1995年7月号会報 巻頭言「風」より

高知の皆さま ありがとう

加藤 三郎


1年ほど前、高知の人々を中心に、本会の「四国支部」が発足した。そのきっかけとなったのは、役所を辞めて環境・文明研究所を設立するとともに本会の活動を開始した私のことが東京の通信社からの配信で地元紙に掲載された記事である。それを見た高知の人々が語り合って、ついに支部をつくったのである。以来、着実に活動を重ね、会員も次第に増えて100人をはるかに超した。

その四国支部は、昨年11月に支部発足記念講演会を、また本年5月末にはワークショップを開催している。特に今回のは、観光開発と環境保全がテーマということもあって、私たち本部の一行は前日に現地に入り、支部世話役の皆様による周到で温かい御案内のもと、観光地の一つ、室戸に向かった。

室戸といえば台風観測や遠洋漁業基地などで名高いが、私たちはまず岬の上の風力発電モデルプラント、次いで300m以深の海水(深層水)を直接汲み上げ、その効用や活用法を試験している県の施設を興味深く見学した。

室戸でもう一つ有名なのは、若き日の空海が修行のため一人滞留していたある明け方、心に観ずることがあって明星が口に入るという奇跡が起こった岬の突端の洞窟であろう。真言宗は私の家の宗旨でもあることから、昔からお大師様(空海)にはことのほか親しみと敬意をもっていたので、ここはぜひ見たかったのである。陽がやや傾き始めて、他の観光客もいない静寂のなか、この聖なる洞を訪れ得たのは誠にありがたくうれしかった。

寂々と雫したたる洞窟に
真言開きし人をぞ想ふ

高知市に戻る途中、とある美しい海岸に案内された。そこは、マリーナ施設建設事業が貴重なサンゴの群落に悪影響を与えるのではないかと心配され、事業を継続すべきかどうかについての県の判断が注目されていたからである。小高い浜辺に立つと、太陽は海に沈まんとしている時で、雲間からの夕日が波にきらめき、久しぶりに荘厳な夕映えに息をのむとともに、その波の下に生きるサンゴをいとおしく思った。

雲間から夕日射し込み黄金に
波間きらめくサンゴの海よ

高知の皆様、支部活動なにかと御苦労も多いことかと存じますが、全国の先がけとして立派な活動を展開されることを期待しています。また他の地域でもあるいは職域でも、それぞれの事情に合わせて会員同士の活動がひろがれば楽しいだろうなと思う土佐の旅でした。