1995年10月号会報 巻頭言「風」より

「考える会」三年目の思い

加藤 三郎


10月でもって本会も三年目に入った。この二年間をざっと振り返ると、最初の一年間は手探りで環境・文明論の切り口をぐるぐる探し、二年目になってようやく方向が見えてきたかと思う。あえて整理して言えば、本会が当面すべきことは、(1)地球の有限性と環境の破壊とが明確になってきた今、人が生き、経済活動をする上で何が重要かの尺度である価値観を再構築すること、(2)その価値観を反映して現在の制度のどこをどう変えるべきかの大綱を検討し、提言することを主体とし、(3)余裕があれば新文明で必要な技術の革新を応援することかと思う。

(1)については、完全なる循環型社会であった江戸時代を勉強するとともに宮澤賢治の思想や感性に直に触れるために岩手のゆかりの地を訪ね歩き、ワークショップを催して賢治の精神をわれわれの価値観づくりに活かすみちを探ってみた。

その一方で環境倫理を確立するための研究グループを会のなかに設け、勉強を重ねるとともに会員の皆様を対象に環境倫理に関するアンケート調査を実施した。その結果は、本誌でも何度も報告している通りであるが、一言で言えば、「環境倫理」という言葉にはいろいろと問題はあるものの、そのようなものが地球環境時代を生きる人間の知恵として是非必要であること、そしてそれはできるだけ具体的で理解し易いものでなければならないがその理念はしっかり固めておくべし、とするものに集約できよう。

このような結果をうけ、三年目には環境倫理問題を主とする新しい価値観づくりに一層力を入れるつもりである。私個人としては、「経済」というものを短期的な利害の上に置くのではなく、人類社会の持続性という観点から組み替えることに関心を有するが、心の問題など他の問題に関心を寄せる会員も多かろう。いずれにせよ、価値観の問題は多面性を有するので、いろいろな観点からのアプローチを期待している。

この関連で、お知らせしているように来年1月、ハワイで日米合同のセミナーをアメリカのパートナーに当たるグループと開催することにしているが、この機会に環境問題に関する物の見方、考え方や価値観・ライフスタイルをめぐる日米の考え方の異同も知ることができよう。

(2)の制度問題については、会としてはこれまでも技術や静脈産業の問題を取り上げ、多少の検討はしたが、まだまだ緒についたばかりであり、これから先の課題である。

これまで多くの会員から、きわめて熱心な参加と声援を受けここまで辿ってこられた。会員の皆様の支持がある限りは会を維持し、当分は上記のような方向で「考え」つづけてゆきたいと念じている。いずれにせよ数世紀に一度位の大変革を迎えることになろう。本会の活動も、これから「佳境」に入ることになる。