1996年3月号会報 巻頭言「風」より

21世紀へ向けての3×3(サンサン)マトリックス

加藤 三郎


この10年ほどの間に顕著になった地球環境問題がわれわれに明瞭に語りかけているのは、人間社会が病気にたとえれば、一過性の風邪や腹痛などではなく、糖尿病のような重篤な病気に患ってしまったということであろう。われわれは、まず、20世紀文明が抱え込んでしまったこの病を深く自覚し、社会が失明や死に至らないようこの病を克服する道を皆で探求することが最重要である。

それには私は、少なくとも価値観の転換、制度の変更及び技術の革新が三つのツボと考え、そこに同時に働きかけるのが必要と考えている。またこれらの変化の方向は、循環、共存、そして抑制の三つのキーワードに代表されるものであろうと考えている。これらを組み合わせてマトリックスをつくると次表に示すようなものとなる。これは、私が今考えていることの例示にすぎないが、このマトリックスの内容が、会員の知恵をいただいて、濃く有力なものになることを願っている。

三つのツボ

三つのキーワード
価値観の転換 制度の変更 技術の革新
循 環
  • 「経済」の中身を問い直せ
  • 短絡的な利益でなく、長期の持続性を尊重せよ
  • リサイクルや自然への還元に重きを置け
  • 環境学習や研修を通じて、現行制度の問題点と変革の方向を探れ
  • ドイツ・タイプの循環経済法を導入せよ
  • 環境・静脈産業を育成せよ
  • ソーラー、合併処理浄化槽、電気自動車、風量区発電などの循環型の技術を鍛えよ
共 存
  • 生きとし生けるものの生命を大切にする生物観を普及せよ
  • すべての人を「地球市民」として助け合い、人類社会の持続性を図れ
  • 生物多様性の保護法制・行政組織を強化せよ
  • 環境ODAによる資金面、技術面、人材面での支援を強化せよ
  • 南への技術移転、共同開発を強化せよ
  • 合併などにより民間技術の移転を支援せよ
抑 制
  • 「もったいない」という感覚を広めよ
  • “環境倫理”の確立と普及とにより、貪欲を抑えよ
  • 環境コストを価格、料金などに徹底的に内部化せよ
  • 環境負荷に対し、税・課徴金を導入せよ
  • 技術者教育を改めよ

(加藤三郎著『環境と文明の明日』より)