2019年9月号会報 巻頭言「風」より

「若者と共に」しか道はない?!

藤村 コノヱ


先月号で加藤顧問も述べたように、今回の参院選は日本人の政治不信を如実に現す低い投票率でした。安倍自民党総裁は「信任を得た」旨の発言をしましたが、自民党の全有権者に占める得票率割合を示す絶対得票率はわずか18.9%。2割に満たない支持で5割を超える議席を獲得したことになります。あるTV番組で「民主主義のルールは満たしているが、民主主義の理念を満たしているかは疑問」との発言を耳にしましたが、海外も含め、形は違えど、日本の民主主義も危機的状況にあることを実感します。

そうした中、れいわ新選組の山本代表の言動が注目を集めました。彼の言動には賛否両論ありますが、少なくとも、「死にたくなる社会から生きていたくなる社会へ」という演説は、これまでの政治家とは異なり説得力があったし、一定の支持を得て2議席を獲得したことは、少なくとも政治不信が募る人々にはわずかな期待をもたらしたように思います。

ところで、私が共同代表を務めるグリーン連合では、毎年2回程環境省との意見交換会を開催しており、今年も7月24日午後に、「環境NPOの役割と公的支援策の拡充」をテーマに開催しました。これまでは、気候変動問題、環境教育など個別テーマで実施していましたが、4回目となる今回は全てのNPOに係る根本的な課題について意見交換することにしました。そのため、環境省側には事前に、環境NPO/NGOに期待する役割、特に環境政策形成過程での役割や国際的な役割について、また、日本の環境NPOに対する公的支援策が欧米と比較して充実していない要因について等、いくつかの質問を届けておきました。

当日は、まず、大久保規子大阪大学教授から、「EUにおける環境団体の役割とその支援策」について話題提供がありました。欧州委員会では「環境と参加」決議9項(1986年)において、環境政策決定への環境団体の参加強化、環境団体の代表との協議など、政策形成過程への環境団体の参加が明記されています。また日本では環境NPOに対する殆どの助成金は、ある特定の事業に対するもの(事業助成)で、人件費などは多くの場合認められていません。しかしEUでは、NGOを市民社会の重要な一員として位置づけ、事業助成の他に、運営(制度的)助成があり、オフィスの賃料、職員の人件費、メンバーの会合旅費、機器購入費などが認められています。さらに、“意見調整というNGOの公的機能”に着目して、NGOの政策形成過程への参加のための助成や、国際会議への公式参加も定着しています。このため、NGOも安心して、恒常的に、政策提言活動が行えるわけです。環境文明21も様々な調査研究に基づく政策提言活動を行っていますが、現状は、皆さんの会費や貴重なご寄付で、家賃も人件費も全て賄っています。もしEUのような公的支援が得られれば、安心して、もっとたくさんの活動ができるのに、といつも思っています。この思いは他のNPOも同様です。

幸い意見交換会では、環境省側からも個人的な意見として、でしたが、「ネットワークは大切であり、生活者の目線を吸収して連携して政策に活かしたい」「NPOの意見も大切だが意見集約や合意形成をどうするかは課題」など様々な意見が出ました。しかし、EUとの比較には触れられず、私たちの質問に対する真正面からの回答も殆どなく、政策形成過程へのNPOの参加にはいまだ懐疑的なようでした。よりよい環境政策を進めていくには、ボランティアとは異なる実績を積んできた環境NPOの専門性と市民感覚を環境政策に活かし、日本にも真の市民社会を築いていくことが大切だと思うのですが、そうした認識にはまだ至っていないようで、その点は残念でした。

そんな中、8月8日付毎日新聞で、省庁の業務見直しのために内閣官房に推進チームを設置し、必要性の乏しくなった既存業務を廃止・縮減した各府省幹部を積極的に昇進させる人事ルール策定を目指す旨が報じられました。今でさえ幹部の人事権が官邸に握られている官僚に更なる締め付けが加われば、経済政策に押されてばかりの環境政策は益々後退し、NPOと連携して思い切った環境政策を進めていこうなどという発想も失せてしまうのではないかと心配です。

今年も気候変動に伴う豪雨や熱波・干ばつなどが国内外で頻発し、市民生活はもとより経済活動にも深刻な影響が出ています。IPCCは先月、温暖化により食糧供給がますます不安定になり、2050年には穀物価格が23%も高騰する可能性があるとの警告を発しました。自給率40%を下回る日本は、本当に危機的状況に陥ることは確実です。

こうした状況を無視して環境政策が縮減されることはないと思いますが、今回の参院選でも環境政策の強化を訴える党は殆どありませんでしたし、この猛暑の中でも、オリンピックでの猛暑対策は話題になりますが、本格的な気候変動対策を早急に、という声は聞こえてきません。政治への不信と諦めを深める国民、短期的視点で意のままに政治を動かそうとする権力者、使命より自己保身や忖度に走りがちな官僚。こんな状況の中で、誰が、次世代に健全な環境を残していけるのか?誰がこの国の将来を築き上げていくのか?

そんな不安が募る中、「今自分たちが行動しなければ大変なことになる!」と、スウェーデンの16歳の環境活動家、グレタさんに触発され、9月20日のグローバル気候マーチ(世界統一行動)に向け、立ち上がった高校生・大学生との出会いが私を勇気づけてくれています。結果的に現在の不安定な社会を築いてしまった私たち大人が「懺悔」の気持ちで行動することと併せて、こうした若者を全力でサポートすることも、私たち大人にできること。一人一人が自らの責任を自覚し、持てる力を発揮しつつ、連携して行動する以外に、生き残りの道はなさそうです。