2006年5月号会報 巻頭言「風」より

まだまだ手がある温暖化対策(その2)

加藤 三郎


私は本誌今年の2月号で「まだまだ手がある温暖化対策」として規制と経済的手法が基本であることを強調した。しかしながら手があるのはこれだけではない。少なくとも、①科学的知見の共有化の改善、②企業による自主的取り組み、③消費行動の変化促進、④サマータイムの導入の4つが、“規制と経済的手法の適切な組合せ”に加えて特に重要である。

(1)科学的知見の共有化の改善

私は職業柄、地球温暖化に関して様々な人に会い議論するが、温暖化の原因について未だ多くの人が確信を持ち得ないでいることを感じる。1970年代の公害対策時代においては、原因論を含めてこれが問題であるかないかを議論する必要はなく、問題はどう対処したらいいかの方法論であった。また最近のゴミ問題は、誰にも重要さや対策の意義は理解出来る。しかし、地球の温暖化については、猛暑の夏があったとき、これが温暖化によるかどうか聞かれると、それは分からないと多くの科学者は答える。今年の冬のように、北半球の多くの都市において、記録的に寒かったり、大雪が降ったりすると、「温暖化なのに、どうしてなのか」と普通の人が思ったとしても、科学者から明確な答えは出てこない。

そういう中にあって、「科学者」と称する人から「地球の温暖化は人間活動によって起こっているのではなく、むしろ太陽の黒点活動など、太陽エネルギーの周期的な変化の影響を受けているに過ぎない」などと聞かされると、温暖化の真実がますますわからなくなる人は多いようである。

実際、昨年11月29日付の毎日新聞「記者の目」というコラムで、大阪経済部の高田茂弘記者が「人為的温暖化論は真偽不明」という見出しのもとで、地球の温暖化は「特にCO2ではなく、太陽の変化や黒点の動きに温暖化の主因を求める研究者は少なくない。」と述べ、温暖化論を巡る取材では、専門家は大半が(人為的温暖化論を)変だと思っているという声をしきりに聞く」と書いている。また同記者は12月16日付紙面でも「人為的温暖化論は、コンピューターによるシミュレーション(模擬実験)で未来のシナリオを推量し、規制をかける話」だと否定的に述べている。

しかし、地球温暖化の科学は、高田記者が言う程ヤワではない。少なくとも、炭酸ガスが地球を暖めることに科学者が気づいたのは、すでに1世紀以上前である。本格的に観測を始めてからも、既に半世紀も経ている。過去30年間に、多くの科学者や技術者がこの問題に関心を寄せ、自然の循環説とか太陽黒点説なども含めて、慎重に検討を重ねた結果、過去50年に起こった地球の温暖化は人為的な影響に因ると確定されるに至っている。高田記者が考えるように、世界の数百人の研究者が「徒党」を組み、自分に都合のいい結論を出したのではなく、厳密な科学プロセスを経てたどり着いた結論なのだ。

さすがに日本の科学者も、温暖化について異説を唱える科学者も含めて討論会を最近開催している。このような努力は、もとより必要であるが、科学者以外の人はどういう議論があったかも、おそらく知らない。私自身も国立環境研究所が出している地球環境研究センターニュース(本年3月号)を見るまで、そういう議論があったことすら知らなかった。だから、科学の知見をみんなで共有する方法を改善する必要がある。経済界の人も一般市民も政治家もメディアの人も、こと科学上の認識においては、共通の土台にたって対策を進めることが決定時に必要だからである。

(2)企業による自主的取り組み

私の若い時は、公害対策のための規制そのものを必要悪と企業が公言してはばからない空気があった。しかしながら、1990年代に入ると、企業も自主的な取り組みを積極的に展開するようになってきた。その大きな変化を作ったものは、91年4月の経団連地球憲章であろう。

この憲章制定前後で、企業の公害・環境に対する取り組みスタンスが大幅に変わってきた。現在、経団連は自主的取り組みを、温暖化対策や廃棄物対策について積極的に進めている。これ以外にも大企業を中心に環境ISO、CSR、環境レポート作りなど様々に自主的な取り組みがなされつつある。

法令による規制と、企業による多面的な自主的な取り組みがあいまって、温暖化対策を進めることは必要であり、有効である。

(3)消費行動の変化促進

消費者の行動が最終的に企業の生産活動や流通活動に変化を与える。そういう意味では、むしろ規制よりも何よりも消費行動の変化が決定的に企業の生産活動を変える。例えば、低公害車しか買わないと多くの消費者が行動すれば、低公害車以外を作っても売れない。冷蔵庫は省エネタイプ以外では見向きもされなくなれば、それ以外のものは作っても売れない。そういう意味で消費者の行動は決定的な影響を及ぼす。

このように、消費者の行動を変えるものは価格の安さや品質の良さだけではない。温暖化についての科学的な情報が消費者に届いていれば、そして消費行動の変化を促す経済的メカニズム、例えば自動車のグリーン税制のようなものがあれば、消費者はそれに促されて消費行動を変えてゆく。まさに、地球環境時代の消費者教育といったものが必要であり、かつ有効である。

(4)サマータイムの導入

私はサマータイムについて、何度か本誌で書いた。サマータイムが導入されれば、夏の朝、時計を1時間早めて活動を開始し、日が明るいうちに勤務を終えられるので、余暇や家庭サービスなどに使おうというものである。明るい時間を活用するので、省エネや温暖化対策にもなり、ライフスタイルの見直しにもつながる。

サマータイムによって、CO2が42万t節約になるという予測もさることながら、夏の時間をうまく使いながら、働き方や余暇のあり方を変えていくことの方が重要である。それは間違いなく温暖化対策につながると思うからである。