2004年10月号会報 巻頭言「風」より
環境教育推進法成立から1年経ったけれど・・・
藤村 コノヱ
環境教育推進法(仮称)が成立して一年余、これを受けて国が策定作業を進めていた基本方針もやっと完成し、この10月から全面施行になります。
振り返れば、法律の制定を目指して環境教育部会を立ち上げたのが平成13年末。骨子案を作成し、各地でシンポジウムを開催しながら普及に努めたり、ロビー活動のため国会議員会館に日参したのが随分昔のことのように感じられますが、3年経ってやっとここまでこぎつけたという感じです。
成立後の一年間、国では基本方針づくりが進められてきましたが、その懇談会には加藤代表が委員として参加し、後半の三回は私が代理として出席しました。そしてこの法律に最初から関わった者として、公平な立場で政府案に対してパブリックコメントを提出したり、懇談会の場でも積極的に意見を述べるなどしてきました。五省庁が関わっていることや、我田引水的な意見も含め様々な分野の委員が多様な意見を述べたことなどから、最終的に国の基本方針としては異例の22頁にもなる長いものになりましたが、私たちの意見もかなり反映されたものになった様に感じています(なお、全文は環境省のホームページで見ることができます)。
勿論、法律自体当初私たちが望んだものとはかなり違ったものになったことから、基本方針も100%満足のいくものではありません。特に、日本が目指す持続可能な社会とはどのような社会なのか、という最も大きな将来像がこの時点でも明確にされていない点はとても残念です。また、法律自体努力目標が多く強制力のある条項は少ないため、基本方針でも、書かれていることは盛りだくさんですが、どの程度進むのかといった疑問は依然として残ります。それでも、環境教育が持続可能な社会の基盤であることは一応認識され環境教育の範囲もかなり広げて捉えられた点や、税制、助成、事業委託等によりNPOの財政基盤を整備していくことなどが述べられたことは、一歩前進ですし、法律に次いで基本方針が策定されたことは、環境教育を推進する仕組みがまた少し進んだといえるのではないかと思っています。法律ができた時もそうでしたが、仕組みを活かせるかどうかは、その後の行動にかかっているのだと、改めて言い聞かせているところです。
ところで、国の基本方針は一応できたわけですが、法律ができて一年、現場の環境教育は本当に進んだのかどうか、です。詳細は、本号で様々な立場の方に書いて頂いていますが、全体としていえることは、今のところ変化なし。というより、法律ができたことさえ殆どの人が知らないという状況です。私自身行く先々で聞いてみると、さすがに自治体の環境部局の方は知っている人が多いようですが、教育関係者には殆ど知られていません。懇談会の席でも環境省は、温暖化と環境教育を結び付けるなど、環境教育を政策の一環としていこうとする姿勢が一応見られましたが、文部科学省は「学校現場は忙しい。環境教育が大切なことは分かっているが、あれもこれもと言われてもできないので、これだけやれという内容を示して欲しい」旨の発言が幹部からあるなど、環境教育に対する意識の低さを露呈する場面もあり、腰の引けた様子がありありでした。これでは、教育現場で法律が知られていないのも頷けます。人間の命の基盤である環境がこれだけ危機的な状況にある中で、生きる力、命の教育と、環境教育とをどうして結び付けられないのか、あなたたちこそまず環境教育を、と思わず言いたくなる場面がたびたびありました。
また、法律成立前後の変化を見る一つの指標として予算があります。環境省の環境教育関連予算を16年度予算額と17年度概算要求額でみると、新規要求は、「学校等エコ改修・環境教育モデル」「我が家の環境大臣事業費」「いきづく湖沼ふれあいモデル事業」、「温暖化問題に関する児童・生徒への環境教育事業」です。また、継続事業で大幅増加要求されているのが、愛知万博関連事業と国際協力の部分で、ハード整備やイベント的なものが多いようです。文部科学省では、新規として「地域ボランティア活動推進事業」ぐらいで、エコスクール整備というハード予算が大幅増加要求している以外は、余り変化がありません。この10月から全面施行なのですが、この程度かと思うと、さびしい気がするのも事実です。
ただ「法律なんて…」と成立するまではそっぽを向いていた一部の環境教育関係者が、急に熱心になったのは少し滑稽ですが、いい変化といえるでしょう。
とはいえ、昨今の異常気象に伴う災害の続発などを見ていると、危機感は高まる一方で、当会としてできることから進めていくしかないと感じています。
その一つが企業の環境教育です。ご承知の通り、当会では現在主に、グリーン経済、環境教育、憲法に焦点を当て活動していますが、企業の環境教育を推進することで環境経営を普及させ、ひいてはグリーン経済を築き上げていくというのが一つの戦略です。実際、環境報告書等に記載されている企業の環境教育を見ると、数年前と殆ど変わっていませんし、企業の方と話しても、環境教育に割ける時間はほんのわずかで、知識の伝達に留まっているというのが実態です。環境経営、CSR(企業の社会的責任)など言葉としては大流行ですが、そうしたことを可能にする、企業理念や価値観を育てるような環境教育は殆ど行なわれていないようです。「環境」に本腰がすわっていない証でしょうか。
そんな中、当会の企画・運営で、NECでは昨年から「キーマン研修」という名称で事業ラインの環境担当者を対象に、1日半程度の環境教育を実施しています。それ以前は他社同様、環境教育らしいことは余り実施されていなかったのですが、環境報告書作りなど私たちとの連携を進める中で、環境経営のベースとしての環境教育の必要性に気付いて頂けたようです。研修では、持続性、環境経営、社会的責任などを通じて、今企業に求められている事項についての講義の後、ワークショップ形式で議論を深めています。一方通行の従来型研修と異なり、参加者自らが考える時間を多くとっていることから、かなり刺激的な研修になっているようで、評判も上々でした。
POの中には、企業と対立的な立場を取り、連携を嫌うところもあります。しかし、当会は、持続可能な社会を築くには企業が大きな役割を担うという考え方のもとに、今後も環境と教育のプロとして、企業の環境への取り組みを応援していきたいと考えています。
ちなみに、来月11月26日・27日には、神戸で企業向けのセミナーを開催します。東京までは、という皆様、特に企業会員の皆様、どうぞこの機会にぜひ参加してみてください。