2006年3月号会報 巻頭言「風」より
多様な働き方のすすめ
藤村 コノヱ
働き方を見直す動きがにわかに盛んです。国は、生活様式の多様化や国民意識の変化、国際競争の激化に伴い短期的収益を重視せざるを得えない企業の実態、少子高齢化とそれに伴う労働力人口の減少等を背景に、仕事とくらしの調和の検討を始めています。また企業も大企業を中心に、労働時間の短縮、在宅勤務の拡大等、働き方を見直し育児と仕事が両立できる環境をつくることで、質の高い労働力を確保しようとする動きが見られます。
一方仕事に対する意識も、「日本人の意識2003」(NHK放送文化研究所)によると、1973年には、「仕事志向」44%、「余暇志向」32%、「仕事・余暇両立」21%だったのが、2003年調査では、「仕事・余暇両立」38%、「余暇志向」34%、「仕事志向」26%という結果で、「仕事人間」といわれた日本人の姿とはかなり違った意識が伺えます。
こうした変化に伴い、「働き方」が見直されるようになったのは、「グリーン経済」探求の中で、「働き方」について提案している私達としてもうれしいことですが、優秀な人材の確保や少子化を食い止めるため、といった短期的な目線ではなく、その先にある持続可能な社会を目指した「働き方」の見直しが、今必要なのだと思います。
既に2005年11月号会報で紹介したように、私達は、①自らのためだけでなく、家族や地域・社会、次世代が幸福になる働き方をしよう、②働き方の多様性を認め、その労働に対して社会的にも正当な評価が与えられる評価制度を導入しよう、③男女共に、安心して次世代の担い手である子どもが育てられる働き方をしよう、という3つの提案をしています。これらは、現在の経済性重視の働き方は、全ての生命と企業活動の基盤である環境の価値を軽視しているだけでなく、個人や家族の真の豊かさをも軽視するもので、社会の持続性にも大きな影響を及ぼしているとの認識から出発しています。そして、一人ひとりが働く意義を見直し、誇りや喜びを感じられるようになれば、またそうした働き方を評価する仕組みが出来れば、個人も企業も元気になる。企業が元気になれば長期的視点での経済活動が可能になり社会の持続性が保たれる。大人が元気になれば、出生率も増え若者の働く意欲も出てくる。実態を伴わないマネーゲームが蔓延し、得体の知れぬ「資本」が「人」「資源」を動かす現在の経済から、「人」が「資本」「資源」を適切に動かす本来の経済の姿に立ち戻るには、「働く」という人間にとって根源的な問題から立て直す必要がある、と考えたからです。
私達の提案に対して、総論は賛成だが、そんな働き方では競争に負けグローバル経済の中では太刀打ちできないという声も聞きます。しかし、提案のような働き方でも経済的に成立している国や企業があるのも事実です。
例えばオランダでは、夫婦で1.5人分の仕事を基本にワークシェアリングを進めた結果、1980年代の高い失業率と財政赤字を見事に克服し、国際競争力ランキングでも欧州のトップクラスに。また、フルタイムとパートを差別しない多様な働き方を実現した結果、人々は生き方や年齢に沿った働き方を選択できるようになったそうです。さらに家族との絆回復にも成功したといわれ、実際オランダを訪問した時には、4時頃に自転車に子どもを乗せた父親の姿を良く見かけました。加えて、元々グリーンピースの本部もあるなど市民活動に熱心な国柄ですが、その参加も増えたそうです。
国内にも、2月号で紹介した「丘里」のような取組もありますし、企業ではありませんが、環境文明21も、共通の目標や思いを持ちつつ、事務局スタッフの働き方は多様です。勿論、課題もありますが、地球環境の悪化のみならずあらゆる面で持続不可能な状況が顕在化し、効率性、経済性といった数値目標に向けひたすら走り続けた時代とは明らかに違う時代の中で、「勤勉さ」など日本人の特性を残しつつも、次世代につなぐ働き方とそれに見合った仕組みの再構築が不可欠な時代がきたことは確かです。
とはいえ、「働き方は生き方」といわれる程、深い問題である上に、私達は労働問題の専門家ではありません。しかし、当会にも出来ることがあるはず、と、部会終了後も日立環境財団の助成を得て、外部の方にも加わって頂き、提案を実現する方法について議論しました。一例を紹介すると、
- (1)地域の中で、地域の精神基盤である伝統文化や環境を維持するための活動、まちづくり活動などに次世代を巻き込んでいく。自分が生きている場所で、働く意味を伝えていく。
- (2)企業の社会的責任(CSR)として、従業員のバランスの取れた暮らしの実現と、地域社会への貢献を結びつけ、環境NPOなどと人事交流を行い相互理解を深める。退職後の職場としてではなく、働く場としてNPOを知ってもらい、働き方の多様性を知る機会をつくる。
- (3)企業の人事評価に、「環境に配慮した社内活動の率先行動」「環境配慮製品開発への努力」「社外環境活動への積極的参加」等、環境への取組を奨励する視点を入れる。ISO14000の継続が負担になっている場合もあるが、こうした評価が取組のインセンティブになり実質的な環境経営が持続できる。評価は“金銭”としてではなく、“休暇”の形で支払うような工夫をして、多様な働き方(バランスの取れた暮らし)の実現に役立てる。
- (4)仕事を学ぶ時期~企業戦士の時期~次世代を育てる時期~社会に還元する時期など、ライフステージに応じた多様な働き方があることを伝える。また、働く目的や労働条件が変化することを前提とした人事・給与制度を作り、個人の多様な働き方を実現する。
勿論こうした取組に対して、NPOも、交流を働きかけたり、評価項目作りに協力したり、多様な働き方のモデルを発掘してメディアの力も借りて広めていくことができます。
私自身、日米共同研究やグリーン経済など様々な活動の中で、働き方の重要性を言い続けてきましたが、考えれば考えるほど難しい問題です。しかし、教育同様、この働き方の探求も当会の大きな仕事の一つだと思います。来年度はグリーン経済の提案を材料に各地で会合を予定していますので、働き方についても是非一緒に考えて頂きたいと思います。