2003年6月号会報 巻頭言「風」より

日本は循環社会に向かっているか

加藤 三郎


循環型社会元年とされた2000年以来、循環型社会基本法を始めとするリサイクル関連法が相次いで制定された。また京都議定書の批准に前後して、地球温暖化対策推進法や省エネルギー法の改正、さらに新エネルギーによる一定割合の発電を義務づける法律の制定など、エネルギー関連の法制度も整備・強化された。一方、自治体も企業も先進的なところは、循環社会に向けて真剣に取り組んでおり、優に世界的なレベルに達しているところも少なくない。

このように日本は間違いなく循環社会に向けて進んでいる面はあるが、優良部門だけでなく日本全体を改めて見た時、果たして日本は循環社会に向かって進んでいるかどうかを考えてみたい。

1.全体的状況

まず、第1に昨今の経済状況、イラク戦争、北朝鮮の核・拉致問題など、国民が危機と感ずる問題が多々あるため、短期的には環境に対する国民のプライオリティは低下している。ただし、長期的には、国民の環境意識は依然として高いといえよう。私のこの認識を支持するデータはいろいろとあるが、ここでは読売新聞が全国3000人の有権者を対象に行っている最新の世論調査の結果から見てみよう。

まず政府に優先的に取り組んでほしい政策課題をプライオリティの高い順に並べると、景気対策、雇用、北朝鮮など外交問題、社会保障、税制改革、教育改革、財政の健全化などが続き、新型肺炎(SARS)対策と並んで環境対策がやっと8位にランクされている(5月13日付)。実はこの調査は、定期的になされているが、ここ1年ほどの傾向をみると、環境対策はかつての高順位から、8~10位に低下している。

しかし国民の長期的視点は、同じ読売の世論調査結果をみると、戦争放棄・自衛隊問題に次いで環境問題は第2位。ちなみに3位はプライバシー、4位は生存権・社会福祉、5位は情報公開、6位は選挙制度などと続いている(4月2日付)。

第2に、「ごみは資源」との認識を今や多くの人が共有するようになり、さらに、ソーラー・風力・バイオマス・小水力などの自然エネルギーに対する国民の関心は、ここ数年、益々高まり、日本各地で、自然エネルギー利用が盛んになってきている。

第3に、モノの使用を削減(リデュース)する必要性や理念は多くの人に認識されるようになってきたが、その一方で大量生産・大量消費の従来型の経済システムにとって替る経済モデルをつくり得ていないため、モノの使用の削減を具体化しようとすると、景気や雇用対策などの不況対策との齟齬が生じ、抵抗が強くなる。

第4に、企業による革新的な技術やシステムの開発は極めて旺盛といえる。しかしながら、税制、規制(規制緩和を含む)などの社会システムの改革が遅れているため、革新的な技術開発をタイムリーに生かし得ていない。

2.循環社会推進国民会議の評価

ところで、私は1997年に発足した「循環社会推進国民会議」というNGOの事務局長もつとめている。この国民会議は、5年前に、循環社会をつくるために、次の基本提言を行っている。

この基本提言を掘り下げ、肉付けするために、国民会議は様々な活動をしてきたが、本年5月に、日本社会は循環社会に向かっているかの 検証をするためにシンポジウムを開催した。そのシンポジウムに向けて、上記4項目のそれぞれについて、進んだ面、いまだ遅れている面、そして課題を同国民会議の幹事会は総括している。各項目に対する総括の骨子を簡単に紹介してみよう。

まず、①については、この5年の間に「ごみ」は活用されるべき「資源」としての認識が国民の間に広がり、制度化も進んでいる。その結果、地域から「ごみ箱」は減り始め、「リサイクル箱」が増えているが、折角リサイクルされたものが、ごみにならず確実に活用されるきめ細かな仕組みづくりとともに、消費者・流通業者などの意識の転換の拡がり深まりが、今後の課題。

②については、拡大生産者責任への認識と行動は改善されているが、今後も事業者(特に中小企業)の努力は不可欠。同時に消費者がどのような製品やサービスを必要とするのかを明確にし、事業者に伝える事が今後の普及の鍵。

③については、消費者の環境意識は高まりつつあり、循環する製品づくりや積極的に情報を提供する企業も出てきている。しかし、全般的には、質・量ともに適切な情報の提供は少なく、消費者がそれによって判断することは難しい状況。また消費者、企業側共に「適度な消費」の意識はいまだ低く、大量生産・大量消費が歯止めがかかったとは言い難い。意識の転換をもたらし、適度な消費を促す制度や経済的インセンティブが働くような仕組みが必要。

④については、「環境をまもる費用」を行政、企業が市民に公開していく、適正に費用を負担するといった考え方は拡大。また、法制度面や実態面での進展も若干見られる。しかし、行政や企業が環境をまもるための費用の中身と負担実態を、市民にわかりやすく提示することや適正に負担することは、まだ初期段階。適正な負担が、循環社会の構築の必須の条件であることを理解し、行政、企業にその履行を迫ることが必要。

3.今後に向けての課題

以上の認識は循環社会推進国民会議が最近取りまとめたものであるが、私自身として、特に次の3点を強調しておきたい。第1には、消費者の意識の変化が循環社会をつくる上での鍵となっている点である。消費者が変わるのが先か、企業が変わるのが先かといった議論があるが、私としてはもはや消費者側の変化が不可欠と考える。第2点目は、きめ細かな社会システム、特に税・課徴金や規制の強化(場合によっては緩和)といった良きシステムを作り上げることが必要である。そして、なによりも、20世紀型の大量生産・大量消費に依存しない持続可能な生産・消費を可能とする経済構造を一刻も早くみんなで作り上げ、それを日本はもとより世界に普及させることである。