2013年10月号会報 巻頭言「風」より

2020年“東京グリーンピック”はいかが?

加藤 三郎


9月8日の早朝、地球の裏側から飛び込んできたニュースに日本中が沸き立った。言うまでもなく、2020年東京五輪が決定されたとのニュースだ。私自身は、さほどのスポーツファンではないが、それでも、オリンピック・パラリンピックが東京に決まるかどうかは、人並みに関心を持ち、朝6時くらいに目を覚ますと、真っ先にその関連ニュースを探したものである。

その後の日本での五輪フィーバーは、ご存じのとおりである。何兆円の経済効果がある、GDPが何%上がるといったカネの話に浮き立つ人がいる一方、福島の原発事故処理の見通しも全くつかず、地震・津波の復興からほど遠い段階で五輪騒ぎでもあるまいといった冷めた意見まで様々に飛び交っている。

私自身は、日本人は共通の目標がないと方向性が定まらず、一丸となって燃えないという特性から考えると、スポーツの祭典であり、平和の祭典でもある五輪を7年後の日本で開催するというのはわるくない目標となるので、今回の決定そのものは肯定的に捉えている。

せっかく共通の目標を勝ち取ったのであれば、もう一つ、目標を追加したい。それは、あとにも述べるように、地球温暖化による気候変動は2020年には一段と脅威を増す筈なので、環境、つまり、グリーンを前面に出した五輪、つまり“グリーンピック”とも呼ぶべき五輪を東京で開催してみたらいかがかという提案である。それは、競技施設やそこへの移動などのインフラ・設備に環境配慮する程度の話ではなく、日本の社会を丸ごと持続可能にするように「グリーン」化するという意思で、日本を再活性化する契機にしたらいかがかというのが、提案のミソである。

オリンピックでは「より速く、より高く、より強く」を目指して世界中から集まる有力選手が競い合う。そのこと自体は、もとより結構なことであるが、競技施設の整備や運営には、「グリーン」の要素を意識的に入れるべきだと考える。「より速く、高く、強く」は、人類社会が右肩上がりの成長を強く希求した時代の目標であったように思う。それだけでは21世紀では足りないのではないか。やはり、公平・公正のもとでスポーツを楽しむ社会環境それ自体が持続するように本気になって取り組む、すなわち、オリンピック・パラリンピックをスポーツや平和の祭典だけで賑やかに終わらせるのではなく、持続可能な社会を希求する人々の祭典でもあってほしいと考えるからだ。


私自身がなぜ「グリーン」をことさら強調するかというと、次に述べるような強い思いがあるからだ。

多くの人も心配していることだろうが、2020年のオリンピックとパラリンピックは、7月下旬から9月上旬までの日本の「猛暑」の時期に開催される予定だ。日程を聞いてまず思い浮かぶのは、酷暑の中では競技者はもとより観客にとっても苛酷で危険ではないかということである。なぜこの時期を選んだのか、正式な理由を私は知らないが、メディアなどが伝えるところによると、放映権を持つ有力スポンサーのアメリカのテレビ会社が、真夏に放映することを強く求めたとのこと。アメリカのテレビ界は、その前後は様々なスポーツイベントで埋まっているが、この時期には空きがあるとかで、開催時期が決められたようである。

一方、2020年頃になれば、地球の温暖化に伴う酷暑などの異常気象も一段とレベルアップして競技会場を襲う可能性は高い。そういうことであるので、五輪関係者だけでなく全ての人が、地球温暖化の影響について、否が応でも、関心を持たざるを得なくなるので、地球レベルで気候変動の恐るべきインパクトについて学習する恰好の機会になるという意見もある。しかし、まずは、安全第一に考えるべきであろう。ちなみに2022年にドーハで開催されることになっているサッカーのW杯戦は、酷暑を避けるため、夏から冬期へ開催時期を変更することを検討する旨の報道もある。

さらに2020年と言えば、京都議定書の後継対策が実施される初年となる筈である。ご存知かと思うが、地球温暖化対策については、先進国、途上国の意見を合せるのが難しく、難航が続いていたが、やっと2011年のCOP17 において、アメリカ・中国・日本・EUなど主要排出国を含め2015年までに新たな気候変動対策に合意し、それを各国での批准手続きを経て、2020年から気候変動対策を実施する予定となっている。この通りに進むとすれば、東京五輪の開催は、京都議定書に替わる新しい地球温暖化対策のスタートと合致することになり、京都に引き続いて東京は世界の温暖化対策にとって歴史的な意味を持つ都市となる。

日本は、京都議定書を締結したホスト国でありながら、民主党政権から自民党政権を通じて、その京都議定書から事実上、離脱してしまった。このような誤った選択に対し温暖化対策に取り組む諸外国の人たちからは、なぜなのか、日本の温暖化対策の熱意はどこにいったのか、などと厳しく批判されているが、2020年東京五輪の年に新対策がスタートするとすれば、日本の温暖化対策の取り組みへの意欲(もちろん、あればの話であるが…)を世界に伝えられる好機となろう。


また、この頃、脱原発への動きが日本でどのように進んでいるかは重要である。福島の原発事故の後始末がどの程度進んでいるのか、また安倍首相も最近原子炉の廃炉について言い始めているが、この廃炉作業をどう進めているか、原発に代わるエネルギーとしての再生可能エネルギーがどの程度出回り始め、省エネがどこまで普及しているかなどを具体的に、数字をあげて世界に発信できる良い機会だ。

東京五輪を機にたくさんの外国人、報道関係者が日本を訪れるだろうが、そのうちの少なからぬ方は3.11の惨禍から東北地方がどれほど復興しているかにも、大いに関心を持ち、たくさん発信されるに違いない。そのような機会を捉えて、日本社会全体のグリーン化がどのような思想に基づきどのように進みつつあるのかアピールし、世界に21世紀にふさわしい持続可能なグリーン社会モデルを提示するためにも東京五輪はテコになるのではないかと思っている。


そのような意味からも、東京五輪は“グリーンピック”であってほしいと願っている。