2014年1月号会報 巻頭言「風」より

若者と賢者から勇気をもらって

藤村 コノヱ


新しい年を迎え、皆様いかがお過ごしでしょうか。

昨年は、気候変動に伴う自然災害が世界各地で多発し、地球温暖化に関する研究者・科学者の長年にわたる警告がますます現実味を帯びた1年でした。また、核廃棄物の処理や汚染水問題が何一つ解決していない中での原発再稼働の動き、秘密保護法の成立など、国民の意見が反映されない政治運営に民主主義の危機を感じる1年でもありました。そして、年末には、南スーダンでPKO活動中の自衛隊の銃弾1万発を韓国軍に無償譲渡すること(その後返却)を決めるなど、「あべ内閣」ではなく、「あぶない閣」と呼びたい状況が続いており、改めて「政治家は厄介な問題は先送りし、将来にツケを残すのが習性」と強く感じています。今後も、少子高齢化の進行、自然災害や国の借金の増加は確実で、明るい未来が見通せないというのが正直な気持ちです。

そうした中で、年末年始にかけて、うれしいことがいくつかありました。

その一つは、学生インターンとして、環境文明21に関わってくれた若者の成長です。

0君は「環境」に拘りすぎて就職戦線前半は苦戦。「最初から環境をやりたいと言って受け入れる会社は少ないから、それは心に秘めて」という我々の助言が効いてかどうかわかりませんが、その後無事大手住宅メーカーに就職。最初の数年は地方営業で苦労したようですが、初心を忘れず、その後CSR室の社内募集に挑戦し目出度く移動。さらに震災時には環境文明21でのインターン経験が評価されて被災地の仮設住宅建設を任されるなど、着々と当初の希望の階段を上っています。

Iさんは、外資系コンサルに就職、その間に米国留学もしてMBAを取得。絵にかいたようなキャリアウーマンの道を進んでいたのですが、年末にあっさり退社、再生可能エネルギーの小さな会社に転職しました。普通なら「なぜ?勿体ない」と思われる転職ですが、大学時代に環境を学び、やはり「環境の仕事がしたい」という思いを叶えるため、そして「贅沢な生活に慣れてしまうと普通の感覚がわからなくなるから」という堅実な転職です。

Hさんは、インターン生の時から司法を目指していました。エコツアーの事務局として現地で参加者のお世話をする間も、寸暇を見つけて勉強する努力家でしたから、法科大学院も司法試験も一発で合格。最初は国際弁護士を目指し就職も内定していたようですが、修習の過程で様々な局面で紛争解決に寄与できる裁判官に魅力を感じて方向転換、その試験にも見事パスして、今年から判事補としての仕事が始まるそうです。勿論彼らはもともと優秀だったわけで、私たちが関わらなくてもその道を進んでいたのかもしれません。それでも、“環境”や“安心・安全で皆が心豊かに暮らせる持続可能な環境文明社会”を築く道を進み始めてくれたことはうれしい限りですし、私たちの活動が少しでもそのきっかけになったのではないかと思うと、心が温かくなります。

そして、彼らだけでなく、この10余年でインターン生として受け入れた若者の多くが、各々の会社で持続可能な社会づくりに貢献できる企業にしようと挑戦を続けたり、起業に挑戦したり、親になり次世代を担う子どもたちを育てることに奮闘しています。そうした彼らの姿を目にし耳にするたびに、こんな若者が増え、彼らとの世代交代が円滑に進めば、日本の将来も明るくなるように思えてきます。そしてそれを促進するためにも、若者が様々なNPOでインターンができる機会をもっと増やすべきだと思うのです。

現在、環境文明21に来るインターン生は、(財)損保ジャパン環境財団のCSOラーニング制度によるものです。これは、地球環境保全には、基礎となる環境人材の育成と市民社会組織(CSO)への支援が重要との考えから始められた制度で、多くの環境NPOが学生を受け入れています。様々な学生がいて、生活指導が大変という声も聞きますが、少なくとも私たちにとっては、若者の考え方や暮らしを知る機会になり、将来を担う若者に持続可能な社会をつくることの大切さを伝える機会になっています。勿論実務面でも手助けしてくれますし、何より、彼らの成長する姿を見るのは大きな喜びです。また彼らにとっても、社会への入り口で、様々な大人とかかわり、その考え方や志を学び、ある時は失敗し叱られたりする経験は、大学では得られない貴重な成長の場になっていると思います。

しかし残念ながら、上記のような制度は日本ではあまり広がっていません。文科省や経産省などはインターンシップに関しての基本的考え方を示し、導入と運用の手引きをまとめていますが、実際の体験学生数は、全在学生数の1割に満たない状況で、課題も多いようです。またこの制度は、経済構造の変革と創造のための行動計画(H9年閣議決定)を踏まえたもので、いわば企業戦士の育成を目的としています。組織で仕事をする点ではCSOラーニング制度と大差ありませんが、企業と環境NPOの社会的役割の違いやこれからの世界を考えれば、「持続可能な社会を担う人材の育成」という大きな視点からNPOへの派遣も検討するなど、制度そのものの見直しが必要です。


年末年始にかけうれしかったことのもう一つは、とても勇気づけられる文章を目にしたことです。

一つは2013.12.31付朝日新聞の大澤真幸氏の「2013不可能性の時代を生きる」です。「現実主義だリアリズムだと言って、可能なことだけを追及するというのは単に、船が沈むのを座して待つことにしかなりません。みんなが可能なことしか求めなかったら、可能なことしか起きないじゃないですか。(中略) 歴史的には何度も不可能だったはずのことが起きている。それは不可能なことを求める人がいたからに他なりません。…」と。

そして、環境仲間のバイブルの一つともいえるシューマッハの『スモール イズ ビューティフル』を読み返して、“教育は最大の資源”であり、“教育の核心は価値の伝達”にあり、“原子力の危険、遺伝子工学の発達に伴う乱用の恐れ、商業主義の弊害、こうした問題に対する対策は、結局、教育の普及と向上に帰着する”という言葉を、改めて目にしたことです。

確かに私たちの活動は成果の見えにくい活動で、価値観・制度を変えるなど不可能な活動なのかもしれません。そのため、“理想論だけ掲げても…”とか“正論は聞き飽きた”という声も時々耳にします。それでも、こうした文章を読むと、私たちの活動は決して無意味ではない、と改めて勇気が湧いてくるのです。

この1年も決して平穏ではないかもしれませんが、若者の成長というささやかな喜びと希望、そして不可能なことへの挑戦者としての勇気をもって、皆様と共に、活動していきたいと願っています。今年もどうぞよろしくお願いします。