2005年8月号会報 巻頭言「風」より

スウェーデンのエネルギー・環境事情

加藤 三郎


先月号の藤村コノヱさんの「ヨーロッパの底力」にもあったように、今回、藤村さんの他に会員企業であるNEC環境推進部の宇郷良介さん、愛知教育大学の杉浦淳吉さんと一緒に、スウェーデンとEC本部があるブリュッセルを久しぶりに訪問した。そのときに得た知見のうち、本号ではスウェーデンのエネルギー・環境事情を報告する。

スウェーデンは日本人にとっても「福祉国家」のモデルとして長いこと親しまれてきた国である。私自身は1970年11月にスウェーデンの環境政策を学ぶために訪れ、その後72年にはストックホルムで開催された国連人間環境会議に出席するなど「環境」でおよそ7回当国を訪れている。

スウェーデンの人口は約900万人。それが日本の国土面積よりも2割も広い国土に住んでいる。しかし、北欧の国スウェーデンは文字通り北に位置しており、(ストックホルムはほぼ北緯59度。日本の稚内が46度なので、はるかに北に位置している。)冬は暗く、寒い日々が続く。一転して、夏は日が長い。6月の夏至のころだと、ストックホルムでは夜が暗くならない、白夜といっていい状況が続いている。

そのスウェーデンは今「グリーン・ウェルフェア」つまり「環境にやさしい福祉社会」を目指してがんばっている。今年2005年1月1日には持続可能開発省(Ministry of Sustainable Development)という役所を新設し、スウェーデン社会の持続可能性を追求するとともに、世界に貢献しようという政治的意図を明確にしたのだ。

この役所には、現在二人の大臣がいる。「持続可能な開発」を担当する大臣と「環境」を担当する大臣である。持続可能な開発大臣の役割は、①持続可能な開発②エネルギー③住宅ならびに建設④持続可能性計画⑤温室効果ガスの排出量取引であり、一方以前からある環境大臣の役割は、①環境質の目標(16項目ある)②化学物質とリサイクル③環境と健康④気候政策⑤水と海洋⑥自然保護と生物の多様性ということになる。

ちなみにこの持続可能開発大臣はモーナ・サーリンさんという女性であり、この大臣の同僚といっても事実上はナンバー2である環境大臣もまた女性のレーナ・ソムスタットさんである。スウェーデンでは閣僚のうちの約半数が女性ということで、女性が政治の前面に出ている点でも特徴的である。

このスウェーデンは地球の温暖化に絡めて言えば、石炭を燃やすと炭酸ガスが発生し、その炭酸ガスは空気を温める効果を持つということを今から1世紀以上も前に発見し、そして現実に何度くらい上昇するかということまで試算した科学者アレニウスを生んだ国でもある。そしてまた、今、国際社会で地球温暖化に関して最も重要な科学的な調査研究とその成果のコンセンサス作りを担っている「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の初代議長、バート・ボーリン博士を生んだ国でもある。したがって、福祉だけでなく環境にも大変力を入れており、まさにグリーン・ウェルフェアの国である。

エネルギー

スウェーデンのエネルギーといえば、北極圏にまで及ぶ北半分では豊富な水資源を利用した水力が重要であるが、同時に原子力エネルギーも今日でも大きな役割を果たしている。

原子力エネルギーに関して、スウェーデンは、1979年にアメリカで発生したスリーマイル島での原子炉事故にすぐ敏感に反応し、翌年の1980年には、原子力是か否かを巡る国民投票を実施。その時点からは30年後である2010年までにスウェーデン国内の原子力発電所を全廃することを決めた筋金入りの“反原子力”国である。しかしながら2005年の今日でも、これまで12基作った原子力発電所のうち廃止したのはやっと2ヶ所にすぎず、しかもその2基目は私たちがスウェーデンに滞在していた本年5月末にやっと閉鎖したばかりである。しかし不足した電力を、ヨーロッパ域内からの輸入電力に依るという政策を取らざるを得ず、その輸入電力の中にはドイツやフランスなど原子力に依っている国からの電力も入っている。そのため、国民の間からは原子力を一基廃止した替わりに原子力による電力を輸入するという政策のちぐはぐさが批判されたという。この事実は、スウェーデンをもってしても、今日の豊かな生活を維持しながら原子力離れをすることがいかに難しいかを物語っている。

そのスウェーデンのエネルギー政策の大目標は、「信頼性が高く、効率的で環境に配慮したエネルギーの供給」である。具体的には、①CO2の排出削減 ②再生可能エネルギーの割合増加 ③エネルギー使用の効率向上 ④エネルギー全体の使用量の抑制である。スウェーデンの京都議定書上のEU内での責務は90年レベル比プラス4%になっている。なぜ環境に熱心な国であるスウェーデンがプラス4%かといえば、それは原子力発電所の閉鎖を前提にして当面は火力発電に依存せざるをえないという事情からだという。しかし、このプラス4%は、あくまで京都議定書上のEU域内でのスウェーデンの法的責務であり、国内の政策目標としてはマイナス4%を目指している。そして現状ではおおむね、プラスマイナス0ということで、京都議定書上の目標責務は達成できそうだが、国内目標の達成は微妙な状況である。

