1994年12月号会報 巻頭言「風」より

ザルツブルグ・セミナ-

加藤 三郎


今年の初め、ザルツブルグ・セミナ-というところから、講師として来てほしいというお招きを突然うけた。9月にやる「環境と外交」をテ-マとするコ-スの講師として、ザルツブルグの古い館に一週間滞在し、1回の講義のほか、エネルギー・気候変動問題分科会の座長をつとめることが私の役割であるという。他の講師としては旧知のブリンクホルスト氏(EC事務局の環境総局長のあと今年ヨーロッパ議会議員となる)やボ-レン氏(アメリカの国務省で環境や生物保護などの元担当局長。今はフリ-のコンサルタント)のほかにチェコスロバキアの環境大臣をつとめたバブロウチェク氏、さらにダウ・ケミカル・ヨーロッパ社の環境・安全担当の副社長フスラ-氏らの名があったので、一週間は長いなあと思いながらも、引き受けることとした。

9月2日の夕方、なにもかも美しい館に入った。250年前に建てられた館の広い一室が私の居室となり、すでに到着していた上記の講師陣と事務局とで早速、打ち合わせをかねた夕食会となった。その席上で、ザルツブルグ・セミナ-が第二次大戦直後、アメリカとヨーロッパとを文化的につなぐ架け橋として、三人の若い学生が館を会場にボランティアで始めたのが起こりで、その後今日まで主として米・欧の民間の力によって維持され、今回のコ-スはなんと319回目のセミナーであること、そして今回の研修生としてはヨーロッパのほかアメリカ、アフリカ、中東、アジアから計約60名、その多くは大学の先生、外交官、企業の幹部社員、NGOのリ-ダ-、研究者などであることを知った。

それからの一週間は、私にとってはまことに贅沢で知的な時間となった。全員が館に泊まっているので、朝から晩までが意見交換の場であるが、特に午前中は講師が1時間講義し、そのあと2時間、質疑やコメントの応酬の場となる。午後は分科会に別れて担当の講師を囲み、3時間前後のミーティングとなる。研修生といっても、大学の教授や外交官などだから意見の交換はきわめて活発だ。更に夜にはコンサ-ト(ここはモ-ツアルトの生誕の地だ)、オーストリアの環境大臣のスピーチなどの特別会合が用意されていた。

そのなかで、自然に話は文明論に及ぶことが何度もあり、もちろん私は当会のことを皆に話した。参加者の反応は予想外に大きく、多くの人から質問やコメントを受けた。最終日には、当会の活動を含め循環型社会(Sustainable Society)をつくるための各人の活動を年に一回報告し合い、国際的な連携を深め、拡めることを決めた。当会の活動も国際的に注目され、お互いに影響し合う日も遠からずこよう。