2012年10月号会報 巻頭言「風」より

20年目を迎えた環境文明21
~新たなる展開を目指して~

加藤 三郎


1993年9月「21世紀の環境と文明を考える会」として発足した当会(1999年10月にNPO法人化し、現在の名称に変更)は、先月20年目の節目を迎えました。20年目といっても世間一般から見れば、決して自慢できるほどの期間ではないのですが、官庁や企業などの既存の組織から独立し、自立して活動することを目指してきた身からすると決して短い期間ではありません。このようなことが可能であったのは、ひとえに当会の役員を含む会員の皆様、支援して下さった諸団体、そしてがんばってくれているスタッフ一同のおかげと改めて感謝したいと存じます。

さて、当会を発足させた動機とはなんだったのでしょうか。それは、折にふれ語っていますが、改めて本会報の創刊号(1993年10月)のこの欄で「座して待つか、働きかけるか」と題して私が記した次の文章を当時の思いをふり返っていただく意味でも、少し長いですが、引用してみます。

「経済・社会の体質を不問に付したまま、システムの末端に処理装置をつけて汚染を取り除く、このような手法は、21世紀に向けての地球環境問題に通用するだろうか。とても通用しそうにない。温暖化にともなう気候変動、熱帯林などの生物資源の急速な減少、数か国にまたがる酸性雨などの問題を考えてみただけでも、一国内の規制を主体にする手法に限界があることは自明だ。

ましてその原因が、先進国のあくなき豊かさ追求や、途上国の生きんがための環境資源の食いつぶしにあるとすれば、それは20世紀文明の体質からにじみ出た“病気”のようなものであり、端末での対症療法だけではこの病気に対処しきれないであろう。

これからの環境問題に真正面から取り組み、子孫に豊かな環境を引き継ぐためには、どうしてもわれわれの文明そのものをあらためて検討した上で、21世紀に通用する経済、社会、文化、ライフスタイルのあり方を探り出し、かつ構築していかなくてはならない。」

このように記してから19年の間、私たちは様々な形で持続可能な社会を作る目標に向かって挑戦してきたことは、会員の皆様なら認めて下さるのではないかと存じます。比較的近年の主な足跡だけを試みに挙げてみますと、地球温暖化対策への諸提言、憲法への環境原則の導入提言、環境教育推進法の法制化(改正を含む)、日本の伝統社会が有していた持続性の知恵の発掘、持続可能な環境文明社会の姿やそこに至るプロセスの探求、グリーン経済形成のための提言、「環境力」の提唱と経営者「環境力」大賞の顕彰、そして、最近では、脱原発に向けての諸提案などを挙げることが出来ると思います。

このように、ここ5、6年の私たちの活動を挙げてみますと一つ一つはバラバラで、一貫性がないように思われるかもしれませんが、私たちの中では全て持続可能な社会構築に繋がる要素を取り上げ、挑戦してきたつもりです。満足すべき効果をあげているのかと問われれば、不十分なところがいろいろあります。しかし、それぞれのプロジェクトにおいて、会員皆様の自主的な参加も得て、スタッフ一同とともに精一杯活動し、それなりの足跡は残せたのではと考えているのですが、皆様からご覧になるといかがでしょうか。

さて、しかし、問題はこれからです。どういうことかと言いますと、我が環境文明21においても、様々な問題点が明らかになっているからです。具体的に言えば、①会員数が少しずつ減り、それに伴って社会へのアピール力の低下があります。②環文21が何をしようとしているのか、その旗印が不鮮明だという批判もしばしば受けます。③会員の減少に伴って活動資金も縮小しており、自主財源の充実が必要です。これに関連して④助成金や会員の皆様からの寄付に頼りがちであるという点も指摘されます。

まず、会員数についての過去3年ほどの傾向は、平成21年度で534人・組織、平成22年度で499、平成23年度で475人となっています。10年前の平成14年度では722人・組織あったのと比べますとかなり減ってきているのは事実です。実は会員数の減少は、他の団体でも見られる傾向ですが、このまま何もしないというわけにいきません。

また、会員の減少とも相まって社会に対するアピール力も低下していると考えざるを得ません。もちろん、私たちは会報を発行するだけでなく、ブログ、twitterなどのネットも活用して種々発信しており、また、私自身は、時折、新聞、雑誌などに寄稿しておりますが、全体的に発信力の低下は認めざるを得ない状況にあります。

