2018年11月号会報 巻頭言「風」より

「環境文明21のこれから」

藤村 コノヱ


先月号では、加藤顧問が25年の思いなどを述べましたが、今回は少し違う視点から当会の活動を振り返り、またこれからの活動についての“思い”を述べたいと思います。

会を設立して間もない頃、欧米のNGOを幾つか訪問。規模も桁違いに大きく歴史も長い欧米のNGOの話に羨ましさを感じると同時に、調査研究・普及・資金調達・政策提言など様々な部署に分かれ専門性をもって機能的に働くスタッフの姿に刺激も受けました。そして、社会への影響力を持つこんな団体に早くなりたいと思ったものです。環境と文明ブックレット『これからの環境NGO』にはそんな思いを綴りましたが、今読み返してみると、まだまだ道半ばだなと感じています。

まず思うことは、NPO・NGOを取り巻く環境は依然として厳しく、日本の市民社会の発展は欧米に比べて相変わらず遅れているということです。2018年5月号はじめ幾度も触れてきたことですが、1998年にNPO法が施行。それにより、NPOの位置づけは明確になりその存在も知られるようになり、寄付に対する税控除などの仕組みも導入されました。しかし二十数年経っても、当会を含め日本の多くの環境NPOは相変わらず規模も小さく政治や社会への影響力も、以前よりは増したもののまだ不十分です。そうした中でも当会にご寄付下さる方は沢山いらっしゃいますが、それでも寄付文化が根付いていない日本では、直接的見返りの少ない環境NPOへの寄付は多くはありません。そんなことも影響してか、当時描いた欧米のような組織力と影響力を持ったNPOには当会もいまだなり得ていません。

一方訪問では、外部環境の整備だけでなく、NPO自らが成長することの重要性も学びました。そこで帰国後、明確なビジョンと活動内 容を示すこと、自立した精神と柔軟なアプローチ方法、さらに持続的な財政基盤の確保、政策形成能力やコミュニケーション能力を高めることを目標に掲げました。これについては、前月号で加藤さんが述べたようにできたこともあればそうでないこともあります。常に歴史の流れと将来を見据えながらも基本的に大切にすべき価値や方向性を掲げ続けたこと、環境教育推進法の実現や憲法への環境条項導入提案など、個別事項ではなくすべての環境政策に通じる政策提言を行ってきたことは誇りです。また中小企業の環境力に注目し て支援してきたことも当会ならではの活動だと思っています。その反面、財政基盤の確保、ひいては専門性あるスタッフの確保などはず っと課題であり、これをどう解決していくかがこれから先の当会の持続性に大きく影響すると考えています。併せて、若者へのアプローチ、そして加藤さん、さらに私に続く後継者の育成も、大きな課題です。


 

このように、政府の環境政策も短期的経済優先に押されてなかなか進まず、環境や政治や市民社会に対する市民意識も停滞する中で、 また当会としても様々な課題も抱える中で、今後の環境文明21はどんなことをやるべきか。10月号会報でも様々なアイデアを頂きました が、環境を主軸に据えた持続可能な文明社会を目指すという方向性や羅針盤としての役割はこれからも果たしていくつもりですし、少人数でも、調査研究、政策提言、普及啓発、交流といった活動は続けたいと考えています。ただし、対象や手法は変えていく必要があると感じており、すでに、いくつかの取組に着手しているところです。

例えば、普及啓発では、10月号会報で末次さんや大西さんから、大学へのアプローチという提案がありましたが、若い人たちへのアプローチの強化は必須だと感じています。実際、子どもへの環境教育は教材も豊富ですが、高校生や社会に出ていく直前の大学生への環境教育はあまり見られません。そこで、全く違う分野の仲間と連携して、「Eco DOGA甲子園」という高校生向けの活動プログラムを企画中です。高校生から環境動画メッセージを募集しSNSなどを通じて広めていこうというものです(概要は25周年イベントで)。また大学では環境に特化した授業は減少しているようですが、全ての教科で持続性やSDGsにも範囲を広げた環境教育の重要性は増しており、特に学生自らが考え判断し行動する、あるいは他者との合意形成能力を促すアクティブラーニングのような手法は不可欠です。そこでそうした授業に供するようなプログラム開発も検討しているところです。幸い伝えるべき中身とアクティブラーニングの手法の蓄積はあるので、それらを活用した新たな展開を、と考えています。

一方従来からの政策提言活動も、もう少し頻繁に行いたいと考えています。ただ、それには会員の協力も不可欠で、理事や正会員を中心に政策提言グループのようなものを設置して定期的に提言できないものかと考えています。また「高級井戸端会議」との揶揄もあるようですが、こうした議論も再開したいと考えています。たとえ世の中の人から「青臭い」と言われても、環境問題の根底にある価値観や文明論にこだわりつつ、それを身近なテーマから議論するような場を作りたいのです。例えば、「脱炭素時代の環境倫理~生きる知恵」というようなテーマもやってみたいことです。ただこれについても、事務局主導ではなく、政策提言活動同様、会員自らが主体的に動くような仕組みができないものかと考えています。そしてこうした場での本質的な議論の成果を若者の教育にもつなげていけたら、と考えているところです。

あっという間の25年でしたが、気候変動など環境の破壊と人間性の破壊がますます進行する中で、環境文明21の役割と存在価値はまだあると感じています。25周年シンポジウムでは、少ない資源で上記の様々なことを成し遂げるための知恵についても意見交換できればと願っています。多くの方のご参加をお待ちしています。