2015年1月号会報 巻頭言「風」より

政治に望む三つの仕事

藤村 コノヱ


皆様、新年をいかがお過ごしでしょうか。

年末の衆院選はほぼ予想通りの結果で、個人的には気候変動問題や将来世代への配慮を欠いた、経済重視の政治がしばらく続くのかと思うと、重い気分のまま年を越した感があります。安倍総理には、過去最低の投票率に示された国民の政治への不信感、自民党は有権者の1/4の明確な支持しか得ていない事実を深く認識し、「お任せ頂いた」などと誤解せず、先送りしてきた諸課題に謙虚に向き合ってほしいと望むしかありません。

一方、今回の選挙でもこの国の将来を明確に語る政党は殆ど見られませんでしたが、選挙後、政府は人口減対策の長期ビジョンを示しました。それによると、50年後に総人口1億人を確保するには2040年の出生率を2.07人まで引上げる必要があるとのこと。しかし、2013年の出生率は1.43人、多くの人が将来に不安を抱え、子どもを大切にしない現在の社会を考えると実現不可能な数値に思えます。

では、安心して子どもを産み育てられる社会とはどういう社会か。それはまさに私たちが目指す持続可能な社会です。その要件は多様ですが、実現に向け、政権や政治家には最低限、次の事に真剣に取り組んでほしいのです。

①全ての生命の基盤を守るため、早急に気候変動問題に取り組む

昨年も気候変動に伴う異常気象が国内外で頻発。このまま対策を拱いていれば、自然災害はますます激化し人類社会は危機的状況に追いやられることになります。にもかかわらず、国際交渉はなかなか進みません(この件は2月号で特集)。特に日本政府は原子力発電の割合が不確定なことを言い訳に、国連が求めるCO2削減の目標値も時期も示していませんし、米国、EUの内15か国、中国、韓国などが策定済みの適応計画もまだです。今や世界の常識となった「2050年に世界で温室効果ガス排出を半減」をまとめるのに一役買ったのは第一次安倍内閣です。政治家の健忘癖はいつもの事ですが、この危機的状況の中での現政権の姿勢は、世界的にも将来に禍根を残す大罪です。地震や火山爆発は人間には止められませんが、温暖化は時間はかかるものの今ならまだ人間の手で解決できるはずです。

②富の分配に知恵を絞り格差を縮小する

日本の子供の6人に1人は貧困状態にあるという危機的状況が昨年示されました。こんなに豊かな国で、と思いますが、母子家庭や非正規の増加などの大人の事情、この社会が子どもを貧困状態に追いやっていることは間違いありません。OECD報告によると、主要7か国中、日本の相対的貧困率は16.0%で、最低のアメリカ(17.4%)に次いで高い割合です。また国連が発表した世界幸福度報告でも日本は43位です。経済の規模を拡大すればいずれ下にも流れるとして、現政権は資金、公共事業をばらまき将来世代への借金を増やしながら経済成長を追い求めています。しかし、有限な地球の中で量的成長を続けることは所詮無理です。まして、日本人が今の生活を維持するには地球が2.5個必要と言われるように、既に限界に達した現状では、経済成長のための費用の方が生み出される便益より大きくなるのは明らかです(「定常経済」は可能だ!ハーマン・デイリー)。そんな理に適わない愚かな経済政策をいつまでも続けるのではなく、限りある財・資源をいかに公平に分配するかという政治家本来の使命に沿った政策に転換すべきです。一部の豊かな人がより豊かになっても、6人に1人の子供が貧困状況にある国は決して持続的ではありません。何より、そんな国で子供を産み育てようとは思わないものです。

③真の民主政治を育て根付かせる

現政権になって以降、国民の意見を聞かず重要事項を閣議決定で進めるなど、民主主義の根底を揺るがす事態が頻繁に見られます。そうした政権運営を許す野党に大きな責任がありますが、選挙に行かない私たち国民にも責任はあります。一票の格差是正も含め選挙制度自体の見直しが必須ですが、その際もっとも大切なのは、自分たちの声が政治に届くという実感を多くの人が持てる制度にすることです。その手始めとして、原発再稼働など地域の暮らしに密接にかかわる事項に関しては住民投票に法的拘束力をもたせるべきです。住民投票は自分たちの思いを政治に反映させる直接的手段であると同時に、そのことに関して自分たちも何らかの責任を負うことの表明でもあります。住民投票の結果が政策に反映されるようになれば無責任な投票はできません。スコットランドのように、若者から高齢者までが自分たちの問題として考え、悩み、議論し、判断し、投票する、その結果決まったことには従うという真の民主主義に近づく一つの有効な手段ではないでしょうか。加えて、そうした力を育む教育も民主主義を育てる基本です。前出の幸福度1位のデンマークは国政選挙の投票率も88%と高いのですが、初等教育から民主主義を教育し、教科書も授業方法も国からの制約は受けないそうです。


以上は政治に望むことですが、私たちNPOも異なる手法でもっと頑張らなければならないと思います。環境文明21も、今年末に開催されるCOP21が人類社会に与えられた“最後のチャンス”くらいの思いで、他のNPOとも連携し気候変動への早急な対応を政府に働きかけていきます。また、持続可能な経済活動を広めるために、経営者「環境力」クラブの皆様の力も借りながら地域への普及活動を新たに始める予定です。さらに、宮城県や四日市市での市民による環境政策提言活動を引き続き支援するなど、地域での環境力・市民力の向上を図りつつ、真の民主主義を育てる活動も継続したいと考えています。