2022年1月号会報 巻頭言「風」より

2022年に取り組みたいこと

藤村 コノヱ


新しい年を皆様いかがお過ごしでしょうか。

巷では変異株オミクロンで今年も明けましたが、気候危機への対応も待ったなしの年明けです。新政権はここ数年の政権に比べれば真面目にやっているようですが、こと脱炭素に関しては、以前の菅総理-小泉環境大臣の体制時に比べて危機感は薄らぎ、石炭火力を事実上容認するなど世界の動きに逆行するものも見受けられます。国際的にも科学者の意見も、「この10年が勝負」と叫ばれる中で、間に合うのかという不安は拭えませんが、私たちとしては「やるしかない」ということでしょう。

昨年末に、ドイツの作家ミヒャエル・エンデによる『モモ』(初版1973年)を読みました。ご存じの方も多いと思いますが、モモという風変わりな少女が、時間に追われ人間らしい日々を忘れてしまった現代人に対して、一人ひとりに与えられた「時間」の大切さに気付かせてくれる、不思議な物語です。児童文学ですが、日々効率を追求する現代社会への痛烈な批判といった評価もあり、改めて、「時間どろぼう」に絡めとられていないか?と反省しつつ、自分自身を高め、社会に貢献できる時間の使い方を、と思った次第です。

そんな思いの中で、当会として今年は次のような活動を考えています。一つは、考え行動に向けた「環境教育・学習」の強化です。

昨年末にある大学で「環境教育」と「環境NPO/NGO」について講義する機会がありましたが、講義後の学生の反応を見て、学校における環境教育の現状とNPOに対する認知度の低さを改めて痛感しました。例えば環境教育に関しては、「知識伝達の環境教育や野外活動はやってきたが、それをどう自分の暮らしや社会に活かすかという議論をした記憶はない」「指導者不足で教材はあるが深く教えてもらえない」という意見。環境NPOについては、「あまり知らなかった」「ボランティアと思っていたが、政策提言までするとは知らなかった」などの意見が多数ありました。

環境教育・学習はあくまで手段であり、そこで学んだことを自らの暮らしや社会の中で活かしていくことが肝要です。そのため私は必ず講義の後に討議の時間を設けています。しかし今回の学生の反応から、多くの学校でそうした授業は行われず、時間のかかる議論もなおざりにされているようです。アクティブラーニングという言葉が数年前教育界で大流行りでしたが、一体何だったのでしょう?

一方、「自分で問題について考え、意見を出し合い、活発な議論をする経験を小中高の間にしておけば、人々がより社会活動に参加する意識が高くなると思う」「生徒に考えさせ、常日頃から環境に配慮した行動が必要と思わせる学習を続ければ、国全体が環境問題に向き合う国家になりうる」「もっとNPOに関する授業が必要」など、講義を通じて環境教育やNPO活動の重要性に気づいたという意見も多く、とても勇気づけられました。

当会では企業人への環境研修も行っていますが、「脱炭素という言葉は聞いたことがあるが、具体的に何をすればいいのか?」「情報は末端には届かず、まして議論する場はほとんどない」という意見も多々あり、学校だけでなく、企業や一般社会での環境教育の強化を改めて実感しているところです。

教育に投資する国は発展すると言われますが、現在のような詰込み・知識伝達型の日本の教育では国の衰退は避けられそうもありません。国の脱炭素に向けた計画でも不確実な技術への依存ばかりが強調され、環境教育に関する部分はごくわずかです。昨年末に、環境行動の基礎となる理念や考え方を議論することの重要性を述べましたが、まさに自ら考え議論を伴う環境教育で環境意識を高め環境行動に誘うことが、地味ですが、脱炭素に向けた最も着実な道に思えるのです。

二つ目は、脱炭素社会の基盤となる『倫理~脱炭素時代を生きる覚悟と責任』の普及とそれを踏まえた「憲法に環境原則を」の提案活動を進めることも今年の課題です。

昨年末の全国交流大会で、脱炭素時代に生きる私たちに求められる考え方・倫理を提案しました。脱炭素という困難かつ長期的な課題に挑戦するには、基盤となる理念が必要と考え、約3年にわたり倫理部会で議論したものです(詳細はWeb、または次号で)。

一方岸田政権に代わり、憲法論議が進められようとしていますが、「持続性」や「脱炭素」という新たな時代を踏まえた議論は今のところ見られません。「環境権」は公明党が提案していますが、当会が提案している「環境(持続性)原則」はそれとは異なり、「環境」という章を新設し、(権利と責務)(国の責務と国民の参画)(予防原則)(地域社会の安定)(国際協力)の条項を追加すべきというものです。環境NPOの仲間内でも、「9条と取引される恐れがある」「法律で十分」といった意見もありますが、「環境」をエネルギー・経済政策も含む全ての政策の基盤に置くには環境関連の法律では不十分なことから、基礎となる理念と併せて、新たな文明社会の要となるような提案を続けたいと思っています。

この他、「食」に関する議論も進めたいことです。脱炭素に向けた取組のうち、自給率40%を切る日本では、「食」も大きな課題です。今後異常気象が続けば、食糧輸入も止まり、国内生産だけでは供給が間に合わなくなることは必然で、全ての日本人の生命にかかわる問題だからです。

これら全てが本質的なテーマで直ぐには実現できそうにありません。しかし、一昨年から始めた「ミニセミナー」なども活用し、当会らしい活動を展開していきたいと考えています。今年も引き続きのご支援をお願いします。