2023年1月号会報 巻頭言「風」より

みんなでこれまでの議論と内容を広げる1年に!

藤村 コノヱ


新しい年を皆様いかがお過ごしでしょうか。


昨年は、ロシアによるウクライナ侵攻、パキスタンはじめ世界各地での甚大な気象災害、格差の拡大や政治の不安定化等々、世界中がカオスの中にいることを実感させられる一年でした。加えて年末には、国内でも、最大の環境破壊と言われる戦争への扉を開きかねないような防衛政策の大転換、福島を忘れたかのような原発回帰政策、大雪被害など、明るいことを書きたい新年号を書く手もなかなか進みませんでした。

 

そうした中にあっても、世界では危機を乗り越え前に進もうとする動きも見られます。例えば、7月には『清浄で健康的、かつ持続可能な環境を普遍的な人権とする』国連総会決議がなされました。1972年の国連人間環境会議でも「国民には尊厳と幸福な生活を許容する質の高い環境を求める権利がある」とされていましたが、今回は国連総会での決議であり、より健全で持続可能な環境を、普遍的な人権として合意した点は画期的な進展です。11月のCOP27でも気候変動は人権の問題として議論されるなど、より健全で持続的な環境が人間の生存にとって不可欠な人権として明確に位置づけられたことは、当たり前のこととは言え、やはりうれしいことです。

またOECDは「Education2030」として、これからの子どもたちは、個と社会の繁栄や持続可能性、ウェルビーイングに価値を置き、分断よりも協働、短期的利益よりも持続可能性を大切にし、責任と権限を育む教育が必要としています。

様々な危機の中にあっても、世界は、人間の生きる基盤である「環境」の価値を高く位置づけ、教育の力を信じて次世代にも持続可能性の探求を求めていることは救いです。

そうした中、当会はこの9月に満30周年を迎えます。それを機に昨年は会員アンケートを行い、多くの会員さんからご回答を頂きました。励ましのお言葉と併せて、今後も、持続可能な社会という幅広い観点から今の活動をより深化させ当会にしかできない環境や持続性、価値観の転換について発信と探求を継続するようにとのご意見も多く頂きました。

振り返ると、確かに30年前と比べて、専門家やNPOの間では環境の思想や科学も進み、情報も充実してきました。また、「30年前から環境文明が訴えていたことが現実になっている」との声も聴かれるなど、気象災害の頻発を受けて市民の間でも以前と比べて不安感は広まっています。しかし環境問題だけでなく、30年前にはさほど深刻ではなかった貧困や格差など様々な社会的課題が山積し、利便さと引き換えに得た“忙しい生活”と“フェイクも含め溢れる情報”の中で、人々の関心も多様化し、環境の危機に真摯に向き合い、省エネやそれを超えた社会的行動を起こす人は残念ながらあまり増えていません。

実際環境省の調査でも、学校では授業時間の確保が難しく、従来からの狭い意味での環境教育が主で、持続可能な社会に向けた教育という広い観点からの教育はあまり実施できていないという結果でした。また市民の間でも学びたいとの意欲はあるものの、ニュースやインターネットなど限定的で断片的な学びしかないために、行動変化、特に社会的な行動変化にはつながっていないとの結果でした。昨年12月号で増井利彦氏が「どうすれば気候変動問題により多くの方が関心を持ち実践してくれるか」と記していましたが、全く同じ難題を抱える当会でも、簡単な解決策はなく、今年も試行錯誤が続きそうです。

とはいえ、止まるわけにはいきません。

例えば、政策提言では、昨年「環境プラス立国」を提案し賛同者を募ってきましたが、これをより進めるため、賛同者を増やしつつ、中身を具体化する検討も必要で、これまでのように事務局先導ではない部会を立ち上げることも一案です。随分前ですが、環境教育等推進法成立に向けた活動では、約20名の会員さんが広報班と政策班に分かれて活動し成立にこぎつけた経験があります。そんなことが今回もできればと考えています。

また、関心を持ち行動してくれる人を増やすには、普及啓発も従来の会報やミニセミナー、研修以外の方法も考えなければなりません。例えば、事務局では無料の出前講座を行っており、自治会や友人の集まりや学校での授業などご紹介頂ければ伺うこともできます。またご自身がそうした場をお持ちの方には、単に環境問題だけでなく、当会が提案している「脱炭素時代を生き抜く覚悟と責任」や「知恵の和」(いずれもWebに掲載)なども活用して意見交換などすると、問題の本質が伝わり自分事として考えてもらえるきっかけになるように思います。勿論ミニセミナーや「環境プラス立国」活動も普及啓発の一環ですので、関心のある方をお誘い下さい。

ただ、いずれも事務局だけでできることには限界があります。会員の皆様、特に「この法人の目的に賛同し、運営に従事するために入会」して下さった正会員の皆様、アンケートで「会の活動状況を周囲にも伝え会員獲得につなげる」とご回答下さった方、そして専門家の会員の方々にもご協力頂きたいのです。

昨年12月11日付毎日新聞に『議論を避ける日本人』という長谷川真理子氏の記事がありました。欧米に比べ環境への関心が行動につながらない一要因に、学校、社会、企業での十分な議論がなく環境問題が自分事になっていないことも関係ありそうです。また「今日、人々は己の生の意味付けや幸福を自ら定義し、自分の力でそれを実現しようとはしなくなった。」とは、佐伯啓思氏の言葉です(朝日新聞12月24日)。そうではない人々がいることを信じて、本年は会員の皆様と共に、当会での議論と内容を少しでも広げる1年にしたいと願っています。引き続き、ご支援ご協力をお願いします。