2005年11月号会報 巻頭言「風」より

少し先が見えてきた
ーグリーン経済の探求と憲法への環境導入ー

加藤 三郎


当会が今力を入れているものに、グリーン経済の探求と憲法に環境原則を導入する二つの活動がある。いずれもこれまでの地味な作業の積み重ねが実って、少しずつ先が見えてきたように思えるのはうれしい限りだ。

グリーン経済については部会設立以来2年余の時間をかけ、座長の柴山徳一郎さんと共に、十数人の仲間たちが月一回以上のペースで検討を重ね、その成果を10月15日の全国交流大会で発表し、参加者の方々と密度の濃い意見交換をすることが出来た(その模様は本誌参照)。部会では、「グリーン経済とは、経済と環境が調和し人間社会が生き生きと脈動する持続可能な社会を支える経済」と考え、環境対策のために取った措置が経済にも人間が生きる社会にも役に立ち、逆に経済対策としてとった措置が環境にも良い施策、企業活動、そしてライフスタイルにつながると考えてきた。

20世紀の大量生産、大量消費型経済は生命の基盤である地球環境を様々に破壊し、社会の存続そのものが今のままでは不可能なことが明瞭になりつつある。それは単に温暖化や野生生物の消失ばかりを言うのではなく、貧困、疫病、失業、暴力、テロの増加など人間社会の荒廃化と不平等の拡大なども含まれる。

現在の経済とグリーン経済はどう違うかを端的に示せば、次ページの表のとおりである。私たちは経済合理性だけ(時には弱肉強食となる)を追求するのではなく、環境や文化の保全、人間性の保持など従来は「経済」の中に入らなかった要素も組み込んだ経済だと考えている。

しかし、このグリーン経済を考える視点は様々にあり、部会でもメンバー間で焦点が定まるまで随分時間を要した。ただ、私たちは環境経済学者でも、企業人でもないため、生活者の視点からグリーン経済を追求していく道を選び、視点に立ち、日常の暮らしと密接な係りがある、「食べる」「働く」「買う」ことと、制度面から見た「適正な規制と経済的手法」の4つの視点から考えた。その結果、グリーン経済を成り立たせるための10の提言にたどり着いた(詳細は本文を参照されたい)。 提言だけを見ると単にスローガンが並んでいると思われるかもしれないが、それぞれについて私たちはかなり検討もした。しかしどの提言も、どうこれを達成するかの政策論は十分に詰めきってはいない。これが私たちの次なる課題である。

一方、憲法も十数人のメンバーで、1年以上かけて検討し、過去3回大きな会合を持ち外部の人にも働きかけてきた。会合のたびに寄せられた意見を基に修文し、第三次提言として去る10月26日に発表した(詳細は当会のホームページを)。

今回の一つのポイントは「公共の福祉」概念について考察した点である。日本国憲法の中には国民の基本的人権を制約できる要素として「公共の福祉」が数箇所に書かれているが、これまでも「公共の福祉」とは何かについては、大きな議論があった。5年に及ぶ衆、参両院の憲法調査会がまとめた分厚いレポートを見ても、「公共の福祉」の内容は未だ不明確で、自民党はこれに替えて「公益及び公の秩序」を提案している。

私たちは「公共の福祉」を巡って議論した結果、持続可能な社会の創造と維持を中心的概念とすべき、という結論に達し、第三次提言に盛り込んだ。第三次案が出来たのを契機に、また憲法に環境条項を入れる気運を加速するために、当会のメンバーでもあり衆議院議員として復活された愛知和男さんを世話役として、10月26日に「憲法に環境条項を入れることを目指す国会議員と市民の会」の発会式を議員会館で開催した。この会には当会以外の市民団体からも、そして議員側からは、自民党の小杉隆、清水嘉与子、鳩山邦夫、竹下亘、公明党の田端正広、加藤修一、民主党は達増拓也、村井宗明の各議員がお忙しい中出席し、各々の熱い思いを語って下さった。

その後10月28日には自民党は新憲法草案を発表したが、前文の末尾に「日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。」と書き、条文には「国の環境保全の責務」として「国は、国民が良好な環境の恵沢を享受することができるようにその保全に努めなければならない」と提案した。

また民主党も同31日に「憲法提言」を発表し、新憲法をつくる5つの目標の中で、環境権などの新しい権利の確立をめざし、「環境国家」への道を示すとしている。その上で、環境保全のような社会的広がりを持つ課題に挑戦するものとして国民の義務に替え「共同の責務」という考えを提案し、「地球環境」保全と「環境優先」の思想について言及することが望ましい、としている。

公明党も「加憲」の一環として環境条項を入れる必要性を強調しており、憲法の中に環境条項が入る見込みがやっと出てきた。

問題は、その入れ方であり具体的な文言である。私たちは、出来るだけ私たちの主張に近い線で条文を書いてもらえるよう、「国会議員と市民の会」を足場に、幅広く運動を展開していきたい。