2015年11月号会報 巻頭言「風」より

参院選では、環境・持続派議員を!!

藤村 コノヱ


9月18日未明に多くの反対や疑問を押し切り成立した安保法。その後表立ったデモは減ったものの、違憲性や説明不足の糾弾、参院選での落選運動などは加速しています。安保法の国会での議論が一段落したことを受け、次はいよいよ11月末から始まるCOP21に向けて気候変動議論が活発になるかと思いきや、そうした動きは政治の世界ではほとんど見られません。今年も茨城県常総市などで大きな被害が出たり、以前は台風とは無縁だった北海道で猛烈な暴風雨が吹き荒れるなど、気候変動に伴う異常気象で、国民の生命・財産が脅かされているにもかかわらずです。

少し前ですが、気候変動議論の重要性に関する政治家の認識不足を実感することがありました。9月30日に開催された「GLOBEアジア・パシフィック議員フォーラム」です。GLOBE(地球環境国際議員連盟)は、1989年にEU(当時EC)、米国、日本などの国会議員有志が地球環境問題に関する立法者間の国際協力を目的に設立。日本も与野党合せて50名ほどの環境問題に活発に取り組む国会議員がメンバーになっています。私たちNPOも傍聴可能なため、ほぼ毎回参加しています。

今回は、アジアにおける気候変動、大気汚染、廃棄物・汚濁水問題について各国議員の報告と意見交換が行われました。国会休会中でCOP21を控えての会合なので、いつも少ない日本側議員も今年は多いだろうと期待していたのですが、参加はごく少数。関心の低さを実感しました。しかし、会議自体は次のような点で興味深いものでした。

第一に、アジア地域から参加した議員の環境意識の高さです。バングラデシュの議員の、「COP21など重要な会議を控えたこの時期に、立法の責務を負う議員の立場にいられることは光栄であり、やるべきことは沢山ある」との発言には、議員という立場への誇りと責務を強く感じました。また、気候変動のセッションでは、インドやモンゴル、フィリピンの議員が、気候変動の影響で自国が非常に厳しい状況にあること、さらにインドの議員は、“Climate Justice”の重要性を熱く語りました(翻訳の定説はないようですが、当日は“将来世代への正義”と訳されていました)。こうした話を聞くにつけ、日本の議員からこの問題に関する発言や行動がほとんど見られないことに憤りさえ感じました。

第二に石炭火力に対する考え方の隔たりです。インドやフィリピンなどの議員からは温暖化の元凶となる石炭を止めるべきという意見が出たのに対して、日本の電源開発㈱からは、日本の石炭火力発電は安定・低廉な電力供給を担う産業競争力の基盤として重要との話がありました。実際、日本政府は国際的な反対にもかかわらず、国内外で石炭火力建設を推進しています。その中でGLOBE議員がこの問題をどう考えるかを聞きたかったのですが、そんな議論には到底至りませんでした。こうした本質的な議論が、環境議員の会合でも行えないこと自体が、今の日本の議員の環境力低下を示しているようで情けなく感じました。ちなみに、今回の内閣改造で、石炭火力に待ったをかけていた望月環境大臣は交代。安倍総理信奉者の丸川新大臣がこの問題にどう取り組むか、NPOとして厳しくウォッチしていきたいと考えています。

第三に、公明党の若手議員からの「環境立法に係る市民対話の有無」についての質問に、フィリピン、インド、モンゴルの議員が、市民社会の関与は不可欠と明快に回答したのも印象的で、民意が反映されにくい日本の政治の現状が鮮明になるやり取りもありました。

この会議には多くの企業が協賛し、メンバーの多くが与党議員であることを考えれば、会議の性質も自ずとわかります。それでも“立法の責務を負う議員としての誇りと責任”を真に感じていれば、もう少し積極的な議論ができたのでは、という思いや、議員の環境力低下は深刻だなという思いは否めません。

安保法成立の後、次の参院選での賛成議員落選運動に市民の関心は移っており、環境NPOの連合組織であるグリーン連合もその動きを促進する予定です。しかし、同時に、志と責任感ある環境派議員を早急に育てなければなりません。これまでも議員との意見交換は進めていますが、特に世代や空間を超える環境問題に本格的に取り組んでもらうには、6年という期間が保障された参議院で、環境派議員をもっと増やしていく必要があります。

『教科書・日本国憲法(一橋出版)』【資料5】参議院の役割では、「刹那的な国民の気持ち」を衆議院に、「継続的な国民の気持ち」を参議院に代表させる、つまり、衆議院とは異なる選挙方法をとることで衆議院とは異質な代表を選出し、別の観点から国会審議を行うために二院制を採用した旨記載されています。全国区を設け任期を6年としたのも、国民全体の利益に立ち、時の政治的判断にまどわされず、じっくり腰をすえた議論ができるよう配慮したため、と書かれています。こんな参議院議員なら、そしてもう少し若ければ、私も立候補したいところですが、今回の安保法審議はじめ昨今の国会を見る限り、参議院がその役割を果たしているとは到底思えません。

COP21でいかなる結論が出ようとも、温室効果ガス削減努力は加速しなければなりません。今のような日本政府の対策では、到底気候変動の危機に立ち向かうことは不可能で、国民の生命・財産は失われ続けます。

私たちNPOももっと工夫し活動する必要がありますが、政治家と官僚はそれ以上の責務を負うはずです。有効な環境政策を促進する第一歩として、次の参院選では、目先の経済や軍事ではなく、20年30年100年先の世界と日本を見通した、志高い“環境・持続派議員”を一人でも多く生み出したいものです。