2001年3月号会報 巻頭言「風」より

注目される家電リサイクル法の実施

加藤 三郎


この会報が、皆様のお手元に届く頃には、もしかしたら町の電気屋さんや家電量販店では「駆け込みセール」の真最中であるかもしれません。なんで「駆け込み」かというと、この4月1日から日本全国で家電リサイクル法が施行され、冷蔵庫、テレビ、洗濯機、そしてエアコンの4品目については、買い替えなどによって使用済み品を廃品として出す人は、その廃品を再資源化(法律では「再商品化」という)する費用(冷蔵庫の場合だと1台あたり4,600円)に収集運搬費用(場所によって違うが3,000円前後か)を加えて支払うことになるからです。

これまでですと、多くの場合、電気屋さんが新品と引き替えに古いのを無料かそれに近い費用で「下取り」してくれていました。4月からは、これら4品目の買い手にしてみると相当な出費(冷蔵庫の場合だと合計7,600円前後)になりますので、そうなる前に「駆け込み」需要が発生するであろうと見込んでのセール風景が全国各地で今進行中というわけなのです。

それでは、この家電リサイクル法は、使用者(排出者)にだけ出費を強いる法律なのでしょうか。そもそも、それ以前は、この問題はどうなっていたのでしょうか。またなぜ、このような変化が生じたのでしょうか。

結論を先に言ってしまえば、市町村ではなく事業者(家電製品のメーカーや商店などの流通業者)に、使用済み品の回収と一定割合以上の再資源化を義務づけ、それに要するコストは、排出者(多くの場合、家庭)に直接(税金でなく)支払ってもらう仕組みとしたものです。

この制度により、これまでは市町村が「粗大ごみ」などとして引取って破砕したり、埋立て処分などをしていましたが、その仕事に替わって、事業者が回収し、再資源化するという新たな、大きな負担を課することとしたのです。実は、これまでも市町村は、冷蔵庫などの粗大ごみを資源として活用する努力も税金(一部、排出者負担)を使って様々にしていましたし、これからもしようと思えば出来る仕組みは残っているのですが、家電リサイクル法の施行により、その仕事は原則として事業者の責務となったのです。

それでは何故、このような変化が生じたのでしょうか。市町村でごみが溢れ出し、ごみ処理が難しくなり、費用も年を追うごとに増え出したことによって、「ごみを資源に変えよう」という循環思想が説得力を得たことが背景にあることは間違いありません。しかしもっと切実な理由がいくつもあったのです。

一つには、家電製品のように構造的にも組成的にも複雑で頻繁にモデルチェンジされる製品が使用済みとなったとき、これまでのように自治体の清掃部局がその処理やリサイクルをするよりも、その製品をつくり、熟知しているメーカーに戻してやってもらった方が、はるかに容易で合理的だという役割分担についての認識の変化。

二つには、メーカーや流通業者に対して、自分がつくり、あるいは扱った製品を再資源化するという重荷を課すことで、処理やリサイクルしやすい製品の検討・開発を強く促すこと。

三つには、使用者に対して、その製品の便益を享受したあと使用済みとなった製品を始末する費用を、税金という目に見えにくい形ではなく、直接負担することによって、環境や資源を守るコストを目に見える形で公平に負担し、また、その負担を通して製品の長期間使用などを促すこと。

そして今にして思えば、このようなことを通じて、生産→消費→廃棄というワン・ウエイではなく、メーカーなどがリース・レンタル業などへと業態を拡大し、国民も製品を「所有」することよりも「利用」する価値にウエイトを置く「レンタル社会」という循環型の社会形成を促すことにつながると考えられます。

このうち、一と二は、その後「拡大生産者責任(EPR)」として循環型社会の原則と位置づけられるようになったもので、90年代の後半に日本を含む先進工業社会がOECD環境政策委員会の場で国際的にも議論し、確立された考え方です。家電リサイクル法は98年6月に成立した法律ですが、OECDなどで議論途上であった拡大生産者責任の考え方が先取り的に法制化され、後に2000年5月の循環型社会形成推進基本法には、より一般的な形で制度化されたものです。先日、駐日ドイツ大使館の環境担当書記官にお目にかかったら、この家電リサイクル法が日本でどのような形で実施され、どのように日本社会にインパクトを与えるのかドイツを始め、ヨーロッパ諸国の専門家が注目していると言っておられたのは、あながち外交辞令ばかりではないのです。

また上記三は、私が「拡大消費者責任」ととりあえず呼んでいるものです。つまり、国民という一般消費者も、これまでのように、行政や企業に強く依存するのではなく、循環型社会形成のために、自らも排出したごみの処理やリサイクルに要する費用を目に見える形で主体的に負担し、その負担の重さを感じながら、製品を長期間、大切に(修理なども含めて)使用することによって、排出するごみの量を減らすようになることがどうしても必要です。この考え方も循環型社会形成推進基本法に取り込まれています。

こう見てきますと、家電リサイクル法の今回の実施は、かなりの広がりと深みのある変化を日本社会にもたらすことが期待されます。だからどうしても、本法の実施が家電製品の不法投棄の増加だけに終わったなどという惨めな結果にしてはならないと思います。それだけに、それよりも先に法制化され、今となっては大きな欠陥が目につく容器包装リサイクル法の改正は不可避ですし、家電4品目に限らず、携帯電話、パソコン、自動車などに対しても、早く制度化してほしいものです。

なお、私たち本会事務局スタッフは、このようなリサイクル問題について幅広い視点から検討し、岩波書店の岩波ブックレット『かしこいリサイクルQ&A』を執筆しました。この本は、3月19日に全国で発売(本体440円)されます。最新のリサイクル事情や循環型社会づくりを目指す私たちの考え方や主張を色濃く出しています。お読みいただくだけでなく、学習会などで幅広くご活用下されば幸いです。