2003年7月号会報 巻頭言「風」より

「グリーン経済部会」を立ち上げます

加藤 三郎


1、グリーン経済をつくることは、未来投資型の事業

本誌本欄の読者は、私が経済についてもしばしば触れてきたことにお気付きであろう。たとえば、90年代に入って日本経済の課題が国債の乱発による景気浮揚策に集中していたときに、私は繰り返し「景気がそんなに大切か」と、批判的に論じてきた。その半面で、地球温暖化の脅威を前にして、温暖化に耐える経済社会をつくることの大切さも、繰り返し述べてきた。たとえば、昨年3月号の「グリーン経済を一緒につくろう」においては、NGOである私たちこそ、21世紀にふさわしい企業経営、ビジネスモデル、ライフスタイルを力強く提案しようと、呼びかけた。そのとき、日本経済の再生に何より必要なのは、夢と希望を抱かせる未来投資型の事業であり、それについては、「経済と環境が調和し、人間社会が生き生きと脈動する持続可能な循環社会をつくることに他ならないのではないか、簡単に言えば、環境対策のためにとった措置が経済にも人間が生きる社会にも役に立ち、また逆に経済対策としてとった措置がすなわち環境にもいい施策、事業、企業活動、そしてライフスタイルとなること。」と述べた。グリーン経済をつくることは、このような一連の厳しい構造改革をすることであり、それはまさに、地球環境問題が、ますます厳しい制約条件の中で、人間が人間らしく生きていくための経済社会をつくることにほかならない。

2、そのためには何が必要か

大量生産、大量消費に依存しきってきて、それゆえに環境破壊も伴ってきた経済社会を見直すということは、並大抵のことではない。これに関連して、日立環境財団からの助成を受けた「持続可能な生産活動に促進に関する研究」での検討模様を本年3月号で載せているが、小野五郎埼玉大学教授、森田恒幸国立環境研究所・社会経済システム研究領域長さらに堀安俊介日立製作所環境本部長らとの対話を通じて、私が感じ取ったいくつかの課題を書き出してみれば、次のようなことである。

もちろん上記以外にも、必要となる課題は沢山ある筈で、それをより幅広い視点で、追求したいのだ。

3、グリーン経済部会のねらい

過去に倫理部会の作業の一環として、グリーン経済に関する内外の著書などの予備的な勉強会を数回やったことがある。この成果も踏まえながらも、より幅広い視点から、グリーン経済について、会員と一緒に本格的に勉強したいと思う。私のねらいは少なくとも2つある。

第一はグリーン経済、つまり持続可能な経済や生産は何か、といったことに関する本質的な問いに答える努力をすることである。こんな問いが考えられる。現在の日本経済は中長期的(10年から30年程度)にみて、持続可能と思うか。持続可能でないとしたら、その理由は何か。そもそもグリーン経済とは、どんな姿をしている経済なのか。今日の社会で膨大な生産、消費を行いながら、グリーン経済を作ることは本当に可能なのか、可能だとしたらその条件は。経済がグローバル化している状況の中で、一国内の持続性を論ずることに意味があるのか。ないとしたら、どのような枠組みの中で考えるべきなのか・・・。このような問いを自ら発し、自ら答えを出す努力を重ねることが一つである。

二つ目としては、グリーン経済の具体的な姿も追求したい。たとえば、日本の民間企業のグリーン経済度はどのくらいか。技術開発を進める上で何がネックになっているのか。金なのか人なのか制度なのか。そのネックを解消するための社会システム(税とか規制のあり方)のどこをどういじる必要があるのか。また、それによって、どこに新しい職ができ、どこの職が失われていくか。さらに、公共事業は、金食い虫として強く批判されているが、公共事業一般がそんなに悪いものなのか。むしろ、環境にも、国や地方の財政にもやさしい事業はあり得るのではないか。それは具体的にどんな事業なのか、それによってどのくらいの雇用が見込まれるのか。こういうこともこの部会において、みんなで検討したいと思っている。

4.部会への参加お誘い

当会のすべての部会活動は、会員の自発的な参加によって維持される。これまでの部会はウィークデイの夜に都心で会合を持つという制約から、通常10人から20人程度の参加を得て、活動してきたが、グリーン経済部会もほぼ似たような方法でやりたい。

早ければ8月の下旬にスタートし、原則として月1回くらいのペースで、会員の自発的な参加、つまり各自が持ち寄った資料、材料、主張でもって、議論を進めていきたい。会報に第一回会合の日時、場所を掲載するので、早速、事務局に連絡して頂きたい。21世紀にふさわしい経済社会を作る、そのための基礎的な作業に参加してみたい会員は職業、年齢を問わず、ふるっての参加を心から期待している。