2018年2月号会報 巻頭言「風」より

他人事ではない気候変動対策

加藤 三郎


1.凶暴化する異常気象

昨年12月号の本欄で、2017年の特筆すべき事項として、異次元とも形容すべき異常気象を挙げた。今年に入ってまだ1か月余りだが、その傾向は世界各地でますます顕在化し、凶暴性を帯びてきたと見ている。

いくつか例を挙げれば、今年に入ってフランスのセーヌ川流域に大雨が降り、川の水位が異常に高くなり、パリでも洪水騒ぎが出ている。伝えられるところでは、ルーブル美術館の所蔵品も難を逃れるため、一部階上に移動させたほどだという。異常気象は北半球だけでなく、南半球でも起きている。例えばオーストラリアでは猛暑、南アフリカでは百年に一度とも言われる干ばつにより水道機能が止まったり野生生物に甚大な影響が出ている。

こうした異常現象は今後ますます深刻化し、より深刻な被害が頻発することが懸念される。洪水や山火事、竜巻などによる直接の被害だけでなく、交通機関が乱れ観光産業などにも大きな影響が出る。加えて、食料生産や水資源の確保が不安定になる。わずかな気候の乱れによっても、市民生活に影響が出るのは、昨今の日本の野菜の高騰などを見ただけでも容易に想像がつく。

こうした影響は、人間生活だけでなく、生態系全体を撹乱し中長期的には人間生活の基盤を著しく不安定化させることが十分に予想される。最近の水産物の生育状況や漁獲量の激変も、単に乱獲だけでなく生態系の撹乱が生み出した一つの経済現象と見るべきだろう。

さらに気候の不安定化は生活そのものの不安定化に繋がり紛争に発展し得る。現に、中東やアフリカでの内戦、紛争などは、宗教や軍事的な衝突だけが要因ではなく、食料生産の不安定さなどが内戦やテロに発展し、最終的には環境(気候)難民となって逃げ惑う悲劇を生み出している。気候異変が続けば、こうした事態が地球上の様々な地域で発生しかねない。今、環境難民は2000万人前後と考えられているようだが、恐らく億人単位に上るのもそう遠くないと、私は心配している。

2.なぜ抜本的な対応ができないのか?

昨年12月号で『これがすべてを変える』という本の紹介をした。気候問題の専門家ではないが、ジャーナリストとして人間社会の様々な動きを見てきた著者は、これほど深刻な気候変動問題に対し的確な対応がとられていない原因を解明するためにあの本を書いた。

私は、三つほど理由があると思う。一つは、気候変動問題の本質に迫る力が社会全体で弱く危機感が乏しいことだ。特に日本では、気候異変により甚大な被害が発生すると言われても自分事としてとらえられず、切迫感も持てない。従って対応の必要性を感じられず、現に先進国の中では最も遅れている。

二つ目は、気候変動という現象が持つ一種の曖昧さである。強い台風も大雨も山火事も、昔から、いつの時代でもある現象であり、何も騒ぐことはないではないか、という冷めた思いが普通の人々にはあるように思う。被害者自身も、昔からある天災のひとつに不幸にして巻き込まれたのであって、人間が引き起こした気候変動の犠牲になったという認識は薄いのではなかろうか。そのため、既にかなりの被害が発生していても損害賠償責任を問う訴訟も少なく、当局者からその根源に迫るような対策も出て来ていない。

三つ目は、これが最も重要な理由だと考えるが、私たちの経済基盤そのものが化石燃料に依存し、それが豊かで便利・快適な生活をもたらしているため、科学者や専門家が「被害を最小限にするため一刻も早く化石燃料を捨て脱炭素社会に転換すべき」と指摘しても、生活の根が化石燃料に支えられている以上、本気になってそれを変えようとする力が働かないのではないか。この理由は最も根源的なため、これに対処するには本気になって化石燃料に依存しないグリーン経済を築くしかないが、そのためには膨大な作業が必要となる。

3.当面、何をすべきか

以上、深刻かつ回避が難しい気候変動問題に対し、当面、私たちに何ができ、何をすべきだろうか。一つには、気候変動問題を自分事として捉え、自分の生活に絡めて、将来どんな被害や危機が訪れる可能性があるかを具体的に想像すべきだろう。イメージするための材料には事欠かない。科学者も我々NPOも、近未来に起こりうることやリスクは繰り返し伝えている。それを自分事として受け止め、想像力を働かせてイメージできるかである。

二点目は、危機がイメージできたら、それを、家族や友人、職場や地域など、どんな場でも人々の身に起こり得る危険として伝えるべきだ。(以前、タクシーの年配の運転手が、気候変動の怖さを盛んに私たちに語り、その危機を具体的に話してくれたのには感心。)

三つ目は政治家に対策を働きかけることだろう。地方議員でも国会議員でも首長でもいい。政治に携わっている人に、気候変動対策にもっと真剣に取り組み、数ある政策事項の中でも優先的に取り組むべき、と働きかけをしてほしい。一般人が政治家に面談する機会は少ないが、手紙やメールで働きかける手もある。政治家は選挙民からのアプローチに対し、かなり敏感に対応してくれるはずなので、無駄と思わず実践してほしいものだ。

最後に、NPOなどの活動に参加し、気候変動に関する最新の情報や海外の優れた対策などの情報も得ながら、当事者意識をもって自ら何かの役割を担う、何らかの責任を果たすという覚悟が必要だと思う。そうでなければ本当に大変なことになる、と最近しきりに思う。