その低下の一つの原因が、②に挙げた当会が何をしているのかその旗印が不鮮明ということにもつながると思います。私たちは「持続可能な環境文明社会の構築」を旗印として高く掲げているとの思いは強く持っておりますが、考えてみると持続可能な社会と言っても、環境文明社会と言っても、その具体的なイメージが多くの市民に共有されているかといえば、必ずしもそうではありません。従って、会の旗印をどこに求めるか、今、仲間と一緒に検討しています。さしあたって、持続可能な社会づくりの中核を担う企業社会、中でも中堅・中小企業に焦点を当て、その環境力を増進することによって、社会全体の活力が出てくることに役立つのではと考えているところです。いずれにしても、この会が何をしているのか具体的なイメージがすぐに浮かぶようにする必要があると思います。

③の資金力の縮小も、会員の減少に関係しております。会の収入を過去3年ほど見ますと、平成21年度が約2,960万円、平成22年度が2,350万円、平成23年度が2,070万円と、会員数の減少とほぼ並行して減っています。平成12年度では、4,000万円あまりの収入を得ていたことを考えると、11年のうちに半減しています。

言うまでもなく、私たちは資金集めのために活動しているわけではありません。その逆で、活動するための資金を必要としているのですが、その資金が不足してくると、やりたい事業を縮小せざるを得ないことになりかねません。今現在は、事務局経費の圧縮とともに企業・財団などからの助成金、会員の皆様からの寄付金などで補ってはおりますが、このまま放置しておくわけにはいきません。そこで、今、NPOとしての自主財源の拡充を目指して検討しているところです。

一つの考え方は、企業社会、特に中堅中小企業の環境力の増進のお役にたつことを通じて、私たちも活動資金を増やすとともに企業社会の環境力アップに貢献できないかと考えています。もしこれが、ある程度成功すれば、④に挙げた助成金や寄付金頼みの資金構造からかなり脱却できるのではないかと思います。こう申しましても、助成金や寄付金は極めて貴重であり、今後ともさまざまにお願いをさせていただきたいと思っておりますが、これらは、恒常的な財源とはなりづらく、その時々によって、不安定になりがちです。従って、安定的な自主財源を積み増す努力を強化しないといけないと考えているのです。


以上、私どもの実情を若干の数字を交えて、説明しましたが、私どもは、これらの諸課題に打ちひしがれているわけではありません。私たちのミッションである持続可能な環境文明社会を10年、20年かけて構築していくためには、様々な道具立てが必要であり、その中には憲法の問題もあれば、企業の環境力の問題もあり、その道具立てを一つ一つ積み上げる努力は、会員の皆様の支持がある限り、続けていきたいと思っているところです。また、資金面でも、資金がなければ何もできないというわけではなく、私たちなりに工夫し、俗にいう金の切れ目がプロジェクトの切れ目にならないよう、歯を食いしばっても頑張っていきたいと思っております。

それは何のためかと言えば、やはり、3.11後の日本の社会が劇的に示しているように、これまでの政党・政治家、官僚機構、民間大企業に任せっぱなしでは、私たちに明るい未来は来ないと思い知らされたからであり、人々の自発的で積極的な行動が極めて重要であると実感されたからです。ボランティアとかNPOの意義が改めて評価される時代になったと思うのです。このように新しい時代の幕開けの中で、私たちもこれまでの単なる延長ではなく、もう一度ミッションを見直し、そして、それを達成する方法も工夫し、新しいやり方で元気よく新しい時代を会員の皆様と一緒に作り上げていきたいと願うばかりです。

今月の10月27日(土)、東京において、恒例の環境文明21全国交流大会が開かれますが、そのテーマは「環境NPOのエンパワーメント」です。この場では、環境文明21のことだけでなく、環境分野の他のNPOも視野において、私たちが共通に抱えている問題を克服することについて、有識者を交えて皆で検討しようとするものです。環境文明21はもとより、環境分野のNPOの活動が一層盛んになり、しかも社会全体がそれを歓迎する環境作りに関心ある方にたくさんご参加いただき、知恵を出し合える場になればと願っています。