省エネルギーの促進と再生可能エネルギーの促進は、スウェーデンのエネルギー政策の根幹を成している。まず省エネの促進については、現在多量に発生している生産・供給後の電力の最終消費にいたるまでのロス(これは約30%に及ぶ)を少なくすることである。省エネを促進するために2004年~2006年にかけて、既存の家屋の所有者が高性能の断熱性能を有する窓を設置した場合、又は、新築の場合に木質バイオマスでの暖房を入れた場合、税の減免措置をとっている。公的建物についても30%の補助金を出し、また太陽光発電をする場合には70%までの補助金を出している。しかし、このような施設に対する補助金政策は来年06年6月30日までの時限措置となっている。それ以降は、マーケットメカニズムを活用することとしている。

2005~2011年にかけての、中、長期的な戦略としては、大学、研究機関での技術開発(R&D)の促進とそこから出てきた技術の商業化の支援を強く打ち出している。

原子力政策については、現在の政権党である社民党と左翼党と中央党の3党が推進している。(緑の党はこれに批判的で、原子力政策については異なったスタンスをとっている。)原子力を推進しているこの3党は、1980年の国民投票の結果を尊重し、今でも将来的には(2010年の枠ははずした)全廃に向けて動くことを確認している。ただし、廃止するには①代替エネルギーの生産 ②エネルギー使用の効率向上 ③エネルギーの技術開発の促進 ④EUの政策との調整に配慮しながら、現実的な対応をとろうとしている。

経済的手段

スウェーデンには、省エネの促進と、再生可能な自然エネルギーを促進するための、きわめて複雑な税・課徴金制度がある。その第1はエネルギー税である。これはエネルギーの使用効率の改善とバイオマス燃料の使用促進、企業が環境への悪影響を減少させ、国内資源(水力や森林)を使ってエネルギーを生産し易くすることを狙っている。

スウェーデンではエネルギー税のほかに、91年に導入した炭素(CO2)税、電気税、さらに、硫黄税およびNOXに対する課徴金、その上に電力についての証書(Electricity Certificate)の発行など、極めて複雑なしくみになっている。

原子炉については、最大熱相当分について課税され、それに加え廃炉や放射性ゴミ貯留のための課徴金などが発電kwhに応じて課せられている。

熱の生産にも課税される。具体的にはエネルギー税、CO2税、必要に応じて硫黄税、NOX課徴金がかけられる。ただし、熱の使用と、バイオ燃料とピート(泥炭)からの熱の生産に対して税はかけられない。

熱、電気の消費者が最終的に支払う価格、つまり、燃料費と税、さらに25%の消費税を加えたものは、どの地域で、どのセクターが使うかにより、またどのような燃料を使用しているかによって大幅に異なる。ただ、最近はCO2対策強化のために、炭素税が、また電気の使用削減を目指して電気税がともに増税されている。

もうひとつ、スウェーデンで特徴的なのは電力証書(Electricity Certificate )が03年5月から導入されたことである。スウェーデンでは小水力、風力、バイオマスなどのいわゆる自然エネルギー源からの発電に対しては、その建設コストを補助する施策を長いことしてきたが、将来的には補助金の支出をやめることに03年に転換し、市場重視の手法として電力証書システムが導入された(補助金は暫減しながら08年度まで継続される)。

この電力証書システムとは、大量の電力使用者(たとえば、鉄鋼、紙パ、基礎化学、セメント、鉱業、精製)並びに電力供給者に対して、再生可能なエネルギー源からの使用量、および供給量に応じて、一定割合の証書を政府から購入する義務(罰金を伴う)を課すという政策である。日本のRPS法では、電力供給者にのみ自然エネルギーからの一定割合の供給義務を課しているが、スウェーデンでは使用者に一定割合を課し、経済的に最も安い方法で発電できる再生可能エネルギー源(バイオマス、風力、小水力など)からの電気を「証書」を買うことを通じて選択させるやり方である。この制度利用により、03年に7.4%であった自然エネルギー利用を、10年には16.9%に増加させることを狙っている。

一方、自然エネルギー電力の生産者は発電量に応じて政府から証書が与えられ、現状ではこれをマーケットで売るか、政府に買い取ってもらうかだが、長期的にはすべてマーケットで売ることとしている。したがって自然電力生産者は、電気料のほかに証書販売収入を得るという経済的インセンティブが与えられる。

(次号へ続く)