2009年7月号会報 巻頭言「風」より

気になる環境教育推進法改正のゆくえ

藤村 コノヱ


7月28日まで会期延長になった今国会もいよいよ終盤を迎え(会報が届くころには既に解散?)、本来ならば様々な法案について実質的な審議が行われているはずの時期です。しかし、マスコミ報道では解散・総選挙の話ばかりが取り沙汰され、「本会議と委員会以外は地元に返れ」と自民党幹事長が公然と発言するなど、この国の議会は本当に機能しているのだろうかという懸念と同時に、他のさまざまな法案の審議状況が気になるところです。

というのも、ご承知の通り、環境文明21では今から6年ほど前、環境教育推進法の立法化を求めて、他のNPOと共に議員に働きかけ成立にこぎつけた経緯がありますが、その法律が改正時期を迎え、今国会で改正案が成立するかどうかという山場を迎えているためです。

6年前に議員立法で成立した法律は、議員や関係省庁の環境教育や環境保全活動に対する認識が私たちから見ると不十分なこともあって、NPOの提案が法律に反映されることは少なく、環境教育や環境保全活動の内容が限定的に定められ、ほとんどが努力目標で、実効性の期待できない法律となり、成立はしたけれど…というものでした。実際、6年経過した今でも、市民の環境意識は高まっているものの、例えば、学校現場では環境教育に熱心な学校とそうでない学校の格差が広がっていたり、あるいは二酸化炭素の排出量は以前より増えているなど環境改善はなかなか進まず、立法化をお願いした時点と比べて、持続可能な社会はますます遠ざかっているような気さえします。

そうした状況の中で、今回の改正に向けて、環境文明21では、(1) 学校教育の中で環境教育を定着させるため独立した教科としての環境科(仮称)の新設、(2) 環境教育で学んだことを社会で活かすために政策づくりへの市民・NPOの参加を制度的に保障するしくみの創設、(3) 環境保全活動を財政的に支援するための助成金の拡大、経済的基盤強化のための税の優遇措置の拡大など環境保全活動を促進し活動の持続性を担保する仕組みの導入、(4) 環境教育や環境保全活動の定義の拡大と法律名称の変更、などを求める要望書を提出しました。その後与党関係議員のご尽力や世論に押されて環境省・文部科学省も以前よりは随分熱心になってくれたこともあって、与党から示された改正案はかなり私たちの要望も取り入れられたものになっています。例えば 「緑の経済と社会の変革」を進める上で環境教育や環境保全活動が重要になっているという認識のもとに、学校教育等の基盤強化、環境行政へのNPO等の参加や協働取組を推進すること、事業型環境NPOの活動支援などが明記されている点です。

とはいえ、私たちとしては修正や追加してほしいこともあり、それらを盛り込んだよりよい改正案としては是非今国会で成立させてほしいという思いから、6月10日にはこの与党案を巡って、与野党の議員と環境教育や環境保全活動に関わるNPO関係者が意見を交換する場を設けました。当日は与野党議員(秘書も含め)10数名、NPOも約40名と予想以上の参加があり、環境省や文部科学省からのオブザーバー参加もあって、熱気あふれる意見交換の場を持つことができました。NPO側からは与党案については概ね賛成という意見が多数を占めましたが、一方で、学校での環境科の設置や環境保全活動を促進する仕組みが不足している、政策提言型NPOへの支援策が不足している、行政とNPOの協働について、NPOが行政の下請けにならないよう対等な立場を担保する仕組みが必要である、というような意見が出されました(そうした意見は後日要望書として議員に提出)。

6年前の法制定に向けた活動は私にとって初めての体験で大変な思いもしましたし、法律は成立したものの中身のあまりない内容にがっかりしたものですが、今回の改正内容(案)や熱気あふれる意見交換会の様子を見ていると、あれがあったから今回がある、一度に完ぺきな制度など期待せず積み重ねることが大切なのだと改めて感じています。

もっともその後の国会の成り行きを見ていると、冒頭に述べた不安がよぎります。特にこの環境教育推進法の改正は与野党で特に議論が大きく分かれるわけではなく、成立させようとすれば出来るイシューであるにもかかわらず、なかなか進んでいきません。与党の議員に働きかければ「野党が審議に応じない」と言い、野党に行けば全く逆のことを言う、といった状況で、政局の材料にされている様子。審議の優先順位が低く重要法案が解決しないと審議に乗せられないということのようですが、国民の側からすれば、だったら解散・総選挙でバタバタせず、議員としての責務を全うして速やかにすべての案件を審議してください、と言いたくなります。勿論、信頼できる議員もいますが、多くの政治家が国民のためというより、保身と党のために働いているのではないかと思いたくなります。官僚機構も大きな課題ですが、国民の目からするとどっちもどっち、たとえ自民党が民主党に変っても、同じような政治を繰り返すのではないか、という気がします。それらを変えるには国民が本気になって政治と向き合い、政治家や官僚に任せきりの国民から、「物言い、考え、行動する」国民に変らない限り、この国はよくならないのだと、こうした活動しているとつくづく思うのです。

今国会で改正案が通過すれば、ほんの少しですが、環境教育や環境保全活動を通じて、国民が環境政策に関与する道が広がるはずです。そうした意味でも、今国会の成り行きを注視しているところです。