2022年8月号会報 巻頭言「風」より

「若者」との対話の場を

杉浦 淳吉


初めて本欄「風」を書かせていただいたのが本年2月号でした。その時は、私が「環境」とどのようにかかわるようになったか、また環境文明21との接点など自己紹介をさせていただきました。その後、初めてミニセミナーへの登壇の機会をいただき、2020年秋から1年弱のドイツ滞在の様子を紹介させていただきました。

今回はその続編としてドイツでの経験をもう少し詳しく書こうかとも思っていたのですが、ドイツの記憶という過去を手繰るよりも、今、そして未来に向けて考えるべきことが起こってきました。それは、この度、本NPO法人の理事にご推薦いただき、今までよりも積極的に本会にかかわらせていただく機会をご提案いただいたことです。藤村代表、加藤所長とは長年にわたりおつき合いがあったのですが、私自身は環境文明21のメインストリームとは少し毛色が異なるポジションにいるのかなと思ったりもしていました。それは先のミニセミナーに登壇する際にも、加藤所長から「いつもとは少し違った」と形容される紹介をいただいたことに象徴されていると思いました。私自身の活動がこの会の趣旨にかかわらないようなことはない、と自覚していますし、そうした紹介をされ、いちいち突っかからなくてもよいことだとも思っています。しかし、それは環境文明21にとっての「主流」がある(かのように映る)からだと思います。

先のミニセミナー以来、藤村代表と情報交換する中で、『環境行動の社会心理学』(広瀬幸雄編著、北大路書房、2008年)という書籍への言及がありました。この本は、私が慶應義塾大学で担当している講義「環境行動論」のテキストにも指定しています。少し前の本なので取り上げられている事例は決して新しくはないのですが、社会心理学から環境問題の解決を目指す発想は決して古くなく、講義では、事例や最新の知見のアップデートに努めています。

環境問題へのアプローチとしての社会心理学的な発想があるにしても、どうやって今抱えている問題を打破していけばよいのでしょうか。藤村さんからは、一度時間をとって、それについて話をしたいといった趣旨の提案がありました。たしかに上述のテキストに書かれている内容に関する話はできるけれども、短時間で何かすぐに解決できる訳でもありません。いっそ私の講義に出ていただき、一緒に問題を考えていただけたらよいのではと思いました。

そんなとき、ふとアイディアが沸きました。藤村さんに私が担当する講義に来ていただいて、そこで藤村さんと私で対談をする、それを学生たちに聴いてもらう。藤村さんと話をする機会にもなり、NPO代表の話は、学生にとって私が話すよりインパクトがあり有益な面もあると思ったのです。幸い、環境文明21の事務局から近い慶應義塾大学の日吉キャンパスで1年生向けの少人数の講義を担当していました。藤村さんからの快諾も得られ、学生には質問など考えておいてもらうことにしました。

講義は、ゲーミング・シミュレーションの手法を用いて社会問題について考えていくという内容のものでした。ゲーミングとは、現実世界を再現した空間をゲームとして設定し、参加者はそこで意思決定を重ねることで現実のモデルを理解し、現実の問題解決につなげていく経験学習です。学生たちは、私がデザインした環境問題をテーマのゲームも含め、いくつかのゲームをプレーヤーとして経験した上で、各自でゲームをデザインするという講義を展開していました。藤村さんにお越しいただいた当日、授業計画上は、デザインしたゲームの実演の予定となっていたので、アイスブレイクとして気候変動問題の学習も意図した「化学反応ゲーム」を実施しました。これは開発途上のゲームなのですが、ゲームデザインのプロセスに参加してもらい、藤村さんと学生たちとのコミュニケーションの一端になればと、実施しました。

藤村さんには、自己紹介、特に現在のポジションに至るまでのご自身のキャリアの話や、どういった思いで今の仕事をされているかといった話をされ、学生らは本当に興味深そうに聴き入っていた様子でした。私にとっても聴いていて堅苦しくない、親しみの湧くお話で、学生からは順に質問やコメントをしてもらいました。

環境行動を広めるためのアプローチとして、環境教育(啓発)と社会の仕組みを変えるというアプローチがあるという講演でのお話は、私が講義で「社会的ジレンマ」、すなわち個々が利益を追求した結果、社会全体として不利益が生じ、個人の不利益という意図せざる結果が生じてしまう状況の解決について講義する時に最初にする話です。特に私の講義内容をお伝えしたり意識してお話をしてもらった訳ではありませんが、お話の一つひとつが、私の教育・研究内容に翻訳でき、同じ関心や志を一つにすることができるものだと感銘を受けました。私は環境行動の普及における説得の効果について長年研究してきましたが、社会の仕組みを変えていくにはコミュニケーションは重要な課題だとの思いを新たにしました。

若者との対話の場は、これで終わりではありません。私は常に若者に語りかける機会があります。そんな時、環境に関わって来られた読者の方々のお力添えをいただき、今回ご紹介したような機会をさらに作っていくことができるのではないだろうか。この会でアクティブに活動されている方々に、それぞれがお持ちの見識をこれから社会を担っていく若者に是非伝えていただきたい、そうした場をつくることこそ、私が本会に貢献できることではないか。そうした気持ちを忘れないように留めて、これから理事としてかかわっていけたらと思いを新たにしているところです。