1997年2月号会報 巻頭言「風」より

「制度部会」を動かそう

加藤 三郎


昨今の株安、円安、巨額の財政赤字、消えぬ不良債権、それに加えて政治の混迷や官界の不祥事などが打ち重なってか、多くの人、それもエライ人の口から、日本は危機だということがしばしば言われるようになってきた。報道によれば橋本首相も豊田経団連会長も、それぞれ「危機」に言及しているという。

これらのリーダーが何をもって「危機」とおっしゃっているのか詳しくは知る由もないが、私達も「危機」の強い認識から3年半前に当会を始めた。しかし私達の場合は、株だ、円だ、不景気だ、不祥事だなどが危機の理由ではない。

地球人口の急増の下で、科学技術と人間の欲望とが止めどなく膨張し、ついに地球環境の限界にぶつかってしまい、その結果は地球環境の悪化、異変として様々に顕れてきているのに、大多数の人も政治家もこれを直視しようとせず、これまでの経済成長一本槍のやり方でなんとかなると思っていることこそが、「危機」の最たるものと考えてきた。

私達はこの3年半この危機にどう対処すべきかを手探りで考え、論じてきた。その結果、一つには、人間が生きてゆくうえで何が大切なのかの尺度である価値観を再検討すべきこと、二つには、憲法から諸法令などを含む社会の枠組みとなっている制度を手直しすべきこと、そして三つには、21世紀の循環型社会形成に役立つ技術を開発すべきことの三つの戦略目標を見定めることができた(「3×3マトリックス」1996年3月本誌参照)。

このうち、第一の価値観に関しては、全会員に対するアンケート、ワークショップさらには当会に設置した環境倫理グループでの約3年に及ぶ勉強を通じて、一応の意見形成をした。今年中にはそれらの成果を出版などを通じて、広く会員外にも知らせ、議論の輪を広げ、深めたいと思っている。

そこで、いよいよ「制度」問題にも踏み込むべき時がきたと私は考える。そのため、この春から、当会に「制度部会」をつくり、活動を開始すべきことを提案する。この部会では、例えば、(1)本会が取り上げるべき「制度」問題とは何かの整理(私個人は、憲法と税制とに関心あり)、(2)それをどういう方法と段取りで検討を進めるか、その際支部や女性部会はどう関係するかなどを明らかにしていただき、必要に応じてテーマ毎に分科会なども設けて、大胆にすすめてほしいと思う。

いずれにしても会員の自主的な参加と英知とによって、21世紀の日本社会のあり様を私達なりに準備しようではないか。どうせ霞が関や永田町には、このような基本的な問題への対応は当分は期待できないのだから。幕末の江戸社会の行き詰まりを打破したのも、佐久間象三、吉田松陰、坂本龍馬らのNGOだったことを今一度思い起こそうではないか。