2021年4月号会報 巻頭言「風」より

環境NPOは公益の担い手~アンケートから見えてきた環境団体の現状と課題

藤村 コノヱ


30年近くも前だが、地球サミット(1992年)で採択されたアジェンダ21では、NPOなどの役割強化が明記され、その後、2015年に国連総会で採択されたSDGsでも市民社会組織の役割が明記されるなど、国際的にはNPO/NGOなど非政府組織は当たり前の存在となり、その役割に大きな期待も寄せられている。日本でも以前は、環境保全活動の活性化に向けた議論が環境省内で展開され(2000年頃)、当会が先導して議員立法で成立した「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(2003年7月交付)でもその重要性は明記されている。

しかし今回、国立環境研究所とグリーン連合が連携して行ったアンケート調査から、日本の環境NPO/NGOの実態や課題は20-30年前と殆ど変わっていないことが明らかになった。調査は、実態・課題の把握と併せて将来展望に示唆を与える基本情報の取得を目的に、インターネット方式で2020年10月中旬から11月初旬にかけて実施、依頼数1,743件に対して442団体から回答が得られた。

【結果の概要】

1)組織について

スタッフ数1名~5名の団体が47%、会員数100名未満の団体が67%と小規模団体が多く、年間予算規模300万円以上~1000万円未満が19%で全体的には30万円未満から1億円未満まで幅広く分布していた。またNPO法成立から20余年経過しているが、回答数の約26%が任意団体のままでNPO法人格を持たない団体が多く、収益性が殆どない中で地域の実践活動を行うボランティア的団体が多いことがわかった。また活動テーマとしては、環境教育やまちづくり・地域活性化が多いこと、活動形態は普及啓発や実践活動が多く、専門性を要する調査研究や政策提言を主な活動とする団体が少ないこともわかった。さらに、団体代表者の年齢は50歳以上が9割を超え代表者の高齢化も浮き彫りになった。

2)課題と解決のために必要なことについて

多くの団体が、人材育成・確保の困難さ、後継者問題、財政基盤の脆弱さを、短期にも中長期的にも大きな課題として挙げていた。また課題解決には、財政基盤の強化が最も重要と考えている団体が多かったが、財政基盤が安定すれば、有能な人材の確保も継続的雇用も可能になり、活動の活性化につながると考えられているためだろう。

一方、NPO/NGO活動発展のために、NPO/NGO側に必要なことは、財政基盤の強化(47%)と後継者の確保(28%)が大きな割合を占めた。また発展のために社会全体に必要なことは、「人々が環境問題を自分事として考えられるようになること」(59%)と「こうした活動を支える制度や仕組み(税制や予算など含む)の双方が必要」(56%)と考えている団体が多かった。

3)環境NPO/NGOの集結の必要性について

77%が「必要」としていたが、実際にグリーン連合を知っているのはわずか17%だった。

4)国や自治体の環境政策との関わりについて

環境政策に参加した経験について、経験がある団体は55%で、45%の団体は経験がないと回答した。また経験ある団体の多くが市町村や都道府県レベルでの参加であり、参加により団体のスキルアップやネットワーク強化になったと8割の団体が回答した。

一方、参加の有無にかかわらず74%が現行の環境政策の変更や新たな環境政策や事業の必要性を感じており、現状に満足していない状況が伺えた。

5)新型コロナウイルス感染拡大の影響について

困ったこととして、イベントや会議ができなくなった、活動地やフィールドに行けなくなった、それらによる収入減少などが多く挙げられていた。

一方、オンラインでの会議やセミナーなど新たな活動が始められていたが、情報発信が強化された、集客増加、収入増加などポジティブな変化があったとする回答は1割にも満たなかった。またこの経験を通じて、地域・社会や経済のあり方などを変える必要があるとの回答が8割を超え、コロナ禍を契機に、改めて現在の暮らしや経済・社会のあり方を深く考える機会になったようだ。


以上アンケート結果の概要で、私自身日々活動の中で感じていることがデータとしても示されたように思う。一方で、課題として挙げられた点の殆どが、2002(平成14)年に「環境保全活動の活性化方策について」として中央環境審議会中間答申で掲げられた課題と類似しており、当会の設立(1993年)から現在まで、NPO/NGOを取り巻く課題は一向に改善されていない現実に落胆したのも事実だ。

