2012年11月号会報 巻頭言「風」より

諦めないで、頑張ろうか!?

藤村 コノヱ


本誌9月号で、原発をめぐる国民的議論が政府のエネルギー・環境政策にどう反映されるか注視している旨を書きましたが、9月14日に公表された「革新的エネルギー・環境戦略」の要旨は、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするようあらゆる政策資源を投入する」というもの。猛暑の中、多くの人手と予算を投じて行なわれた国民的議論では「2030年まで」だったのが、いつの間にか「2030年代」となり、「原発ゼロ」は「原発稼働ゼロに向け」となるなど、国民的議論で示された民意は殆ど反映されない、玉虫色の内容となりました。そして、9月19日の閣議決定では、「革新的エネルギー・環境戦略を踏まえて、関係自治体や国際社会等と責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら、遂行する」と言う内容で、“2030年代”も“原発ゼロ”も、見事に削除されています。官僚出身の加藤共同代表に言わせると、「…踏まえて」とは、「踏んづけて」と言う意味だそうで、閣議決定そのものが殆ど意味をなさない内容とのこと。ある程度予測できたことではありましたが、多くの心ある国民の民意よりも、経済界やアメリカの意向を重視したこの結論には大きな失望と同時に、民主主義の危機さえ感じます。

一方地方でも、浜岡原発の再稼働の是非を問う条例案が、署名数16万5千と必要数の三倍も集まったにもかかわらず、県議会では全会一致で否決。それ以前の東京都の原発都民投票も、大阪市の原発市民投票も議会で否決されており、原発に関する民意は、日本では殆ど政治に反映されていない状況です。次の選挙で脱原発に後ろ向きな自民党が復権すれば、脱原発政策が宙に浮くことは確実で、次世代にますます大きなツケをまわすことになってしまいそうです。そして、こうした政治の現状、それでも選挙にしか関心のない多くの政治家には失望と怒りの連続です。

そんな折、朝日新聞(10月19日付け)で政治学者豊永郁子さんのインタビュー記事を読みました。印象的だったのは、次のような言葉です。“世界を見れば一滴の血も流さず、社会の秩序も揺らぐことなく政権が一新されるのはすごいこと”であり、“二大政党を日本に根付かせるには政治家が考えること。自分の行動が政治体制にどう影響を与えるかまで熟慮するのが政治家の責任倫理。考えない政治家はやめろといいたい”と。さらに“自分の行動が前例となって将来に影響を与えるということでは、政治家も国民も変わりない”と。

私自身、一国民として政治に関心を持ち、環境NPOとして持続可能な社会づくりに向け政治家に働きかけることもしてきました。しかし、持続可能な社会は遠のくばかりという現実、NPOの無力さに、最近少しめげてもいました。そんな折、この記事を読み、国民が諦めてはいけない、国民が政治家を育てるくらいにならないといい国にはならないと改めて自らを鼓舞しているところです。そして、「道に迷った時は原点に戻る」の鉄則に従い、何をすべきかを考えた時、やはり私のライフワークである環境教育を真の民主主義教育に深化させる事ではないかと思っています。具体的には、環境教育で学んだことを、自然保護やリサイクル活動など現場での環境保全活動だけでなく、持続可能な社会に向けた環境政策作りにも活かしていく市民を増やすことです。

以前ドイツを訪れた際、幼稚園児が自分達の園庭をどうしたいか絵に書いて提案し、父母と一緒に園庭づくりの作業に加わる姿、中学生が地域で閉鎖された空港跡地をどうするかを議論し、その結果を自治体や地域の人達に提案する姿を見て感動したことがあります。ドイツはエネルギー・環境政策にも熱心で、緑の党も重要な役割を果たしていますが、その背景には、環境教育が民主主義教育と繋がっていることがあると思います。

幸い、環境文明21が成立からずっと注力した環境教育推進法の改正法が10月から全面施行です。改正法では、私自身、最初の法律からこだわり続け、改正法への明記を働きかけた環境政策形成過程へのNPOの参加が、「政策形成への民意の反映等」(第二十一条の二)として明記(※)。まさに、環境教育を民主主義教育に深化させる手立てが法律に明記された訳です。そして現在、この提案制度のあり方に関する検討会(私も委員として参加)で、政策提案の定義や範囲を含むガイドラインが検討されています。その背景には、今の日本では、行政が市民提案を歓迎しない(面倒なことと言う意識)、市民も行政に文句は言うが政策としての提案能力は不十分という実態、そして明治以来の官僚制と市民側の「お上」意識が根強く、法律の運用にはガイドラインが必要という役所側の判断があるように思います。

確かに、環境NPOでも政策提言を行う団体は日本では数えるほどしかありません。まして個人で政策作りに関わるなど、皆無という方が殆どではないでしょうか。

しかし、原発、温暖化など、政治家や行政・専門家だけでは解決できない問題が山積する現代、豊永さんが言うように、一人一人の行動が将来世代にどう影響するか考えて行動することが、今の生活をも守り、住みよい国にしていく責任でもあると思います。まさに、お任せ民主主義からの脱却です。

エネルギー政策に関する国民的議論も不十分ながら第一歩を踏み出し、私たち国民の意見を環境政策に反映させる手立ても未成熟ながらできたわけです。これからは、自治会活動、ボランティア活動、NPO活動等に積極的に参加する中で気付いた改善策を行政に提案する、自分が気になる政策のパブリックコメントを出してみる、選挙以外にも民意を表明する機会を積極的に活用し、その姿を子どもたちにも見せて行く。政治が国民と離れているなら国民から政治に近づいていく。そんなことが、この国の再生と持続可能な社会につながるような気がしています。

※第二十一条の二 国及び地方公共団体は、環境保全活動、環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組に関する政策形成に民意を反映させるため、政策形成に関する情報を積極的に公表するとともに、国民、民間団体等その他の多様な主体の意見を求め、これを十分考慮した上で政策形成を行う仕組みの整備及び活用を図るよう努めるものとする。
2 国民、民間団体等は、前項に規定する政策形成に資するよう、国又は地方公共団体に対して、政策に関する提案をすることができる。