2018年5月号会報 巻頭言「風」より

市民社会の出番なのに…

藤村 コノヱ


市民社会の出番なのに…

1998年3月にNPO法(特定非営利活動促進 法)が成立して20年になる。その翌年に情報 公開法、地方分権一括法も成立、市民活動の 場が広がり、NPO認証数も当初の23団体から、 2017年2月末には51,839団体(うち環境NPOは 約14,000)を数えるほどになり今やNPOを知 らない人はいない程である。

しかし数は増えたが、日本の市民社会の一 員として認知されているか?ここでは環境NPO の現状について考えてみたい。

十数年前スウェーデンのNGOを訪問した際、 同行のスウェーデン人から「スウェーデンは 国も国民もNGOを支援しているけれど、日本 は国も国民も支援しないね」と言われたこと がある。当時は本当にそんな状況だったが、 いずれ日本もNPOが活躍する社会になると明 るい希望を抱いていた(欧米ではNPOよりNGO の言い方が一般的)。

2009年民主党に政権交代した折には、「新し い公共」としてNPOも脚光を浴び、重要政策 として政府予算も増額。2011年6月には寄付 税制およびNPO法が改正され、NPOへの寄付が 増え活動が広がることへの期待も膨らんだ。

しかしその後、野田政権に代わると「新し い公共」の取組は後退、2012年安倍政権にな って以降は、超党派のNPO議連は継続されて いるが、NPOや市民社会への関心は政治の世 界ではあまり感じられない。

一方霞が関や自治体では、私も含め様々な 審議会等委員にNPOが加わるようになった。 しかし本質的な政策形成段階でNPOの意見が 反映されることは少なく、“ご意見拝聴”と いう形式的参加の域を脱していないと感じる。

これに対して欧州では、NGOは健全な政策 形成と実施に不可欠な存在という認識が強い。 加藤共同代表が官僚時代に国際交渉の場で、 デンマークの国際交渉団の中にNGOがいるこ とに気づき、「どうしてNGOが加わっているの か?」と尋ねた折、「政府と意見は異なるが、 彼らも善良なデンマーク人。だから政府外交 団の一員として加えるのは当然」との回答だ ったそうで、市民社会とはこういうことかと 感心したという。

そうした認識は今も欧州では根付いてい る。例えば、EUの環境・気候行動プログラム (LIFE)では、NGOの政策参画機能を担保す るために運営助成と個別の事業助成の二つが ある。LIFEプログラムは1997年から実施され、 2014-2020年の予算総額は34億ユーロ(約 4,500億円)だという。またドイツでも、政策 形成過程に環境利益を適切に反映するには、 NGOの意見集約とそれを可能にする制度的枠 組みが必要との考え方に立ち、連邦政府が制 度的助成と呼ばれる運営助成を行っている。

具体的には、一定の要件を充たす承認環境 団体に特別の参加権や団体訴権を付与するな ど多様な仕組みが設けられているという(大 久保規子大阪大学教授の調査より)。

残念ながら日本では、そうした認識には至 っていない。原子力関連のNPOから、「認定申 請の際、所管する役所内で“政権は原子力推 進なのに反対するNPOを認定していいのか” という話が出た」という話を聞いた。「政権 の意向で民間公益団体(NPO)を差別するの か?」と反論して無事認定は受けられたそう だが、政権や政府の意向に沿う活動だけが公 益という考え方は、本来の市民社会の精神と は異なる、大いなる間違いである。環境省で も、現職幹部にグリーン連合として政策提言 で連携したい旨申し入れた折、活動なら連携 したが、政策面では‥と渋い顔をされたこと もある。それでも昨年から年二回環境省と意 見交換会を行い政策面の協議も働きかけてい るが、こうした動きを好ましく思わない官僚 もいるようだ。

そうした認識のためか、日本最大の公的助 成機関である地球環境基金の助成総額は年間 約6億円。しかも原則として個別の事業助成 で特に普及啓発的事業に使われ、運営費には 使えないため、組織の持続性の担保は厳しい。

要は、日本ではNPOは行政の下請け的存在 で、NPOが健全な政策形成と実施に不可欠と いう認識は薄く、むしろ国の政策に反対する 「うるさい存在」、だから支援もそこそこで いいというのが現状ではなかろうか。(4月19 日付朝日新聞によると、自動車業界のEV化推 進のため、次世代電池を開発する官民組織に 政府が16億円拠出する由。本来自己資金で開 発すべき企業の技術開発、しかも業界自体数 兆円もの利益を出しているのに、だ。)

一方市民は、と言えば、気候変動など環境 問題はますます深刻化しているのに環境への 関心は低下傾向にある。寄付だけを見れば、 (環境を含む)全分野のNPOへの個人寄付推計 総額は2016年7,756億円で2009年より2,300億 円ほど増加しているが、個人会員推計総額は 2009年より減少。一時的な寄付は増えたが、 継続的な支援となる会費収入は減少している ことがわかる。(『寄付白書2017』日本ファン ドレイジング協会より)

国の将来より身内を重視し責任を取らない 政治家、公文書の隠蔽や改ざんのみならず偽 証も厭わない政府高官、日本のリーダーと言 われる人たちの質の低下は甚だしい。一方NPO の中には専門性を磨き行政と対等に議論でき る組織も増えている。そうした中で、(勿論立 派な官僚もいるが)政治家や官僚だけに任せ ておけばいいという時代は終わった。

特に「環境」についてはNPOや市民との連 携なくして守れるものではない。勿論、NPO は全ての市民を代表するものではないが、人 類社会の持続性と全ての人々の幸福を願い活 動する善良な市民の集合体だと自負している。 そうしたNPOの存在意義を認識し本気で支援 することが、日本を持続可能な市民社会へと つなげる道だと思う。