2004年2月号会報 巻頭言「風」より

基本に帰ろう

藤村 コノヱ


○自然界の気になること

温暖化のみならず、鯉ヘルペス、アメリカ産牛肉の狂牛病問題、さらには鶏インフルエンザと、相変わらずおかしなことが続いています。「おかしなこと」というより、むしろ「当たり前」のことがおきているといった方がいいのかもしれません。牛にしろ、鯉や鶏にしても自然界にはない合成化学飼料を強制的に食べさせられ、狭い空間に押し込められるなど、「自然の理」とはかけ離れた飼育をされてきたわけですから、それが続けば、何らかの影響が出るのは当たり前です。しかもその全てが、安く、たくさん、あるいはより多くの利益を得たいという人間の都合、欲望ですから、牛や鶏や鯉にしたらいい迷惑です。つい最近も、アメリカで「光を発する方がペットとして高く売れる」という理由だけから、遺伝子組み換えの熱帯魚が売り出されたそうですが、近い将来、これも大きな問題になるのではないでしょうか。

○人間界の気になること

人間界でも気になることが続けざまです。アレルギー、非行の低年齢化等等枚挙に暇がありませんが、本来、夢や希望を持っているはずの若者に無気力感が漂っているのもその一つです。幸い当会に出入りする若者は元気ですが、一般的には元気のない若者が多いようで、昨年ある大学で授業をした際も「何をしても無駄だから」というあきらめムードと「誰かがやってくれるだろう」という依存体質が大勢を占め、知力の低下だけでなく気力の低下を痛感したものです。

これを裏付けるデータがでました。先月内閣府が発表した「世界青年意識調査」(注)で、若者の社会への満足度は、日本は35.5%でした。これはドイツの32.6%に次いで低い数値です(ちなみに最高は米国の76.5%)。不満の理由は、日本では「就職が難しく失業が多い」との回答が調査開始以来最高の64.6%に達し、10年間で5倍に増加したそうです。それでは、「不幸なのか」というとそうではなく、「幸福度」は約94%と高い数値です(スウェーデンが96%で最高、次いで米国、ドイツ、日本、韓国の順)。データの読み方は難しいところですが、言えることは、就職難という不安はあるものの、一応幸福だと感じているわけです。「なんとかなる」「誰かが何とかしてくれる」という気楽さなのか、「将来を考えても仕方ない」ということなのかよくわかりませんが、少なくとも現状を自ら打破しようという気迫のようなものは感じられない数字です。

また最近の高校三年生10万人学力テストでも、理・数の学力低下のみならず、学習意欲は全般的にかなり低く、文科省もその深刻さを認めざるを得ない結果でした。「勉強嫌い」はいつの時代も共通ですが、「将来に役立たないから勉強してもムダ」というのが現代の特徴で、前述した青年の意識と重なります。

こうした状況を見ると、物質的には充分満たされ、与えられることにも慣れ、自らが道を拓く必要性も感じていない若者に不甲斐なさを感じることも事実ですが、それ以上にやはり大人の責任は大きいなと感じます。

尊敬されるべき人たちが次々と平気で不祥事を起こす、相変わらず過去の栄華を懐かしむだけで再生の知恵を出そうとしない、そんな元気のない大人ばかり見ていたら、若者だって元気がなくなるのは当然です。「プロジェクトXを見て感動する。目標が明確で、それが羨ましいし、かっこいい」と当会の若者が言っていましたが、本当にあの頃の大人は誇りを持って、困難に立ち向かっていたように思います。

加えて、持続性など考えることなく、ただ成長することだけに突き進んできた生き方、「幸せ」=「物質的に豊かで贅沢な暮らし」であり、ナンバーワンになることがいい事と考えてきたこれまでの画一的な価値観がすでに限界をむかえているにもかかわらず、それでもそうした価値観を是とする世間の風潮が、結果的に若者の気力をそぐことになっているのではないでしょうか。

○まずは伝える努力を

自然界の異変を食い止めることは人間の力だけでは限界がありますが、せめて、人間界におきている異変は、人間の知恵と力で食い止めたいものです。

大江健三郎氏は、日本の文化や日本語のすばらしさ、生きる知恵を若い人に伝えるために、できるだけ多くの時間をとるよう心がけているそうです。また犬山市では「からくり人形」のコンテストを通じて子供たちにモノづくりの面白さ、日本人の技術力のすごさを伝えているそうです。

当会でも、グリーン経済部会には、熟年層だけでなく若い人もたくさん集まってきます。そしてグローバル化する経済社会の中でグリーン経済とは何か、どうしたら持続可能な社会が作れるかといった議論を展開しています。議論や作業の課程では、熟年はこれまでの反省すべき点を述べたり、若者は疑問をぶつけたりしながら、互いに学びあい刺激しあっています。なかなか難しい問題ではありますが、同じ志の老若男女が一つの目的に向かって語り合い、新しい経済社会の姿を模索していることは、なんとも心地よいものです。

持続性というのは何もしなければ途切れてしまいます。持続性を保つには、つなげていく努力が必要です。反省すべきことは反省し、その上で個人として社会として誇りに思えることや、生きていく上で、あるいは社会を維持する上で必要なことは伝えていかなければなりません。それが先に生まれた大人の責任だと思います。

当会の使命の一つは、社会の持続性確保のためのこうした場と話題を提供していくことだと改めて思うこの頃です。

(注)「世界青年意識調査」は日本、韓国、米国、スウェーデン、ドイツの5か国の、それぞれ18~24歳の男女約千人から回答を得るもので、ほぼ5年ごとに実施されている。今年で7回目。