2008年4月号会報 巻頭言「風」より

方向性は「脱化石」と「省物質」

加藤 三郎


21世紀に入ってまだ8年目だというのに、様々な問題が国内外で噴出している。地球温暖化だけではない。貧困と金持ちとの驚くばかりの格差や紛争、そして人間の欲望が作り出す様々な悲劇、それをコントロールすべき政治の劣化、こういったものが噴き出している。

その源となった20世紀社会を改めて振り返ってみると、その特徴は石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料という巨大な駆動力と17世紀以来培ってきた科学技術の二つの力が合体し、市場を通じてモノの豊かさ、生活の便利さ、快適性を徹底的に追求した経済の形成であった。その中心には常に化石燃料が持つ特異なパワーがあったといっても過言ではなかろう。

それ以前は、社会経済を動かす駆動力は風力・水力・薪炭、あるいは馬力・牛力・人力といった、今からみればまことにのどかなものであった。しかし、化石燃料が人類社会を一変させた。モノがあふれ、高速大容量で突っ走る経済社会。私を含め、多くの人がそれに酔いしれた。

その20世紀型経済社会が、環境面だけでなく、経済的にも人間社会面においても大きな危機に直面している。しかし少なくとも30年以上前から、「成長の限界」、「スモールイズビューティフル」、「脱工業文明」といった言葉や概念によって、20世紀経済社会の危うさと転換すべき必要性が繰り返し熱く語られてきた。しかし、政治も経済もこのような指摘や提案に真剣に耳を傾けることなく、経済の規模や効率性ばかりを極限にまで追求してきた。市場という舞台の上で大量生産・大量消費の経済が乱舞した。

そのような時に気候変動問題が発生した。それと時期をほぼ同じくして化石燃料、金属などの資源の枯渇化や価格の高騰がのっぴきならぬ姿で現れてきた。

昨年2月以来IPCCが明確にした地球温暖化の危機は、脱工業文明の必要性を決定的にしたということができるだろう。なぜならば、人類社会が気候変動のもたらす異常気象、食糧・水の不足、治安や安全保障といった環境面で破局に陥ることを避けるためには、化石燃料由来の温室効果ガスの排出を世界全体で少なくとも2050年までには半減する必要があることを明らかにしたからである。特に先進国では8割前後の大幅削減を成し遂げようと思えば、化石燃料に依存したこれまでのやり方では不可能である。そのような意味で、昨年のIPCCのレポートはこれまでの生産・消費のあり方に対する名医からのドクターストップのようなもので、逃げを許さない絶対的な要請だと受け止めるべきだと今、私は考えている。喩えて言えば、人がどことなく身体の不調を訴えたときに医師から癌の診断を受け、即入院・即治療を命じられた場合と似ていなくもないと考えている。

世界は66億もの人口を有し、様々なレベルの経済活動を日々継続している以上、癌の宣告の場合のように即入院というわけにはいかないだろうが、人類社会の破綻を避けようと思えば、科学の指示する方向に動き出さざるを得ないと腹を決めるべき時がいよいよ到来したのだ。

世界経済の拡大がもたらした需要の増加、これは化石燃料などの有限なエネルギー資源だけでなく、食糧、金属・非鉄金属などに対する膨大な需要の発生が必然的に価格の高騰をもたらしている。このことも従来からの生産や消費のあり方を根本的に見直す必要を迫り、「省物質」を促す。

人類の歴史を振り返れば、危機が起こるたびに新しい技術や新しい生産方式・消費方式を見出して、人々は今日まで持続的に発展してくることができた。今私たちは化石燃料を駆動力とする生産・消費形態の中で危機に直面しているが、この危機こそ次なる飛躍、つまり地球環境の許す範囲で、人々が心豊かに生き続けていく時代を迎えるための飛躍台とすべきだろう。

「脱化石」とは、化石燃料の使用にブレーキをかけ、同時に社会を駆動する新たなエネルギー源としてソーラーや風力・バイオマス・小水力といわれる新しいエネルギー源を意識的に積極的に作り出していくための制度作りのことである。その一環として、化石燃料から排出される炭素に税をかけ、その税収を使って新しいエネルギー体系を早急に作っていくことも必要だ。

「省物質」というのは、物質の使用量をできるだけ少なくしていくことであり、具体的には製品の長寿命化、軽量化、さらにはリース・レンタル・中古市場やカーシェアリングといわれるようなビジネスを広げていくことなどである。

このような一連の変革をするには、私達の価値観の転換とそれに基づき、政治家や政党を選ぶ目も鍛えて新しい制度を作っていくしかない。そのための努力抜きに「脱化石」と「省物質」は成し得ない。

私たち環境文明21は今年の秋で16年目に踏み出す。1年前に藤村コノヱさんとの共同代表体制を導入し、第二期に向けての足場作りをしつつある。第二期においては、会員の皆様が持っている様々な知恵・意見・アイディアといったものを事務局にもどんどんぶつけていただきたい。また私たちからも皆様の力を借りる機会を増やし、皆様と一層近い関係になり、それぞれが持っている特技や力を出し合い、少しでも持続可能な社会に転換することを通して、日本と世界の新しい時代を切り開くのに役立つ活発な団体でありたいと願っている。