1994年4月号会報 巻頭言「風」より

住民参加におけるワークショップ

小澤 紀美子


日本では環境問題を学ぶチャンスは多くなってきましたが、人工的な環境を「どうつくる」かといった視点からの学習の場がほとんどありません。

欧米では住民参加による住まい・まちづくりが活発に行われており、それが環境学習の場にもなっています。日本ではどうでしょうか。まちづくりは行政と専門家がやるもので、一般住民は口をはさめないと思っている日本人が多いのではないでしょうか。

現在のまちづくりの仕組みは、行政がコンサルタントに依頼してつくった計画案を一方的に説明し、形式的に住民の意見を聞くといったやり方が大半で、環境にやさしいまちづくりの発想を取り入れたものはありません。例えば、東京の西部地区につくられた団地は6つの住区で構成されており、それを統制するためのコンセプトが北イタリアの山岳都市であるといいます。なぜ、日本の風土や文化を基底にし、環境を配慮した住まい・まちづくりができないのでしょうか。

日本は温帯モンスーン気候帯に属し、特に夏が高温多雨のために、湿度を配慮したパッシブ的な工夫による住まい・まちづくりが実践されていたはずです。

近代技術の進展と産業の仕組みの分断化は、生き物だけでなく水、土、大気なども含めた生態系を破壊しただけでなく、風土に根ざした地域固有の居住システムをも破壊してきているのではないでしょうか。

風土に根ざした住まい・まちづくりは、土や石など地域固有の材料を主材料としているので、省資源の要素が高く、さらに工業化された材料を使っていないので、省エネになっているともいえます。また街区では風の通り道を考慮したり、日射を防ぐ道路や樹木による日陰や空気の流れを起こす工夫により環境共生型になっているといえます。

何が住む人にとって健康的か、環境にやさしいかは、そこに住んでいる住民が最も良く知っているのではないでしょうか。住み手は風土に適応するためのさまざまなチエを働かせ、伝統や文化の蓄積の上に豊かな個性を生み出してきたといえます。

今、住民、行政、専門家が協同で議論を深め、計画案をまとめていくワークショップが住民参加の方法として注目されています。このワークショップによる住民参加により、自由で柔らかな発想と合意にいたるプロセスが環境学習としての場だけでなく、環境にやさしい住まい・まちづくりが実現することを期待したいものです。