2009年1月号会報 巻頭言「風」より

環政策作りにNPOの参加を保障する制度を!

藤村 コノヱ


世界各地で頻発する異常気象や自然災害に加え、サブプライムローンの破綻に端を発した世界的不況の強風が吹き荒れ、環境のみならず経済も人間・社会も厳しい状況の中での年明けとなりました。

つい数か月前までCSR(企業の社会的責任)を標榜し様々な企業ランキングでもトップに位置していた大企業が競ってリストラを行う姿には、彼らの言っていたCSRとは一体何だったのか、これまでの収益はどこに行ったのだろうか、こんな時こそ働き方を変えワークシェアして皆で乗り切ろうという共存・互助の精神がどうして出てこないのだろうか等、様々な疑問が湧いてきます。同時に、この危機的状況にもかかわらず、相変わらず政局や選挙に明け暮れている政治家を見ていると、すでに日本型議会制民主主義は限界に来ているという気さえします。

またこうした事態を招いた責任が政治家や企業リーダーにあるのは疑う余地もありませんが、政治への無関心さ、自分さえ・今さえよければいいといった私たち市民の価値観や行動、それを助長するマスコミにも責任の一端はあると思えてなりません。事実、ここ20年の総選挙の投票率は、1980年代には70%前後だったのが、90年代後半以降60%前後(2005年の郵政選挙の67.51%を除く)にまで落ち込み下降の一途を辿っています。誰に投票しても一向に変わらないという気持ちは正直ありますが、選挙にも行かず、困った時だけ政治や社会のせいにするのはおかしなことです。

でも「新年」は新たな希望と活力をもたらしてくれる契機になります。暴走した市場経済が人間の意志で動く本来の規模に戻る、経済成長ばかりに心奪われていた政治家が「公平な分配」という基本使命に立ち戻り人々の幸福と社会の持続性のために動く、そして私たち市民も互いに連携し自分たちの社会は自分たちで作るといった自覚を持ち各々が力を出す、そんな時代に突入したと覚悟を決めれば、やるべきことやできることは沢山あるはずです。現在厳しい状況に陥った方はお気の毒で緊急の対策が必要ですが、幸いにしてそうした状況にない人たちも日本には沢山いるはずで、まず、その人たちが社会を立て直すために動き出すことが大切だと思うのです。

環境文明21でも、環境・経済・人間社会のバランスの取れた持続可能な社会を作るという使命を果たすために、今年は、新しい政治・経済・人間社会の姿を「環境文明社会」と名づけ、その探求を本格化させます。また「質的成長」に挑戦している経営者を応援し広めるための「経営者の環境力大賞」の活動や、これまで培ってきた「日本の持続性の知恵」を国内外に広げるための早稲田大学との協働プロジェクトも開始します。さらにパナソニックから資金支援を得て、若いスタッフが中心となって10年後の「環境文明21」を目標に、組織基盤の強化プロジェクトにも着手します。気候ネットなど他のNPOと連携して「気候保護法(仮称)」の成立も目指します。

立法化部会では、「憲法に環境原則を」の活動や環境教育推進法改正にむけた提言活動は勿論、新たにNPOを活性化し社会的責任を果たせるような仕組みづくりにも挑戦を始めています。そのひとつが「政策形成過程でのNPOの参加を制度として保障する」ことを求める活動です。これまでのように制度や政策を政治家や官僚だけに任せておくのではなく、自分達の社会は自分達で作るために、制度や政策を作る段階からNPOの意見を正当に反映させる仕組みをつくろうというものです。これまでも自治体などで市民参加の様々な取組がありましたが、それを国政レベルで、新たな資金メカニズムも含め、制度として位置づけたいのです。

それは現在の環境問題がまさに私たちの暮らしや社会経済活動と深く関わるもので、解決するには従来の縦割り・官僚主導のやり方では限界があり、NPOが参加することで政策決定のプロセスが変わり、政策の選択肢が増え実効性が高まるという思いと、そのことでNPOの政策提言の機会が増え、それによって能力が鍛えられ、社会的にも認められ、支援者を増やす機会にもなるという思いからです。

さらに個人的な思いもあります。長年環境教育をやってきたにも関わらず、持続可能な社会とかけ離れていく状況の中で、「(環境)教育の力」を信じていた私は、これを根付かせるにはやはり制度が必要だと思うに至り、5年ほど前、愛知和男議員や環境教育仲間と環境教育推進のための法律骨子案を作成し、議員に働きかける活動を始めました。初めての体験で大変なことも多かったのですが、自分が制度作りに関わっているという当事者意識で充実した日々でした。しかし成案作りや国会審議の場になると我々NPOは殆ど蚊帳の外、主権在民、市民参加の時代と言っても、結局この国では政官の力関係で物事が進み、市民やNPOの意見が政策に活かされる場面は非常に限定的であることを実感したからです。

もう一つは、その環境教育を発展させたいという思いです。私は、「環境教育は、有限な地球環境の中で、人としての生き方や持続可能な社会経済のあり方を学び、その実現に向けて行動できる人材を育成する全ての教育・学習活動」だと考えています。しかし今の環境教育はまだそこに至っていません。指導者自身が社会の変革など考えていない場合が多いことも一因でしょうが、受け皿がないのも一因です。学んだことが地域の環境保全や環境経営など実践の場だけでなく、政策作りや仕組みづくりの場でも活かせるようになったら、もっと環境教育は楽しく広がりのあるものになっていくと考えているからです。

勿論世の中の人皆がNPOになり政策提言活動に関わることを望んでいませんし、そうなる必要もありません。しかし、多くの人が今の政治や官僚制度に限界を感じ、もっと違う方法でより良い社会を実現したいと思っているはずです。NPOの意見が制度や政策の中で実質的に活かされる仕組み(=参加の制度)ができれば、政策の選択肢が広がり、選挙とは別に、思いを託したNPOの活動を通じて個人の意見を政策に活かしていく道がひとつ増えることになります。

「政治家や政策のレベルはその国の国民のレベル」といわれます。100年に一度の経済危機、110年目の公益法人改革が進む昨今、そしてNPO法成立から10年が過ぎた今だからこそ、政治家と官僚に任せきりだった政策・制度作りにもNPOが正当に参加できる制度をつくっていく必要があるのではないでしょうか。「裁判員制度」がもうすぐスタートしますが、人を裁く前に、まず自分たちの暮らしに深くかかわる政策や法律作りに参加することの方が先のはずです。

このように、今年もやるべき事は山積みですが、加籐共同代表、スタッフ、そして会員の皆様とともに、一歩ずつ確実により良い社会を目指して活動を展開していきたいと願っています。この一年も変わらぬご支援ご協力をお願いいたします。