背景には、欧米とは異なる日本の特異な状況があると思うが、その一つとして、日本の環境NPO/NGOは公益を担う組織としていまだに認知されていないことが挙げられる。

以前にも書いたが、環境先進地域と言われるEUでは、環境団体は経済団体・労働団体と並び、環境政策の鍵を握るパートナーとして位置づけられ、「環境団体は環境利益の代表であり、行政では把握しきれない情報の収集、早期の課題発見、アドボカシー活動など公益の担い手としての役割を有する」という考え方が社会にしっかり根付いている。そしてこの考え方は欧州評議会での決議やオーフス条約などで制度的に保障され、それに基づき財政面でも様々な公的支援が行われる仕組みが整っている。例えば、EUでは小さな組織がネットワークを組み、連合組織を形成している事例が多く見られるが、個々の団体の日常的活動に加えて、連合組織として多様な団体の意見を調整し事務局機能を担うのは人的にも財政的にも容易ではない。そこで、連合組織の政策参画機能を担保するため、個々の活動助成の他に、運営助成または制度的助成と呼ばれる支援が行われ、運営助成では、事務所賃料・管理費、 スタッフ人件費、意見調整会議の旅費等を賄うことができ、連合組織の活動基盤が確保されている。

これらを可能にする背景には、民主主義の歴史の違いや、教育課程での市民社会についての学びにより、市民が環境団体の役割や意義を理解し支援する文化が根付いていることがあるように思う。

これに対して日本では、「環境NPO/NGOは環境保全に関する活動を自発的に実施する人の集まり」という位置づけで、NPO法でも団体の構成員に対して収益分配を目的としない団体とされている。つまり環境NPO/NGOはあくまで自発的に活動する個人の集まりであり、経済団体や労働団体とは別格で、環境政策のカギを握るパートナーとしての位置づけはない。最近は私を含め数名のNPOが中央環境審議会などの委員として意見を述べる機会も増え、グリーン連合と環境省の意見交換会も定期的に開催されるようになった。しかし、“環境政策の策定や実施のカギを握るパートナー”として位置づけられていると感じたことは殆どない。

また財政面での公的支援は、国内に数多ある団体に対して、総額で年間6-7億円程度の地球環境基金だけで、グリーン連合という連合組織に対しても、EUのような助成は皆無で、ほぼ手弁当で活動している。

一方、明確な位置づけや公的支援の有無だけでなく、意識上も、EUでは環境団体は環境利益の代表であり公益の担い手と考えられているのに対して、日本では、行政は環境NPO/NGOを補助的・下請け的な立場ととらえ、市民も公益の担い手はもっぱら行政という「お上」に丸投げ意識が根強く、NPO/NGOを公益の担い手とは考えていないようだ。そしてNPO/NGO側にも、地域でボランティアとして活動することで満足という団体が多いのも事実だ。勿論こうした活動は、特に地域では必須だが、現場での実行部隊としての活動だけでは、次世代や自然界も含めた声なき声を代弁し環境政策に反映させることはできない。また、地域実践活動から見えてくる様々な課題の解決を行政だけに任せても解決は遠のき、非営利組織・市民社会組織としての役割を十分に果たすことはできない。

このように、政府・行政、市民、そしてNPO/NGOの間でも、EUのような、「環境利益の代表であり公益の担い手としての役割を有する」という認識が薄いのが日本の現状である。

今後、気候危機や生態系の崩壊、プラスチックや化学物質問題、原発・エネルギー問題など山積する課題の解決には、政府・行政機関だけでは限界があることは、環境の現状を見れば明らかだが、こうした状況を回避するには、私たち環境NPO/NGOの能力向上と併せて、その役割と位置づけを明確にし、活動を促進させるための政策も重要だと思う。現在、脱炭素化に向けて産業界には莫大の資金が投入されているが、公的役割を果たすNPO/NGOの活動には何の支援もない。こうした実態も踏まえ、今回の調査結果も使いながら、私たちの活動が促進され、EUのように環境利益の代表として認知されるよう働きかけていくことも、当会の仕事の一つだと思っている。

なお、アンケート結果の詳細は環境文明21並びにグリーン連合のWebに掲載しているので、是非ご覧下さい。