2013年9月号会報 巻頭言「風」より

環境文明21の20年

加藤 三郎 ・ 藤村 コノヱ


当法人は、1993年9月に「21世紀の環境と文明を考える会」として発足しましたので、本年9月で満20年の節目を迎えました。この20年の時間を歩む間にも、当法人の目指すところは少しも変わってはいません。すなわち、まずは、人間が人間らしく安心して尊厳を持って生きられる持続可能な社会になるようにNGO/NPOの立場で尽力することです。

この間に、形態はすこしずつ変化しています。まず、組織形態ですが、任意団体(NGO)から、NPO法人(99年)へ、そして最近は認定NPO法人となりました。事務拠点も川崎市中原区のアパートの一室から始まり、同中原区の事務所ビルに移り、さらに06年から現在の大田区田園調布に拠点を移しました。代表者も当初は、一人代表制を取っておりましたが、6年前(07年6月)から、現在の共同代表制となりました。

また、会員数につきましては、最初の頃は、会員数の増加がありました(ピーク時は約800名)が、近年は徐々に会員数が減少し、その結果、会費収入の減少がありましたが、一方で、会員の皆様からのご寄付や企業財団からの助成金が増加し、現在の活動を維持しております。

この20年という月日は自慢するほど長いわけではありませんが、そうかといって軽視するほどの短時間でもないと思っておりましたが、たまたま先日、安倍晋三首相が、衆議院議員として初当選したのが、私たちの発足とほぼ同時期であったことを知りました。安倍さんの場合は、超大物政治家の家系の出ですので、初当選と言っても、凡百の代議士の場合とは違うでしょうが、それでも一年生議員から総理総裁(それも2回)へと上り詰めた時間は、私たちと同じ20年です。もう一つの例を出しますと、ノーベル医学生理学賞を受賞された山中信弥教授の略歴を見ますと、20年前は、世間的には私たちと同じほとんど無名の研究者であり、彼が大阪市立大学の助手のポストについたのが1996年ですので、偉大なノーベル賞受賞者と私たちが奮闘してきた時間は、ほぼ同じであったと知りました。

こういうことを言いますと、「なんだ、安倍首相や山中教授の20年と自分たちを重ねるとはあまりにも僭越ではないか」とご批判を受けるかもしれません。お二人の道のりとは比ぶべくもないと思われるかもしれません。しかし、私はそんなに卑下してはいません。確かに私たちの活動は、まだまだ水面下にいるようなものかもしれませんが、無駄な時間を過ごしたつもりは毛頭なく、いつか花咲き、日本の社会にお役に立つ地味な作業をしているという思いには確かなものがあります。

私が若いスタッフに、「我々は今、『効率』や『経済成長』ばかりを善しとする社会の岩盤を崩し、地下水脈を掘っているのだ。やがて、日本社会の前進に真の意味で役に立つときが来るに違いない」と確信を持って言っています。私たちがしてきたことが価値ある仕事であったか、それとも単なる自己満足の連続で、環境文明21が存在しようとなかろうと日本の社会は1mmも変わらなかったかの判断は皆様にお任せしたいと存じますが、少なくとも私たちは、明日の日本へつながる道を歩んでいるとの確信を持ってこの仕事をしていると申し上げておきたいと存じます。

しからば、当法人がどんなことをしてきたかについては、先月発刊し、会員の皆様にはお届けした20年の歩み(次表ご参照下さい)と最近、特に力を入れている環境文明社会づくりの冊子類などをご覧いただければ、一層ご理解いただけるかとは存じます。

