2004年3月号会報 巻頭言「風」より

サマータイムで生活のリズムを変えよう

加藤 三郎


3月ともなると朝早く夜が明けて、昼間の明るい時間が長くなってきた。この長く伸びた明るい時間を有効に使えないかとだれしも考えるところだろう。つまりサマータイム(夏時間)の活用だ。このサマータイムを世界で最初に制度として考えた国はイギリスで、早くも1908年には国会に日光節約法と題する法案を提出している。日本でも、一つには地球温暖化対策のための省エネ策として、また一つには生き方、暮らし方、働き方を変える契機としてサマータイムの導入が再び浮上してきた。

サマータイムは生活のリズムを変える上でも、大きなきっかけになる。(財)社会経済生産性本部におかれた「生活構造改革フォーラム」での検討結果をもとに、サマータイムについて考えてみよう。ちなみに私は当フォーラムのメンバーでもある。

○日本のサマータイム

外国に行くと、よくサマータイムがある。ヨーロッパでは、夏期には1時間時計を進める。日本では時間は春夏秋冬を問わず一定、北海道から沖縄の外れまで3000キロの日本列島の中で同一時間を使っている。しかし、ずっとそうだったかというとそうでもない。江戸時代では、季節や場所によって時刻が違っていた。太陽が南中にかかったときを正午としたので、江戸の正午と肥後熊本の正午では1時間くらいの時差があっただけでなく、同じ「一刻」でも季節によって異なっていた。もう一つ、日本は昭和23~26年の4年間、当時の占領軍の命令により、サマータイムを実施している。日本でも、たった4年間ではあったが、サマータイムを実施した実績があったのだ。

○サマータイムの効用

その後サマータイムは日本ではほとんど問題にならないできた。石油危機のときに再び思い起こされたが、実施されることはなかった。1990年代に入ると地球温暖化対策が新たに大きな課題となり、またサマータイムが取り上げられている。私も直接担当した政府の地球温暖化防止行動計画や、その後に取りまとめた地球温暖化対策大綱でもサマータイムの検討を求めている。

イギリスでサマータイムが実施されたときにも、既に照明費用の節約が目的の一つに入っていた。しかし、サマータイムは単に省エネ効果だけではない。生活構造改革フォーラムは次の10項目の効用を提案している。

要は自然のサイクルに合った生き方、暮らし方で、精神的な豊かさを大切にする生活、充実したライフスタイルを実現して欲しいと訴えている。

○滋賀県庁での貴重な実験

滋賀県庁では国松善次知事の強力なリーダーシップの下で、「議論しているだけでは進まない。実験をやろう」ということで昨年7月から8月末までの8週間、県庁職員に呼びかけて自発的にサマータイムを実験した。職員の約半数がこの実験に参加し、朝8時30分の通常の勤務を1時間(人によっては30分)早め、その分早く帰宅した。

国松知事によると、太陽の恵みのもとで家族とのふれあい、スポーツや文化芸術、ボランティアなど新しいライフスタイルの可能性を探ってもらいたいとの思いで実施したのである。そういう性質のものだから、朝早く来る職員がいる一方で、これまでのままの勤務体制をとる人も半数いたわけで、実質的な県庁の開庁時間が1時間長くなったとか、制約はあったけれども、実験報告書を見ると、誠に心強い結果が出ている。職員がアフター5に取り組めたことの上位3つは「家族との触れ合い・家事(育児、介護を含む)」、「地域活動」、「ボランティア活動」の順となっている。

このようにサマータイムの制度導入は家族との触れ合いなどの大きなきっかけになり、しかも過重労働に直接つながるとはいえないという結果が出てきている。滋賀県の調査においては省エネ効果は検証できなかったが、省エネ意識づくりにはなったと述べられている。このような素晴らしい実験結果にプラスに作用してか、サマータイムを推進する議員連盟もこの2月には立ち上がり、会長には平沼赳夫前経済産業相が就任した。もちろんこの議連は自民党だけでなく、民主党、公明党などからも幅広く参加している。議連が出来たことによって、サマータイムを導入する立法化の可能性がにわかに高くなってきた。

○働き方を変えるきっかけに

今、環境文明21のグリーン経済部会では、どうしたらグリーン経済が可能か様々な観点から検討を続けている。その中の一つとして、働き方を変えよう、というのが課題の1つとして浮上している。今まで息せき切ってわき目もふらず生きてきて、父親の長期の単身赴任や夜遅くの帰宅、さらに、休日ですら営業活動で家を空けることもたびたびある。共稼ぎ家庭が増えて母親も家にいる時間が少なくなり、深刻な教育問題や家庭の親和力の欠如が指摘されて久しい。グリーン経済を作る基盤は人であり、人の働き方についての反省が各方面から出始めているが、当部会はこの問題に正面から向かおうとしている。

サマータイムを導入することにより、4月~10月までの日の長いときを働くだけでなく、家族の触れ合いや地域でのボランティア活動、スポーツ、芸術活動など人々が多面的な活動をする時間が増えることが望ましい。長いこと日本人が忘れていたサマータイムが導入されれば、生活のリズムを変え、結果的に省エネにもつながり、観光産業やスポーツ産業など日照ビジネスにも弾みがつくに違いない。多くの先進国と同様、サマータイムを日本でも早急に導入して欲しいので、私たちも立法化に向けて働きかけようではないか。