)

加藤:
21世紀の発電構成はどうなりますか。
太田:
自然エネルギーもやりつつ、原子力中心にやっていくことになると思います。石炭はあと231年、石油は43年、天然ガスは63年でなくなります。ウランもいま原発で使っている原子量235のものは、自然のウランには0.7%しか含まれておらず、72年しか持ちません。99.3%を占めるウラン238を使えるようにすることが、今後の課題です。
加藤:
電力会社は自然エネルギーをやらないのですか。
太田:
維持・保全や送電などでの技術があるのですから、やらせていただければ、うまくいきます。風力にしても、適正なメンテナンスをしなければなりません。ただ、コストが高く、民間企業としては採算が合いません。
加藤:
再生可能なエネルギーとして木質バイオマスが注目されています。将来性をどうみますか。
太田:
人口が3000万人程度とか、エネルギー消費量が江戸時代くらいだったらいいのですが、今の日本で木材を燃やして発電するとなれば、山が裸になってしまいます。省エネとセットにしないと、うまくいきません。結局、補完的なものという気がします。
加藤:
スウェーデンではバイオエネルギーが化石燃料を上回っています。これも、炭素税を高くしたり、いろいろな政策手段を講じてのことです。
太田:
やれる範囲では努力すべきです。補完的意味合いであっても無視すべきではありません。
加藤:
通常の電気料金より5%ぐらい高くてもいいから、自然エネルギーを使いたいというグリーンコンシューマー運動が日本でも出てきています。 太田:消費者の間で合意が得られれば、可能性はあるでしょう。そうしたことに対応できるよう研究を進め、体制を整えておかなければならないとは考えています。ただ、電気代は1円でも安い方がいいという人が多いのが現実です。

○豊田章一郎氏(経団連名誉会長)(2000年6月19日付)

加藤:
豊田さんは1996年10月に開かれた、国際電気自動車シンポジウムで、21世紀は「環境の時代」になり、いろいろな価値観のなかで「地球環境の保全は最も優先的なものになる」と発言されました。それから約3年半、いま、どういうお考えですか。
豊田:
環境庁ができた71年のころ私は、環境と経済の調和ということを盛んにいっていました。そのころは、環境を良くするためには経済などどうなってもいいんだという論調が強かった。しかし、その後、環境と経済との共生という考え方が出てきました。96年のころは、私の発言はもう常識になっていたのではないですか。人類が生存している範囲は非常に狭い。せいぜい地表から高さ5キロぐらいの空間です。この限られた空間の中で人類が一日でも長く生存していくためには、よほど地球環境に関心を持って生きていかなければなりません。放っておいたらだめです。人間の英知で何とか悪くならないようにしなければならない。地球の保全、維持という方向にこれからの技術は向いていくのではないでしょうか。
加藤:
地球環境保全と経済活動とは矛盾してきませんか。経済活動を縮小する必要が出てきませんか。
豊田:
いや、もっと経済活動をやらないと解決できないというか、技術の力を使っていかないといけないと思います。もちろん、いままでの大量生産、大量消費では、持ちません。森林の問題にしても、木を一生懸命植えなければなりません。92年の国連環境開発会議(地球サミット)から8年、いま世界中がそういう方向に動き出しています。
加藤:
経済を縮小するのではなく、経済を強くするということですか。
豊田:
経済は我々が生きていく上で必要ですから、どんどん成長させなければならない。ただ、どの方向に成長させるのかが問題なのです。地球が保全され、人類のみならず生物も共存共栄できる--という方向に世界は動いており、そのなかで日本はリーダーシップを取っていけるグループに入っているのではないですか。地球を飛行機から見ると、木の生えていないところが多い。技術が進めば、そういうところも住めるようにできるのではないですか。もちろん、新しいエネルギーの開発は進めていかなければなりません。経済全体のためにです。石油がなくなる前にきちっとしたエネルギーを探しておかなければなりません。それは人間の英知です。

以上、2回にわたって、現代日本のものづくりなどの最前線におられる8人の企業リーダーのお考えを紹介しました。この8氏以外の経済人にも傾聴に値する意見は多々ありましたし、政治家、学者、行政官の意見も面白かったのですが、ここでは特集のテーマ「グリーン化する企業」に焦点を合わせ、誌面の関係で8人だけを取り上げました。

特に、印象に強く残ったのは、まず第一に大量生産、大量消費のやり方は、もはや持たないと企業リーダーが認識していることです。豊田さんは、技術力を使って経済を強くする必要性は強調しても、「いままでの大量生産、大量消費では持ちません」と考えています。稲盛さんは「大量生産、大量消費という使い捨ての社会が経済のパイを大きくするという信仰」が、21世紀への方向転換に無意識にブレーキをかけていると指摘します。森さんは、高度成長時代は、大量生産で利益を上げてきたが「いまやそれでは利益も上がらない」と率直におっしゃる。

それでは、大量生産、消費に替わる経済のあり方は何かについては、このシリーズでは明確には出ていませんが、私はそれは小量生産・消費ではなく、「適度な生産、適度な消費」だと主張していますし(本誌99年10月号)、また本年8月号ではその観点も含めて社会資本の方向性について論じてみました。もとより、未だ試案の域を出ていませんが、当会では今後とも繰り返しこれを追求していきたいと思っています。

第二は、第一の点とも関連しますが、やはり大野さんのおっしゃる「所有」から「利用」への転換、いわばレンタル社会化は、今後もっともっと掘り下げるべき重要かつ実践的なテーマだと考えます。多くの人が多様なモノ(土地、家、自動車、冷蔵庫、パソコン、携帯…)を所有しないで、機能を利用するようになれば、かなり面白い政策が展開できるに違いありません。

第三点は、21世紀のリーディング産業は環境ビジネスだという期待です。樋口廣太郎さんは「21世紀の半ばには環境ビジネスがリーディング産業のひとつになっている筈」と明解に語っておられます。一方、環境産業界のリーダーである藤村宏幸さんは「まだ生みの苦しみというところ」とおっしゃっていますが、それでも技術の芽は沢山出ているし、環境技術は世界の最先端にあると見ておられます。

こうみてくると、やはり、経済界のトップレベルにおいて多少の濃淡はあっても、循環社会は、現実の政策課題になっているのです。残るカギは、一般国民の動向です。これについても、別の機会に語りましょう。(毎日新聞社は、今回の対談シリーズと私の解説を合体して、出版することを計画中です。ご期待下さい。)