2001年2月号会報 巻頭言「風」より

地球温暖化の重大な脅威

加藤 三郎


前号の本欄で、私は、地球温暖化防止に関する科学、影響、対応などを1988年以来継続して検討している国連の専門家パネル(IPCC)のワトソン議長の発言を紹介した。今後1世紀のうちに、1.5~6度上昇する見込みというものである。実は、これは、邦字各紙が報道したところによったのだが、その上昇予測はあまりに大きく、重大と思われたので、ワトソン議長がCOP6(地球温暖化防止ハーグ会議)で昨年11月13日に発表したテキスト全文を是非見たいと思い、環境省の竹本和彦さんを通じて入手した。A-4にびっしりと図表付き20頁のテキストである。

これを読んでみて、地球温暖化はますます重大事になったと再認識した。本誌が温暖化問題を特集するにあたり、会員の皆様にも是非知っておいていただきたい基本的な情報と信ずるので、ワトソン議長レポートの要点を私なりに抄訳して紹介しよう。

このワトソンさんのステートメントと前頁のグラフをご覧になって、会員の皆様は、どうお考えであろうか。21世紀にこんなにも厳しい未来が待ちうけているとは知らなかったとの思いをされた方も多いのではないだろうか。言うまでもなくワトソンさん自身、立派な科学者であるが、ここに表明された意見は、彼個人のものではない。IPCCで長年検討されてきたものを議長として、昨年の11月の時点で、COP6に対し、正式に表明したものである。もちろん、科学的知見は、科学的データの蓄積などとともに変化しうる(現に、ワトソン発言後にも検討がつづけられており、下方に微調整がなされた由。森田・原沢論文を参照されたい)が、地球の温暖化については、ほぼ一貫して、時間とともに厳しい事態へと認識も予測も動いている。

ワトソンさんのワの字も、地球温暖化の影響のことも知らなくても、今の日本では将来に対する不安や危機感は一杯ある。ワケもなく(と大人には思える)凶悪な犯罪を冒してしまう青少年。止めどなく膨れあがる国や自治体の借金。無責任な政党政治と性懲りもなく続く官界の不祥事。街には、犯罪が増え、日本は世界一安全な国という信頼がまた「神話」と化して崩れてゆく不安などなど。

たまたま本稿を執筆していた時に、日経夕刊(2月1日付)の「十字路」に経済産業ラボ代表の吉田春樹さんという方が、この夏の参院選のゆくえ、不良債権処理の遅れ、ペイオフ解禁問題などの不安にふれながら、「これから先、何があってもおかしくない状況である。政治と経済とを重ね合わせてみると、恐ろしい絵図が浮かんでくる。経営者の自己努力は当然のこととして、いざという時には、政治が大胆かつ機敏に動かなければならないが、果たしてそれができるであろうか。」と書いているのを目にした。吉田さんに限らず、経済分野でも、日本の危機を訴えている人は多い。

現下の日本の政治、経済、社会を覆うこのような不安感や危機感に加えて、環境の危機がしのび寄ってきている。しかもそれは、温暖化だけをとっても、とてつもなく重大な脅威となる可能性がきわめて大きいということを私は重ねて強調せざるを得ない。人類の歴史のなかでかつて経験した数々の危機のなかでも、おそらく第一級の危機になると考えられる地球環境上の異変が迫っているというのに、そして、昔と違って、その情報は秘匿されているわけでもなく、誰でも自由に、いくらでも知ることが出来るのに、人々も政治も魔法にかけられているかのように、気休め程度のこと以上には動こうとも対応しようともしていない。それどころか、相も変わらず経済、経済と叫び回っているように私には思える。前号で論じたCOP6の蹉跌が一つの端的な事例だ。さきほどの吉田さん風に言えば、「政治と環境とを重ね合わせて見ると、恐ろしい絵図が浮かんでくる」のである。

しかし、このように嘆いてばかりいても仕方がない。私たち自身が立ち上がり、さしずめ出来ることから始めるしかない。昨年12月の本欄で紹介したように、スウェーデンの人たちも、20年前に環境党を立ち上げ、数は未だ少数派とはいえ、政権の一翼にそれを押し上げた。ドイツだって、フランスだって、みな同様の努力を他でもない国民がしているのだ。アメリカ在住の有坂陽子さんの本号のレポートにあるように、共和、民主の二大政党が長年アメリカの政治を支配しているなかにあって、第三の政治勢力として「緑の党」が苦闘しており、2%を超える票を得るほどの挑戦をつづけていることにこそ、ブッシュ新政権のゆくえやウォール街の株価の乱高下以上に、私たちはもっともっと注目し、学んでよいのではないか。

私たちみなが愛する、この美しかった日本が、「恐ろしい絵図」に変ずる前に、NPOとして、なすべきことは沢山あると強く思うこのごろである。