2017年11月号会報 巻頭言「風」より

いつか、環境NPOも一つの票田に

藤村 コノヱ


突然の大義なき解散と新党乱立の中での今回の衆院選。日本各地に吹き荒れた大型台風はあたかも日本の世情を表すかのようでしたが、投票率は53%台と低迷し、結果も日本の社会の変革には程遠いもので、「皆が安心・安全に心豊かに暮らせる持続可能な社会」を望む私たちにはため息の出るものでした。唯一、中間層や真の保守派の受け皿となりうるような政党が躍進したことは、わずかな希望です。

選挙中は、憲法論議では軍備を整え日本を戦争のできる国にするのか、戦争をしない国のままでいるのかの議論はあったように思いますが、議論は9条問題ばかりで本質的な議論は殆どありませんでした。また原発再稼働の賛否については各党ともに考え方を示していましたが、核廃棄物の問題や国民の生命・財産を脅かす気候変動と絡めての議論は殆どなく、パリ協定の削減目標、脱石炭火力、再エネなども含めた気候変動・エネルギー政策に関しては、どの政党も確固たる政策は示せませんでした。さらに教育無償化など子供たちの将来の為の政策と銘打っていたものの、結局将来世代にツケを回すだけの政策で、本当の意味で日本の将来に関する真摯な議論はないままだったと思います。

そうした背景には、昨今の政治家の質の低下があると思いますが、それは私たち選挙民の質の低下にも起因していると言わざるを得ないのかもしれません。グローバルな市場経済の拡大は、「今さえ」「自分さえ」「金さえ」という人々の欲望を掻き立て、社会的規範や道徳的思考は疎まれ、さらに情報化の進展により、それまで制御されていた過度な自由や欲望は瞬く間にSNSなどによって拡散され、定かではない情報に翻弄させる民意が政治も左右するような社会の風潮を生み出しているように思えます。そうした中で、まっとうな政治家を選び育てる力も低下し、結果としてまっとうな政治家も育っていないように思えるのです(卵と鶏、どちらが先か??)。

勿論すべての日本人がそうだとは思いません。先月号で木俣氏や宇郷氏が述べていたように、トラジション、ミニマリストといった新たな生き方を選択する人たちも出てきており、私の周りには結構そうした人がいます。また当会の会員さんのように、NPOを応援し健全な市民社会を育てようという志の高い人たちもいます。しかし残念ながら、日本全体を見渡せばそれはまだまだ少数派であり、社会を動かす大きな力にはなりえていません。

一方今回の選挙は、混沌とした時代におけるNPO・NGOなど市民団体の役割や市民社会のあるべき姿について改めて考える機会でもありました。2年半ほど前に、日本の環境NPO・NGOの連合組織としてグリーン連合を立ち上げたことはご承知の通りです。その目的は、全ての生命と人間活動の基盤である「環境」を護ることを基軸にした、民主的で公正な持続可能な社会を構築するために、強く社会に働きかける。そして危機的状況にある地球環境を改善し、持続可能で豊かな社会構築に向けた大きなうねりを日本社会に巻き起こすこと、そのための健全な市民社会の実現でした。

設立以来、目的達成に向け、グリーン・ウォッチ(市民版環境白書)の発行や議員や官庁との意見交換会など、普及活動と政治への働きかけを行っています。NPO法では、NPOは特定の政治家や政治団体を応援することはできないため、私たちも常に、環境に関心を持ち、持続可能な社会づくりに賛同してくれる超党派の議員との連携を心掛けています。しかし、以前と違って「環境派」議員は与野党含めてごく少数で、それが今回の選挙で環境問題が殆ど語られなかったことにも如実に表れていると思います。また、今回の選挙では立憲民主党と市民団体が連携する動きは見られたものの、永田町では環境に対する意識のみならず、NPO・NGOや市民社会に対する認識は欧米に比べて本当に低いのが実態です。そうしたことが日本の環境政策の遅れや市民社会がなかなか育たない原因になっているように思います。

一方市民社会の中にも、政治が変わらないと社会は変わらないという思いから政治に働きかける動きと、政治を当てにしても仕方ないから地域で自分たちの力でという動きがあるように思います。グリーン連合でも、どちらに力点を置くべきかについては意見が分かれているように感じます。しかし、日本を健全で持続可能な社会に換えていくには両方が結び付くことがとても大切だと思います。そして近い将来、党利党略ではなく、命の基盤である環境や人々の暮らしと結びついた政策、地域や将来世代も配慮した政策を実現していく政党が必要だと思いますし、そのためには私たちNPO・NGOが一つの票田になるくらいに成長する必要があると痛感しています。

今年のノーベル平和賞は、ICANというNGOが受賞しました。ICAN(International Campaignto Abolish Nuclear Weapons、核兵器廃絶国際キャンペーン)は、各国政府に対して、核兵器禁止条約の交渉を働きかけるために設立。本部事務所には3-4名のスタッフしかいないそうですが、2017年現在101か国で468の提携組織が活動しているそうです。その中には日本の被爆者団体も含まれており、高齢になった被爆体験者と世界の若者が連携して、次の世代に引き継がれる活動を展開しています。気候変動など全世界の、そして次世代にもつながる問題に対応する私たち環境NPOにとっては、ICANの活動は一つのモデルになるような気がしますし、私たちも国内のみならず世界のNGOや若者とも連携して次世代により良い環境と健全な市民社会を残せるようなNPOに成長していきたいと思っているところです。