1993年11月号会報 巻頭言「風」より

戦慄のカーブ

鈴木 猛


大昔からの人口増加グラフを見たときの戦慄を忘れない。200万年前の人類出現以来ついこの間まで、人口の増加はゆるやかだった。水平線と平行なその直線が17~18世紀に入って鎌首をもたげる。1993年の現在で55億、今後の予測カーブは、ほとんど垂直に上昇し、2025年には85億、2050年には100億に達する見込みという。

地球上の動物の個体数は、長い目で見ればどの種も定常に保たれている。食物連鎖に組み込まれているから勝手に増えることができない。相互に均衡して恒常を保つ世界だと生態学は教える。

ところが、人の例外的な増加が始まった。そのとばっちりで生物種は次々と絶滅に追い込まれている。種が絶滅するのは、繁栄を誇った恐竜が消えたことからも分かるように、珍しいことではない。大昔からたくさんの種が滅びてきたが、その空隙を埋めるように新しい種が誕生し、種数が大幅に減ることはなかった。

それが、今世紀に入って、絶滅種数のカーブが鎌首をもたげてきた。そのカーブが人口増加のカーブとなんと似ていることか。

ひたすら上昇する事象は、生物的なことだけではない。20世紀後半は経済成長が各国の合い言葉になった。毎年3%ずつ成長すれば、50年後には4.4倍、5%なら11.5倍になる。これまた幾何級数的倍増だから、ここにあげた2つのカーブによく似ている。

このように一直線に上昇していったら、有限の地球ではスペースも資源もたまったものではない。人類の誕生から200万年、その間、人も他の生物もなぜ安泰に生き続けたのか。人口の増加率も経済成長率もゼロに近かったからである。それが増え始めたのは200~300年前の産業革命以後で、特に今世紀後半の50年が凄まじい。

救いはいったいあるのか。あるとすれば恐らくそれは、「一直線型」ではない「循環型」の文明を模索する方向であろう。