2008年1月号会報 巻頭言「風」より

ビジョンと行動で

藤村 コノヱ


東京はおだやかな新春でしたが、皆様どのような新年をお迎えだったでしょうか。

思い返すと、昨年も国内外ともに暗い事件・事故が多発した一年でした。世界中で経済格差がますます広がり、テロや紛争、そして飢餓や自然災害などで多くの、特に貧しい人たちの命が失われました。国内でも、「偽」に象徴される出来事や社会不安がさらに深刻化。にもかかわらず、将来を見据えて舵を取るべき政治家は目先の政争に明け暮れ、日本の長期ビジョンはもとより10年先の社会像さえ示せない状況が続き、さらにしばらく前までは有能といわれていた官僚は、年金、薬害そして防衛省問題など公僕としての責務を忘れたかのような無責任体質を露呈するなど、この国は一体どうなるのだろうという不安が募る一年でした。

こうした不安は環境問題、特に温暖化についても顕著に現れた一年でした。2050年までに世界全体で温室効果ガスを半減すると宣言したものの、自国の数値目標は明確に示せず(EUは2020までに20%、2050年までに60~80%削減を明言)、排出量取引や環境税の導入など具体的政策は何も打ち出せず、柏崎原発の停止が原発頼みのエネルギー政策の弱点を露呈したにもかかわらず、太陽光・風力など再生可能エネルギー導入には相変わらず本腰が入らず、日本は環境先進国から後進国へと転落するという危機感が広がったのも事実です。

そうした中、今年から京都議定書の約束達成期間が始まります。それを受けてか、TV、新聞でも頻繁に温暖化が取り上げられ、人々の関心を高める報道がなされています。しかし、1990年レベルより約12%増加した温室効果ガスを削減するには、国民の努力だけでは不十分であり、日本の社会全体を「持続可能な社会」に転換させるという強い国家の意思と政策が不可欠です。京都議定書達成のために、我々の税金を使って高い排出権を海外から買ってくるのではなく、まずは議定書の基本である国内での削減のために、例えば道路特定財源の暫定税率分を国内の環境対策に投入する(歩道や自転車道の整備なら目的にもあいますし、雇用も生まれます)など、これまでの不甲斐なさから脱皮した大きな政治決断が必要です。年末の薬害問題の政治解決は、政治家が本気になればそれだけの力があること、それを促すのは国民であることを示す出来事でしたが、温暖化に関しても、そんな流れを作り出していかなければいけない時期にきています。

そうした意味で、環境文明21はじめNPO/NGOの役割は大きいのですが、残念ながら、その力はまだ小さいものです。加えて、環境文明21は、中長期的な視点で本質的な課題に取り組む活動が多いため、「すぐに答えがほしい」「具体的な活動がしたい」人たちには、なかなか理解してもらえない面もあります。しかし「行動なきビジョンは白昼夢であり、ビジョンなき行動は悪夢である」というIPCCパチャウリ議長の言葉のように、ビジョンに基づく行動こそが求められる今日、環境文明21もこれまでの実績を踏まえ、環境文明らしい新たな行動を展開していく時期だと考えています。そして具体的に今年は、次のようなプロジェクトを考えています。

一つは、一昨年来三井物産環境基金の助成をいただき実施している「日本の持続性の知恵」プロジェクトが三年目にはいることから、今年はそれを現代に活かすべく、これまでまとめてきた8つの知恵をさらに広めていきたいと考えています。 広めるにあたっては、子どもや若者、企業人など、対象ごとに具体的事例も加えながら、分かりやすい内容や言葉で伝えていくこと、さらに現代社会においては一見必要とされない「足るを知る」などの知恵が、なぜこれからの世界の持続性に役立つかを、ある意味「科学的」「合理的」に説明していかなければなりません。そこで、会員の皆さんにもいろんな知恵や事例を出していただき、できれば洞爺湖サミットの機会にも日本から発信したいと考えています。

二つ目に、グリーン経済部会が昨年作成した「経営者の資格12項目」について、自薦他薦を問わずコンテストのようなことをやりながら、企業関係者に広げていきたいと考えています。「環境税反対」「排出権取引反対」といった経団連首脳の発言から産業界は温暖化に後ろ向きという印象がありますが、個々の企業の中には独自の取組を真剣に進めているところも多々あります。そうした企業を応援する意味でも、持続可能な社会づくりに貢献する素晴らしい経営者を発掘し紹介していきたいと考えています。

三つ目に、将来を担う若者との連携を視野にいれ、「大学・院生政策提言コンペ」のようなものも始めてみたいと考えています。温暖化を克服し持続可能な社会を築いていくには、次の時代を担う若者の力が不可欠ですが、一部の若者を除くと、覇気のない若者が増えているように感じます。幸い会員の中には大学教授や政治家の方もいます。そうした方の知恵もかりながら、「寺子屋」のように、若者に学びと社会参加の場を提供したいものです。

そして最後に、今年の10月で環境文明21も満15年を迎えることから、これまでの活動を振り返るとともに、これから当会がなすべき活動について考える、これまでとは一味違う「全国交流大会」を開催したいと考えています。

勿論これ以外にもやるべきことは山積みですが、以上の4つのプロジェクトについては、是非会員の皆さんの力をお借りしながら実施してみたいと考えています

これまでも部会活動はやってきましたし、昨年あたりからは、関西、群馬、古河、富山、広島の会員さんとも協働でシンポジウムを開催するなどの活動が増えてきました。今年はこうした活動に加え、上記の様々な活動に、これまで参加したことのない会員さんにも加わっていただき、会員さん自身の積極的な企画・運営形式で実施したいと考えています。そして、「明確なビジョンと持続性の知恵に基づき行動する」環境文明21へとさらに飛躍していきたいと願っています。本年も、どうぞ、ご支援ご協力くださいますようお願いいたします。