2007年11月号会報 巻頭言「風」より

21世紀の経営者に求められる資格

藤村 コノヱ


相変わらず企業の不祥事が続いています。毎日毎日頭を下げる同じ姿が報じられ、どの会社がどんな不祥事をおこしたのかわからなくなる程です。その中でも、日本人にはおなじみの「赤福」が製造日を偽装していたとのニュースには、昨年夏、日本の智恵プロジェクトで伊勢に行きお話まで聞いていただけに、がっかり。昨今のCSR(企業の社会的責任)よりもっと以前から日本に根付いていた、「三方よし」の企業倫理は一体どこに行ったのかと情けなくなります。

一方、当会のグリーン経済部会では、第一期の「食べる」「働く」「買う」に次いで、第二期では「教育」をテーマに、教育と経済活動の関係などの議論を進めていましたが、環境文明21としては企業を動かすことも大きな使命ではないかということになり、企業を動かす教育のあり方について議論をするようになりました。実際環境文明21でも数社の企業研修に関わっていますが、企業を動かすというところまでは残念ながら至っていません。しかし、議論は難航し、数ヶ月にわたる紆余曲折の末、「企業を動かすには経営者の意識改革が重要だろう」「しかしプライドが高く人の話など聞く時間のない経営者には、研修などの手段では到底無理だ」「いっそのこと今流行の経営者の品格というようなチェック項目を作り自己判断してもらってはどうか」ということになり、それまでやや停滞気味だった議論が大いに盛り上がることとなりました。

数回にわたる議論の末、グリーン経済部会で作成した「経営者の資格」は前ページの表のとおりです。

この評価としては、それぞれの項目について、5点(十二分にある)、4点(相当ある)、3点(ある)、2点(やや足りない)、1点(まったく足りない)の点数をつけていただき、その合計点が、60~54点の場合は秀、53~48点は優、47~42点は良、41~36点は可、35点以下は資格不足と、総合評価をつけることにしました。

このうち1.3.10.の項目などは、一般的にも理解していただける内容ですが、その他の項目については、部会内でもかなりの議論がありました。

例えば、2.については、今日明日の景気・株価の話に熱心な企業人に100年先を見通すことなどできるだろうかというような意見です。しかし、その企業の根底にある「価値」というものがそんなに簡単にかわっていいのか、経営者として「100年の計」を持てないようでは従業員も安心して働けないのではないか、IPCCの気候変動も100年を見据えている、ということで、長期的な視点の一つの目安として100年ということになりました。

また7.については、「環境」と「経済」の両立ということは一般的に言われ、おそらく多くの経営者が一応意識していることだと思われます。しかし、21世紀をリードする経営者としては、両立ではなく、「環境」と「経営」を統合しようとする強い意思が求められるのではないか、全ての企業活動の基盤に環境を置くことが大切ではないかということで、この文言に落ちつきました。

最も議論が白熱した一つが、8.の項目についてです。事業の拡大こそが企業の成長だと考えている経営者が多い中で、果たしてこの意図がわかっていただけるか、事業の拡大が何故いけないのか、という意見です。しかし、この量的拡大こそが、有限な地球環境の中で様々な環境問題を生み出し、かつ企業間の際限なき競争原理を煽っていることを考えると、ただ単に量的拡大こそが成長だと考える企業は、持続的とは到底いえません。自社の企業価値に誇りを持ち、従業員にその価値を浸透させられる規模で、持続的に企業活動を行なっている経営者を応援したい、そんな思いからも、この項目は是非残そうということになりました。

さらに11.についても、科学を理解するだけでなく、「目に見えない大いなるもの」への畏敬の念を持つことは、「人間は科学の力をもってすれば何でもできる!」と過信している現代人には不可欠な要素であり、特に人の上にたつ経営者には、人としての謙虚さを忘れないで欲しいという思いもこめ、環境文明21ならではの項目として掲げました。

タイトルについては、最後まで決まりませんでした。「国家の品格」の大ヒットにからめて、当初は「経営者の品格」にしようという意見が強かったのですが、「女性の品格」など次々に世の中で「品格」という言葉が使われるようになり、流行に乗るのも・・・ということで、結果的に「資質」に落ち着きました。

以上が議論の経緯です。現在、環境文明21のホームページに掲載したり、企業関係者の目に触れるような雑誌などに掲載をお願いするなどしています。是非皆様にも、自己評価なり、関係する経営者の評価に活用していただくと共に、従業員、労働組合、監査役、投資家などにも活用していただき、いろんなところで広めていただきたいと願っています。そして、できれば環境文明21で自己評価、他己評価別にランキングをし、発表したいとも考えています。

こうした経営者が増え、持続可能な企業が増えることで、日本社会ひいては世界の持続性がもっと高まると思うのです。

【21世紀の社会をリードする経営者の資格】

  1. 情報を公開し、公正な競争に立ち向かう勇気
  2. 100年先を見通した企業価値を設定し、その価値を浸透させる情熱と達成する戦略性
  3. 国内外の時代の潮流を洞察し、先取りする力
  4. 他社とも協働して、社会に対する責任を果たそうとする意志
  5. 働くことの価値を認め、関わりある人々の働く意欲を高める力
  6. 地域社会との交流を大切にし、その伝統や文化を尊重する意思
  7. 経済と環境を一体化しようとする意志
  8. 事業を大きくしすぎない勇気
  9. 科学を理解し、経営に活かす力
  10. 技術動向を常に把握し、経営の発展に繋げる力
  11. 人知の及ばない大いなるものへの畏敬の念
  12. NPOを含む全てのステークホルダーとコミュニケーションをとる力