2010年4月号会報 巻頭言「風」より

NPOは日本再生の希望

加藤 三郎


衰退現象が目立つ最近の日本

近年、日本社会の衰退を示す現象が目立ってきた。最も基本的には人口の減少、高齢化であろう。現在、1億2,700万人ほどの人口も、20年後には現状よりも1,200万人ほどの減少が見込まれている。70歳以上の人口は、1995年には1,190万人ほどであったのが、2020年には2,780万人に増加。20歳から50歳までの元気盛りも95年の7,100万人ほどから、20年には6,070万人程度への大幅な減少の見込み。人口が減り、高齢化が進めば、経済の活力が失われていくのは当然だ。

日本のGDPは、長いこと世界第2位を維持し、経済大国の象徴であったが、今年中には中国に追い抜かされるらしい。しかし、一人当たりのGDPで言えば、とっくに第2位の地位は失っており、現状では第19位。その上に日本の長期債務は、対GDP比では、126ヶ国・地域の中でなんとジンバブエに次いで、ワースト2の超借金大国。屈辱的とも言える位置にいる。

経済の不況と並んで、若者の就職が困難となり、結婚しない(出来ない)若者や、子供を持たない(持てない)カップルも増え、少子高齢化が加速される状況だ。環境面でみても、政財界のリーダーたちの、日本は環境先進国との掛け声とは裏腹に、温室効果ガスの削減は一向に進んでいない。得意であると思われていた環境技術も中・韓、そして欧米の国々に追いつかれようとしている。

このような状況を打開する期待が鳩山政権にかかったが、半年経った今、多くの点で期待外れ。このようなことを言い出したらキリがないが、一口で言えば、日本社会は下降局面に入り、このまま放置すれば衰退の一途をたどることになりかねない。

日本の導きの星はいずこに

かつての日本であれば、このような時に大活躍したのが霞が関の官僚機構である。日本の政治家は三流だが、官僚は超一流なので心配ないと多くの人が言ったものだ。しかし、その霞が関もすっかり色あせてしまった。財政が借金の山を築くのを放置したのも、定期便もろくに飛ばない空港建設を許したのも、年金の資金管理が出来なかったのも官僚である。もちろん、これらの責任を全て官僚に押し付けるのは公平を欠くであろう。何故なら永田町の議員たちがそういう状況を助長ないし強制したのは確かだからだ。しかし、官僚は最近まで政策面で日本を引っ張ってきたことを想起すると、その責を免れることは出来ない。

乱気流の中を航行しているような日本の現況を考えると、社会を再生する意志と能力のあるセクターは、一体、何処にあるのだろうか。もちろん、政治による再生は政党・政治家が最終的に担うことになる。また、社会を元気づける技術を開発し革新する力は、主として民間の企業にある。しかし、NPO生活16年半の経験から、政党・政治家や企業の仕事にNPOの知恵を加味することによって、これまでとは違った展開と味付けが可能になると私は本気で考えている。

藤村コノヱさんの学位論文の中で、NPOが参加したことによって、官僚にほぼ独占されていた環境分野での立法活動に変化の兆しが訪れた事例が分析されている。フロン回収・破壊法がそうであり、コノヱさん自身が主体的に関与した環境教育推進法もその例である。さらに温暖化については、政官財の縦割り利権構造に縛られて20年近く足踏みしていたのを尻目に、石原知事のリーダーシップの下で、行政とNPOが上手にタグマッチを組んで、強力な温暖化対策の体制を築いた東京都の事例も分析されている。

環境文明21は、企業と組んで環境経営に役立つプロジェクトも推進しているが、これもNPOと企業が協働することによって、新たな価値を創造できる事例となっている。

一般的に言ってNPOは、特定の利害にとらわれず、自由で独立した生活者の視点を持ち、長期的な展望を持って活動できる潜在力を有することから、閉塞日本の政治・行政に風穴をあけるにも、また企業の戦略づくりにも役立つ時代が遂に来たのではなかろうか。

NPOを強くしませんか

とは言っても、NPOには一片の権力もない。有るのは政党や企業のトップには届かない真実の情報、中長期の視点、幅広い選択肢といった知的なソフトパワーだけである。しかし、日本の再生には、NPOの参加によって、それ以前にはなかった結果を出せるとの手応えを経験から感じている。それをより確実にするためには、NPOの弱点である資金面での基盤の強化と、政策の形成や決定プロセスへの参加を保障する制度づくりが不可欠だ。

その観点からNPOに対しては、単に税制面での優遇措置を講ずるだけでなく、財政面から、能力も志もあるNPOスタッフの人件費の一部を助成対象にする、国内または国外での研修や留学費用の一部または全部を支給するといった公的資金の活用があってしかるべきだ。現に、欧米諸国では、税制面だけでなく財政面でもNPOへの多様な支援措置(家賃、電話代、交通費の補助など)を講じることによって、NPOの活力を社会の発展のために戦略的に活用していることを考えると、日本にもその時期がきたと思われる。

このような制度面からの対応とは別に、「このままの日本ではダメだ、何とかしなければ」と思っている市民一人ひとりも、趣味や気晴らしに使っている時間や資金のほんの一部でも、子や孫が希望の持てる社会への投資としてNPOの活動支援に使っていただけないものかと私は願っている。