2003年10月号会報 巻頭言「風」より

森田先生の足跡-環境と経済の両立

藤村 コノヱ


環境と経済の両立については、以前から多方面で議論が続けられ、最近では環境税(温暖化対策税)の議論が本格化しつつある。

当会でも、環境倫理部会や日米研究などで「環境と調和した経済のあり方」について議論してきたが、それをもっと掘り下げようと、8月より「グリーン経済部会」を立ち上げ本格的議論を始めたところである。

一方、こうした活動に関わる中で、私自身、持続可能な社会を築くには「環境」だけを学ぶ環境教育では不十分で、経済的視点が不可欠だと常々考えてきた。というのも、私たちの暮らしは間違いなく経済活動の上に成り立っており、例えば、自給率を高め地産地消の食を、といっても、流通のしくみや産業政策、ひいては貿易のしくみや安全保障までが絡むと言った具合に、結局は現在の社会・経済の仕組み、それを良しとする個人の価値観に突き当たるからである。

しかし、これまで環境教育では、「経済」についてあまり語られてこなかった。その理由はいろいろあろうが、現在の経済活動が「人間生活を豊かにする経済」とは違うレベルで展開され、素人には「よくわからない」流れや構造になっていること、環境と経済の両立と言われながらその具体的な姿が見えず、何をどう教え学べばいいのかわからない、という理由にもよると思う。

とはいえ、環境教育推進法も成立し、いよいよ持続可能な社会に向けた環境教育の中身を本格的につめて行かなければならない時期になって、悠長なことは言っていられない。

そこで、環境教育部会を中心に環境教育の枠組み作りを進めており、その一環として、8月23日から伊香保で「サマーセミナー」を開催した。

実はこのセミナーでは、国立環境研究所の森田恒幸先生に講師をお願いしていた。森田先生が温暖化や環境経済の最先端で活躍されていたことは周知の通りだが、当会の会員でもあり、経済のよくわからない私の意見にも耳を傾け、誠実に答えて下さるそのお人柄に惹かれて、個人的にもいろんな教えを請うていた。そのご縁で、今回のセミナーでもメインゲストとして、環境教育に経済的視点をどう入れればいいか、お話いただく予定だった。最初にお願いした際も「翌日から海外出張だけど絶対行く」と快諾して下さり、8月に体調を崩されてからも「回復しそうだから、万全を期していくから」ということだった。ところが8月21日「ドクターストップがかかっていけなくなった。ごめんね」とご本人から電話。「替わりに藤野純一君が行くけど、今日の夕方二人で打ち合わせをしておくから」ということで、伊香保では森田先生のレジュメに沿って、藤野さんが講義をしてくれた。藤野さんの講義もすばらしかったが、やはり森田節を聞きたいと、最後の電話の際、次回東京セミナーへの出席をお願いしていたのだが、9月4日に53歳の若さで急逝され、それも不可能となってしまった。悲しくて残念で仕方がない。

病を押して作って下さったレジュメには、「環境教育の中心は、経済システムと環境保全の関係の多面性に置くべきである。」「環境教育の現場が経済理論具体化の現場であり、また最先端の研究の現場である。」と書かれてある。環境教育の新しい方向性を示すだけでなく、当会の当面の活動テーマである「グリーン経済」と「環境教育」の関連を的確に言い表しており、どのような状況下でも相手の意図を汲み、誠実に応えてくださる森田先生のお人柄が滲み出ているように思う。同時に、私たちの活動に対する最後のエールに思えてならない。

おそらく、これが先生の最後のメッセージではないかと思うので、そのときの講義概要をここに掲載し、森田先生のご冥福を心からお祈りしたい。「森田先生、本当にありがとうございました。今度こそ、ゆっくりお休みください」。