どうか、これからも皆様とご一緒に、環境文明という大転換期の課題にのびのびと立ち向かって参りたいと存じます。

加藤 三郎


前般に加藤共同代表が、主にこれまでの環境文明について述べてきましたので、ここからは、これからの環境文明21について述べてみたいと思います。

環境文明21のゴールは? それに向けた戦略は?とよく聞かれます。しかし、その答えはとても難しく、いつも答えに困ってしまいます。なぜなら、最終的な目標は、日本の社会を持続可能な社会にすることと明確なのですが、どの時点で、あるいは何が達成されれば、持続可能な社会といえるのかの判断が難しいからです。それに、例え、環境問題が解決されCO2が削減されたとしても、人々が安心・安全で心豊かに暮らせる社会にならなければ持続可能な社会とは言えないと考えているからです。そう言う意味では、私たちは雲をつかむような大きな目標に向かって活動しているのかもしれません。

また、戦略といっても、小さな組織ですから、持続可能な社会を構築する上での様々な課題のうち、出来る部分から地道に挑戦していくしかありません。例えば、設立当初からのテーマである持続可能な社会を創る上で役立つ価値観の探求に関しても、設立当初は環境倫理から出発。そして最近では、日本の伝統社会の中にあった持続性の智恵が役立つのではないかという発想で、まず文献調査を行い、検討会等も踏まえて考え方をまとめ(調査研究活動)、その後、それらを日本の持続性の知恵として8つにまとめて提案し(提案活動)、書籍やホームページを通じて、あるいは講演活動の中で普及しています。提言としてまとめるのに大よそ三年、その後の普及啓発は継続的に、です。しかし、多くの人が目先の利を追いがちな現代社会においては、こうした本質的なテーマに関する私たちの活動は、地味で目立った活動ではないため、一般の方に理解して頂くのはなかなか大変です。

とはいえ、私たちの考え方や活動をできるだけ多くの方に知って頂き、仲間を増やすことが持続可能な社会への道だとすれば、その工夫も重要です。

そのため、今年からITを積極的に活用していますが、これだけの情報化社会の中で、私たちの発信する情報を多くの方に伝えることは、これまた至難の業です。それにITはあくまで道具。やはり本質を抑えつつ、活動の方法論を少しずつ変えていく必要があると考えています。

その一つが、長期的な目標だけでなく、もう少し身近で具体的な目標を掲げて活動することです。それは、一般の人たちの理解を得る上でも、活動の推進力と言う点でも効果的だからです。以前に環境教育推進法の成立をめざして活動した際、「法律を成立させよう」と言う具体的で明確な目標があったために、多くの方の賛同と協力を得ることができました。その結果、我々の提案から2年足らずで法律が成立。また具体的な目標があったために、議員や役所とのやり取りの中で法律の中身を詰めていく戦略と、社会の理解を得るための広報戦略を組み合わせるなど、戦略も立てやすく、活動に参加して下さる方の役割分担もスムーズでした。

そうした経験から考えると、これからの環境文明21も、「持続可能な環境文明社会の構築」という大きな目標だけでなく、冊子に掲げた施策、戦略の中のいくつかについて、より具体的な目標を立て、戦略を練っていく必要があると思っています。そしてその活動が、これまでのように事務局主体の活動だけでなく、各地の会員の皆様が地域の課題と照らし合わせ、地域にあった方法で、地域を巻き込んで発展してほしいと思っています。そうすれば、持続可能な環境文明社会という頂上に向けた登山道がいろいろと開けていくのではないでしょうか。ちなみに、昨年から長谷だけでなく関西グループでもエコツアーが開催されています。また、四日市市と仙台で、地元の皆さんの政策提言活動を支援していますが、これも「民主政治の深化」「政治への市民組織の参加の促進」「地方主権の確立」といった持続可能な社会の為の政治の強化という目標達成に向けた一つの戦略です。

さらに可能であれば、他のNPO団体とも連携して、持続可能な社会という同じ頂上に向かって、それぞれの団体がそれぞれの得意分野から登山道を切り拓いてくれれば、とも思っていますし、現在行っている「環境NPOのエンパワーメント戦略2020」プロジェクトを契機に、少しずつ働きかけていきたいと思っているところです。

藤村 コノヱ