2016年3月号会報 巻頭言「風」より

政治参加を進めるには

藤村 コノヱ


アメリカ大統領選は、国民皆保険や公立大学無償化などを唱え、もしかしたら新しい時代がくるかもしれないというかすかな期待を抱かせるサンダース氏と、極端なナショナリズムや反移民など過激発言を繰り返すトランプ氏が勢いづく予想外の展開を見せています。日本はもとより世界に大きな影響を及ぼすこの選挙を多くの人が見守っていると思いますし、万が一トランプ氏が大統領になったら…という怖さもありますが、個人的には、格差や雇用不安を抱える貧困層と多額の学費ローンや就職難に苦しむ若者がこの選挙を動かしていることに注目しています。それは、日本では政治への無関心の一要因として、国民生活が厳しさを増し多くの国民が余裕を失っていることが挙げられますが、アメリカのこの状況は、良し悪しは別に、自分たちに直接かかわる政策や変化が期待できれば、若者や厳しい生活の中でも人々は政治に関心を持ち行動することを示しているように思えるからです。

一方、昨今(ではなくずっとですが)の日本の政治状況は、政策議論を深めることなく、スキャンダル、政局、選挙対策に時間を割くばかり。しかもその選挙も、政権交代選挙を除き、国政選挙の投票率は平成以降7割を切り、最近では50%前半に落ち込むなど、国民の政治離れに歯止めがかからない状況です。

理由は色々ありそうですが、一つは、まさに政治家が自らの使命と信念を見失い、国民の期待や現状を把握できず、適切な政策を示せていないことにあると思います。勿論課題は山積し、年齢や生活環境により国民の要望も異なります。だからマニフェストには様々な政策を羅列しているのでしょうが、本来政治家は、社会混迷の根本原因は何処にあるのか、解決のための基本政策は何で、それが私たちの暮らしとどう関わるのか、また日本の将来像をどう描き、その実現に向け取り組むべき政策は何か、といったことを明確に国民に示すべきです。しかし現状は、“経済再生”“地方創生”“一億総活躍社会”といった政策なきスローガンを捲し立てるだけ。これでは、選択のしようがない、どうせ変わらない、だから関心もなく選挙にもいかない、ということかもしれません。

また、アメリカほどではありませんが、格差や雇用不安、育児や教育の現状は日本でも深刻で、不満や怒りをもつ人は大勢いるにもかかわらず、政治に無関心な人が多いことも深刻な問題です。今グリーン連合では、市民版環境白書「グリーンウォッチ」の発行準備中で、私は、日本の環境政策の停滞・後退の要因について執筆しています。その中で、その直接的責任は政治家や官僚にあるが、政治家を選び、まっとうな政策が生まれにくく、市民の意見が届かない仕組みを容認している私たちにも責任はある旨述べています。勿論、国民生活が厳しさを増し余裕が失われるなど政治どころではない状況は理解できますし、政策づくりに国民が関わる機会など殆どない状況では仕方ない面もあります。それでも、その無関心さが、長い目で見れば自らの生活に戻ってくることは事実で、せめて関心をよせ選挙には行ってほしいと思うのです。

さらに無関心の背景には、教育の問題もあります。現行の教育基本法は、「良識ある公民たるに必要な政治的教養は教育上これを尊重しなければならない。」と規定していますが、同じ法律には「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」とあります。中学校で社会科、公民、高校で現代社会や政治経済などの教科はあるものの、政治や具体的政策について議論する機会は、よほど関心のある教師がいない限り行われていません。そんな中で18歳以上の未成年者にも政治参加の道が開かれたわけです。

若者の政治意識や投票率の高さで知られるスウェーデンでは、子どもの頃から家庭でも学校でも政治について話し合う習慣があり、自分の意見を政治に反映させる体験を積み重ねています。私も以前にスウェーデンを訪問した際、学校で子供たちが地域政策について議論する姿を見て感心したものです。それに比べて日本では、前述のように政治教育を制限してきましたし、政治について話し合う家庭などごくわずかではないでしょうか。そうした積み重ねがないままの18歳選挙権には正直懸念があり、せめて身近な地方政治への参加経験を積んでからでもよかったのではないかと思います。

そして、私たちNPOにも問題はあります。スウェーデンでは多くの市民が複数のNGOに参加し、共に学び、政策議論や政治行動にも積極的です。しかし日本では政策作りに精通したNPOは少なく、市民の信頼を得て社会的影響力を持つには至っていません。環境文明21もいくつかの地域で政策作りを支援してきましたし、グリーン連合もそうしたことを目指し設立しましたが、残念ながらその段階に至るにはまだ時間がかかりそうです。

不満や怒りだけで政治を動かしても、受け皿となる政治体制と常に冷静な判断力を持つ市民が居なければ必ずしもいい結果を生まないことは、中東のみならず日本でも経験済みです。また大企業が政治もマスコミも資金面でコントロールしているといわれるアメリカの選挙戦が民主主義にかなった選挙かどうかも疑問は残ります。

それでも誰かが動かなければ何も変わりません。選挙制度さえ変えられない今の日本の政治家に多くを期待するのは到底無理と思われる中で、私達NPOや会報をご覧の専門家の皆さんが、せめて環境や持続可能な社会について身近な人に積極的に伝えたり、政策に関する意見交換をすることで、政治や環境政策への関心を高める第一歩になるのではないでしょうか。