2017年12月号会報 巻頭言「風」より

2017年を振り返る

加藤 三郎


2017年も様々な出来事があった。もちろん悪いことばかりでなく、良いことも沢山あったが、私には特に次の三つが、重く心に残る。

1)世界各地で異次元の気象災害

地球温暖化に伴い気候が悪化することはかなり前から指摘され、現実に様々な気象災害が発生し吹き荒れてきたが、今年は特に異常だと思われる現象が世界各地で発生している。ここでは、国内と米国について述べる。

まず国内では、5月に群馬県館林市で猛暑日が発生したことから始まり、7月上旬には福岡県朝倉市と大分県日田市を中心に、九州北部豪雨と名付けられた猛烈な降雨に伴う甚大な被害が発生した。活発化した梅雨前線による災害だが、朝倉市では時間降雨130ミリ、24時間の降雨量が1000ミリを超えたという。ここ数年注目されるようになった「線状降雨帯」が発生し、「想像を絶する」光景だったと報じられている。県をまたいだ大分県でも大きな被害が発生している。

両県で死者、行方不明は47人だが、住宅被害は3000棟を超え、山の斜面が表層崩壊し、21万トンのおびただしい流木が下流の集落を襲った。この豪雨災害の傷が消えないうちに、9月中旬には台風18号が日本列島を襲っている。この台風の特徴は、鹿児島県南部に上陸した後、高知県に抜け、さらに北陸沿岸から北海道といった具合に、文字通り沖縄から北海道まですべての県で気象被害を発生させた。その後も日本では台風が続いたが、ある意味で日本よりもっと猛烈な今年のアメリカの状況をごく簡単に見てみよう。

8月末にはハリケーン「ハービー」がテキサス州などを襲った。ヒューストン市の近郊で24時間に1300ミリの降雨量があったなど、ハリケーンがもたらした降雨としてはアメリカ観測史上最多であったという。これにより前代未聞の洪水が発生し、死者は70人を超え、メキシコ湾岸に立地していた石油製油施設にも大きな被害が出、原油価格もそれに応じて動いたという話も伝わっている。その直後の9月の上旬に、超大型ハリケーン「イルマ」がアメリカを襲った。フロリダの近くまでやって来たが、アメリカに到達する前にカリブ海に浮かぶプエルトリコやバハマ諸島に壊滅的な被害を与えたという。

10月に入ると、8日から2週間近く、カリフォルニア州で山火事が発生した。カリフォルニアは乾燥した土地柄なので、ちょっとしたことでも山火事は発生していたが、今回は乾燥と強風にあおられ特大の山火事となった。伝えられるところによると、死者は40名を超え、焼失した建物は、民家、ホテル、ワイナリーなど一説では5700棟にも及んでいるという。このように今年のアメリカは、異次元ともいうべき“火責め、水攻め”を経験した。

2)トランプ大統領の登場

今年の政治上の大きな出来事はやはりトランプ大統領の登場であろう。トランプ氏は環境政策だけでなく、色々な分野においても様々に物議を醸しているが、こと環境政策について言えば、6月1日にパリ協定を離脱する旨、正式に宣言したことである。彼が離脱を宣言しても、パリ協定上、2020年11月まではアメリカは法的には抜ける訳にはいかないが、大統領がパリ協定を離脱する宣言を出した以上、大統領の権限が及ぶ範囲内では気候変動政策に極めてネガティブな影響を与えることは考えられる。現に、アメリカ政府内で直接気候変動問題に対応する環境保護庁の長官には、札付きの反環境対策主義者を任命しているし、またオバマ政権時代に約束した気候ファンドへの拠出を拒否している。このように、トランプ政権としては気候変動政策に極めてネガティブな姿勢を維持しているが、アメリカ社会全体はそうでない。実際、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ハワイ州などの知事はトランプの政策に明確に反対、ニューヨーク市などの多数の自治体も同様である。

さらに注目すべきは、アメリカの多くの先進企業はトランプの政策に明確に反旗を翻し、“We are still in(我々は脱けていない)”運動に参加している。このように気候変動政策分野で、トランプ政権の悪影響は今のところ明白だが、だからといって異常気象が吹き荒れるアメリカ社会全体がそうなっていないのはアメリカらしい動きだ。

3)揺らぐ民主政治

トランプ氏の言動があまりに突出しているので、それにばかり目が行くが、よく見ると多くの国で民主政治の基盤が崩れるようなことがひたひたと進んでいる。目につくところだけでも、中国の習近平氏は、人権侵害、言論封殺などを始め、無制限の権力政治に行きかねない。ロシアのプーチン氏もまた言論の自由を脅かしている。イギリス、フランスでも首脳はもとより政治体制の弱体化は目に見え、その反面、ポピュリズムが力をつけている。先ごろのドイツの総選挙でも、あからさまに人種差別をする政党が大躍進した。トルコでもエルドアン氏が強権的な大統領として登場している。その一方、政治家を選ぶ国民の側でも政治に対する無関心、無力感が進んでいる故か、投票行動などの政治参加は低調傾向にある。

このように見ると、第二次世界大戦後70年を経て、民主主義の弱体化とそれに引き換えて全体主義的な傾向が多くの国で強まっている。そのような政体を選び取っているのは、まさにそれぞれの国民であることを考えるとこの根は深く広い。この流れは今年に始まったことではないが、昨今、それが特に目立つようになったと私には思える。環境の保全は、健全な民主政治抜きには考えられないので、今後とも注視していきたい。