2018年7月号会報 巻頭言「風」より

環境・エネルギー政策を一部の人で決める時代は終わりに!

藤村 コノヱ


もう十年以上前になるが、当時の原子力委 員会の会合で『原発を国民的議論にするために ~温暖化とコミュニケーションの視点から~』 と題して意見を述べたことがある。福島事故 以前だったが、当時から、私の意識の中には、 「エネルギーは私たちの暮らしと直結するの に、なぜ、国民の知らないところで全てが決 められるのだろう?」という疑問が常にあっ た。それで当日は、“エネルギー需要は増え る”“まずは原発で”を前提とした議論ばか りで本質的な議論が妨げられている、情報が 偏っている、エネルギー教育が不十分、など を指摘した上で、エネルギー需要を抑制しそ れを何で賄うかの議論が必要、公平・公正で わかりやすい情報を伝え国民的議論や地道な エネルギー教育が必要、というようなことを 訴えた。最後に、「聞き置いて頂かなくてい いので、是非実行してほしい」旨、若干皮肉 を込めて発言したことも覚えている。

そして3.11が起きた。これを受け当時の民 主党野田内閣は2012年の夏、2030年の原発依 存度についての「国民的議論」として各地で 公聴会やパブリックコメントを実施した。こ のパブリックコメントでは約8万9千件のうち 87%が2030年原発ゼロを選択。そして野田内 閣は公聴会やメディアの世論調査結果なども 参考に、30年代原発ゼロの方針を固めた。し かしその後安倍政権に交代してからは、“や らせ”の原発公聴会などは開催されているも のの実効性ある、市民参加はほとんど行われ ておらず、パブリックコメントの数もかなり 減少している。

そして、先ごろエネルギー基本計画の見直 し案が経産省から示されたが、それを見ても、 世の中の流れを察して「再生可能エネルギー」 の評価を多少高めに出しているものの、その決 定プロセスはほとんど以前と変わらず、一部利 害関係者の間で決められていったようだ。

そもそも、この議論の冒頭に世耕経済産業 大臣は前回の改正から3年しか経過していな いことを理由に、骨格を変える段階ではない ことを宣言した。このこと自体が、この3年 の間にパリ協定が採択され脱炭素に向け世界 中が舵を切ったことを全く無視する発言であ り、日々世界の競争に晒されている産業界を 相手にする大臣の発言とは到底思えないもの である。また、今回の基本計画の見直しは「総 合資源エネルギー調査会基本政策分科会」で 議論することとし、パリ協定を踏まえた2050 年80%削減のための中長期的議論は、別途 「エネルギー情勢懇談会」を設置して行うこ ととした。気候変動問題とエネルギー問題は 裏表の関係にあり、「気候変動問題の解決に 向け、どんなエネルギーをどの程度使うか」 の議論が大切であるにもかかわらず、である。 ここにも、エネルギーの基本政策に関係者以 外、例え他の省庁でも口出しするな、という 従来からの経産省の姿勢が垣間見える。

また経産省の分科会と懇談会のメンバーを 見ても、経済界、産業界寄り学識者が並び、 気候変動の立場から意見を言う委員は数少な い。そのためか、分科会では原発回帰に向か う意見が多数出され、懇談会では長期的には 脱炭素化やエネルギー構造転換への認識は共 有されたものの、技術革新が不可欠との従来 と変わらぬ方向付けがなされたという(グリ ーン・ウォッチ2018より)。そして3月末に事 務局が示した「50年エネルギーシナリオ論点」 では、蓄電、水素、炭素固定、先端原子力、 デジタル制御等のメニューが示されている。 私自身、こうした技術の中には??と感じる ものもあるが技術革新自体に反対するわけで はない。しかし、脱炭素社会は技術の革新や 一部の政策の手直しだけで達成できるもので は決してない。気候変動時代を乗り越え希望 の持てる人類社会を築く上で何が最も重要か といった価値の転換、成長至上の現在の社会 経済システムの転換、教育の立て直しなど、 あらゆる施策を講じなければ達成できないこ とは明らかだが、そうした視点には殆ど触れ られていない。(エネルギー基本計画なので 仕方ない面もあるが、せめて前文などで触れ てほしい。)

また基本計画案は5月19日から6月17日まで の30日間、パブリックコメントにかけられた。 しかし百ページ以上にわたる資料を読み込ま なければならず、提出した意見がどのように 扱われるか不明なパブリックコメントに、一 般市民が意見を寄せることは極めて難しい。 何より、既に政策としてある程度固まってお り、この段階で本質的な異論反論が反映され るとは到底思えない。「結論ありき」で、「意 見を聞いた」という証拠固めのための道具に なっている点も従来と変わらず、行政運営の 公平さの確保と透明性の向上を図るとしたパ ブリックコメント制度の目的とは程遠いもの になっている。

基本計画案の第4節では「国民各層とのコ ミュニケーションの充実」として、わかりや すい広報、エネルギー教育の推進などと併せ て、政策立案プロセスの透明化と双方向的な コミュニケーションの充実が明記されている。 しかし、前述のように、内容もプロセスも従 来とほとんど変わっておらず、メンバーの中 立・公平性、国民的議論の展開、さらにエネ ルギー政策を気候変動政策として扱う仕組み には触れられていない。こうしたことなども 踏まえ、当会では、先月号でも紹介した緊急 提言「エネルギー政策の歪みを正そう」を出 した。そして、①エネルギー政策の形成過程 をよりオープンにし、次世代の視点を交えて 決定できる仕組みを作ること。そのために今 回の改訂案を全国各地での公聴会にかけ、国 民の意見を幅広く聞くこと。②政府内に「エ ネルギー・環境省」を設置する方向で検討を 開始すること。③与野党とも最重要な政策課 題として真剣に取り組むことを提案した。


つい先日、立憲民主党つながる本部が「気 候変動・原発・エネルギー政策に関する懇談 会」を開催、この分野で活動するNPOと共に、 私もNPO・市民社会としての総括意見を述べ る立場でいくつかの意見を述べた。特に、環 境・エネルギーに関する政策形成に市民の意 見が反映されにくい現状、この分野での政策 形成過程への市民・NPOの参加の重要性を訴 えたが、議員の反応はとても良く、継続して こうした場を設けることになった。

今後も様々な環境・エネルギー政策が作ら れていくが、環境・エネルギーは私たち市民 に直結する課題であることを前面に掲げ、一 部利害関係者だけで議論し決める時代は終わ りにしなければいけないことを訴えていきた い。(7月3日エネルギー基本計画は閣議決定 されたが、内容は(案)とほとんど変らず民意 無視のものである。